バックオフィス部門の評価制度づくりに乗り出すにあたり、まずはルールに従って社員が業務に臨んでいるかを確認しましょう。例えば、本来は課長が決済すべき内容について、特段理由もなく部長が決済しているような会社はありませんか。社員の間にルールに基づいた動きをする意識がないと、改革に乗り出そうとする経営者に社員が従おうとせず、評価制度の構築には進めません。
この大前提を押さえたならば、次のステップとして、バックオフィスの各ポジションの仕事内容を明文化しましょう。「いつまでに、何をすべきポジションなのか」を誰の目からもずれがない形で定義し、チェックリストにまとめるのです。
そのとき、経理担当なら「毎月できるだけ早く月次決算業務を終える」では不十分です。「毎月第2金曜日の17時までに月次決算業務を終える」という形にします。人事であれば「大規模な母集団をつくる」ではなく、「3カ月間で応募者を100人集める」にするべきでしょう。
このように、定量的に可否が分かる形を、我々は「完全結果」と呼んでいます。完全結果にすれば、誰もが評価に納得せざるを得ません。バックオフィス部門の評価はあいまいになりがちですが、優秀な人をイメージし、仕事の内容を完全結果で表せば、成果が見えにくいバックオフィス部門の評価を明確にできます。
チェックリストが完成した後、詳細な説明が必要な場合はマニュアルと業務フローも併せて用意します。業務フローは、勤怠管理のように他部署を巻き込む業務の際に作成するといいでしょう。どのタイミングで誰に依頼をするか、各部署の責任範囲はどこまでかを決めておくのです。チェックリスト、マニュアル、業務フローの作成は、現在の業務の棚卸しになりますので、半年程度はかかると考えておきましょう。
しかし、仮に現時点で問題がなくとも、技術や知識が属人化して特定の社員にしかできない業務が増えると、不測の事態が起きたときに対処できなくなります。また、暗黙の了解を知らないまま配属された新人は、事あるごとに周囲に話を聞き回らなければなりません。それは、無駄以外の何物でもなく、離職の原因にもなりかねません。
評価は減点と加点を併用
バックオフィス部門内にチェックリスト、マニュアル、業務フローが完成したら、いよいよ本格的な評価制度の構築に移ります。
日々の業務の速度・正確性の向上につながる取り組みや、会社への貢献度の高い仕事を評価するようにしましょう。
つまり、ミスの件数とプラスアルファの行動量を評価対象にするのです。
例えば、ミスは上司の判断によってマイナス1~3点と定め、それとは別に他部署に迷惑をかけたらマイナス3点、お客さまに迷惑をかける重大なミスはマイナス5点とします。
ただ、このままだとミスを隠蔽しようとする社員が出てしまうため、報告なく後からミスが発覚したらマイナス10点とします。「ミスがあったらすぐに報告」が鉄則です。
以上を踏まえ、持ち点は30点からスタートし、20点以上を合格ラインとします。そして、ポジションごとの点数に応じた給与テーブルも作ってください。
プラスアルファの行動量は、「上司からの指示で実施した調査・資料作成を、上司が求める形で期限内に実施したらプラス1ポイント」のように設定します。電話応対や来客対応のようなルーティン業務はできて当たり前のため、基本的に評価に入れません。
バックオフィス部門の評価を減点方式のみで行う企業もありますが、お勧めしません。もし、期初に大きなミスを犯してしまったらその社員がいきなりやる気を失ってしまいかねないからです。加点方式も併用して、マイナス分を取り戻せる機会を与えましょう。
効率化やコスト改善も評価項目に
行動量とミスの件数に対する評価がうまく回り始めたら、いよいよ最後のステップです。業務効率化とコスト改善に関する取り組みを評価項目に加えます。
例えば、「年間300万円分経費を削減したら、1件の業務改善として認めてプラス5ポイント」などの基準を設けます。
ただし、最初は「新しいソフトウェアを導入する」といった簡単な提案も認めてあげましょう。バックオフィス部門のメンバーは与えられた業務をこなすことが求められ、改善の提案に慣れていない場合が多いからです。
提案が承認され、導入される経験は成功体験となり、メンバーの自信につながります。
ルールやマニュアルの見直しが業務改善につながるケースも多いです。ルールやマニュアルは生き物のようなもので、時とともに変わっていきます。使わなくなったら廃止し、新しくしましょう。
バックオフィス部門の評価制度の構築に乗り出してから、業務効率化やコスト改善を進められるようになるまでには、2年程度を要します。焦らずじっくり取り組むことが肝心です。
管理職の評価方法とは
バックオフィスに限った話ではありませんが、管理職を末端のプレーヤーと同じように評価してはいけません。例えば、課長には「課のメンバー全員が四半期の評価で20点以上を獲得する」、「毎月2件以上の改善提案を出す」といったように、メンバーの役割を含む仕事内容を与えます。
課長がそれをどうやって達成するかは自由です。自分でやってもいいですが、基本は課のメンバーに任せる形になるでしょう。他の管理職もそれぞれのポジションに応じてチェックリストを作ってください。
また、管理職は部署内でコントロールできる業績の評価を8割程度にし、残りの2割を会社全体の売り上げや利益への貢献度合いによって点数を与えるといいでしょう。こうすることで、自チームの成績だけにとらわれず、会社全体の業績に貢献する意識を持って働けるようになります。
評価制度改革で利益が10倍に
バックオフィス部門の評価制度が整うと、会社全体が戦略的に動けるようになり、業績の向上につながります。最後に、70年以上続くある建設会社の事例をご紹介します。
その会社は社員数20人程度で、数年前に現在の代表が会社を継ぎました。売上高は長年、下降の一途をたどっていたばかりか、一時は債務超過に陥っていました。
それなのに、バックオフィス部門は我関せずで危機感が一切なく、給与の振り込みや請求書管理を担当するだけで、明らかに手が空いていたのです。
そこで代表は、元々は営業職の仕事だった見積書の作成、新規顧客へのアポイントの獲得、顧客へのフォロー対応といった業務に点数を付け、稼いだ点数に応じて評価・給与が上がる形にしました。
これによって、バックオフィス部門が率先して上記の業務を担当するようになり、手の空いた営業は商談に集中できるようになったのです。
新しい評価制度の運用を始めて半年後の決算では、売上高が前期比137%増、経常利益は10倍以上に伸長。税理士や銀行関係者に驚かれたそうです。もちろん、債務超過も脱しました。
強調しておきたいのは、この会社が特別ではないという点です。どのような会社であれ、バックオフィス部門が機能すれば劇的に経営状態が改善するチャンスがあります。
ぜひ、本記事を通じてバックオフィス部門の評価制度の整備に取り組んでください。
上野誉士さん
識学シニアコンサルタント
鹿児島大学を卒業後、鹿児島銀行に入行。その後は実父が営む事業の再建を託され、家業の消防設備会社に代表取締役として従事。2020年4月に識学に入社。
(※構成・平沢元嗣)
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