目次

  1. ブレーンとは
    1. ブレーンの意味は
    2. 外部ブレーンと内部ブレーンの違い
    3. ブレーンとメンターの違い
  2. ブレーンの役割・機能
    1. 意思決定の支援や補完機能
    2. 諫言やリスク提示機能
    3. ビジョン達成のための計画立案・マイルストーンの設定機能
  3. ブレーンを持つタイミング
  4. ブレーンの活用事例
    1. スタートアップにおける内部ブレーン活用事例|株式会社パワーウェーブ
    2. 後継者の成長促進における外部ブレーン活用事例|有限会社五戸木工
  5. ブレーンを持つときに考えたいポイント
    1. 相手を真に信用できるかどうか
    2. ブレーンとしての資質や能力が適正かどうか
    3. 経営者のビジョン、理念に真に共感してくれるか
    4. ブレーンの発言や提案を真摯に受け止める覚悟があるか
  6. 良いブレーンを得るには経営者自身の素直さが必要

 ブレーン(ブレイン)とは、経営者のビジョンを実現するために支援する右腕的存在のことです。ブレーンは経営者の最大の理解者であり、その意思決定のサポートや企業経営の補佐を行います。

 「彼はあの会社のブレーンだ」「A氏はB氏のブレーン的存在だ」といった形で使われます。

 ブレーンは脳を意味する「brain」という単語が語源で、経営者の「外部の脳」とも呼べる存在です。学術的な定義はなく、参謀や腹心、右腕とも呼ばれます。

 ブレーンはブレーンとしての役割だけを担うのではなく、専門的知見を有するアドバイザーや顧問、有識者がブレーンの役割を兼ねることもあります。

 これらの存在は、基本的には、短期的にアドバイスを行うものです。しかし、継続して経営者と対話を持ち、協力的な関係を長期にわたって継続している場合は、ブレーンとしての機能も備えているといえます。

 ブレーンを持つには、組織外部から得る場合(外部ブレーン)と、組織内部から得る場合(内部ブレーン)があります。

外部ブレーン 内部ブレーン
専門家としての見解や事業の経験から意見交換、助言をするために招かれた存在 経営者と同じ組織での経験を有する立場から、経営者の意思決定を支援する存在

①外部ブレーン

 外部ブレーンは、経営者の求めに応じて専門家としての見解や事業の経験から意見交換、助言をするために招かれた存在です。のちに社内の人間になることもありますが、当初は組織外の人間としてバイアスのない立場から経営者のビジョン達成のためにサポートします。コンサルタント、技術者、業界経験者、有識者、士業などがこの任に当たることが多いでしょう。

 外部ブレーンの有名な例では、コンサルタントとしての立場から経営者・国家戦略にブレーンとして寄与する大前研一氏や、「コンビニの父」と呼ばれ外部から役員に就任しセブン&アイ・ホールディングス拡大に寄与した鈴木敏文氏などが挙げられます。

②内部ブレーン

 内部ブレーンは、経営者と同じ組織での経験を有する立場から、経営者の意思決定を支援します。外部ブレーンのような清新な意見を求められるというよりは、組織の現状を正しく理解し、その中でどのようにビジョン達成していくかといった調整能力が求められます。組織においては、秘書や経営企画がこの役割を担うことが多いようです。

 株式会社ブリヂストンで最も苦難の時期のかじ取りをした家入昭社長を支えた荒川詔四氏、ヤフー株式会社(LINEヤフー株式会社)の宮坂学氏が交渉の実務役として指名した川辺健太郎氏などは、内部ブレーンの好例といえるでしょう。この二人はのちに代表取締役に指名され、経営者としても手腕を発揮しています。

 メンター(Mentor)は「支援者、助言者」と訳され、メンティー・プロテジェ(支援を受ける人)と呼ばれる立場の人に助言、指導する役割を負う存在です。

 メンターとブレーンは共に経営者に対して助言する立場ですが、メンターがいわば経営者よりも上位・指導的立場で精神的な成長を促す役割を担うことが多いのに対し、ブレーンは経営者の外部の脳として、対等な立場から経営者のビジョンの実現を支援する役割を担うことが多いという違いがあります。

 ブレーンが担うとされる役割や機能には、以下のようなものがあります。

ブレーンの役割・機能
・意思決定の支援や補完機能
・諫言(かんげん)やリスク提示機能
・ビジョン達成のための計画立案・マイルストーンの設定機能

 代表的な三つの機能を詳しくご紹介します。

 経営者に対し主体的に情報提供を行い、また壁打ち(漠然とした想いやアイデアなどを他人との対話を通じて整理・吟味すること)やブレーンストーミングなどの相手役になることで、経営者の意思決定にあたって必要な思索を十分行えるように支援します。

 あくまでも経営者の味方としての立場を崩さず、デビルズ・アドボケイト(反論の投げかけ)を行ったり、論旨の歪みを補正したりすることもこの機能に含まれます。

 経営者の言動に対し、必要に応じて非を諫めることは、ブレーンの重要な機能です。また、情報収集を行い、経営者の思考・言動を周囲がどう受け止めているか、理解度は十分かなどを分析して客観的に伝えます。

 経営方針も含め、リスクが生じる場合にはあらかじめ想定して伝えておくこともブレーンの役割に含まれます。

 経営者のビジョンを達成するための計画を立案し、マイルストーンを作成します。実行ベースに落としたときに、どのようなフェーズ・工数が発生するかを見積もることで、経営者のアイディアや理想が現実的に達成できる目標として設定されます。

 ブレーンを持つタイミングは経営者によってさまざまですが、下記のようなタイミングでブレーンを持つ必要性を感じる経営者が多いようです。

ブレーンを持つタイミング
・新規事業を立ち上げるなど、自分自身の視野を広げる必要性があるとき
・事業承継など経営者として成長することを求められたとき
・経営者が一人で事業を経営することに限界を感じたとき

 実際に経営者がどのようにブレーンを活用しているか、具体的な事例をあげてご紹介します。

 大学発ベンチャーとしてワイヤレス給電の普及を進める株式会社パワーウェーブでは、技術研究者である代表取締役を支える副社長に銀行出身で人材採用サービスの経営者でもある種田氏を迎えました。

 相互の得意分野を活かし、代表取締役と共に投資家への提案も含めた資金調達や人事制度構築にも着手。技術や理念偏重になりがちなスタートアップにおける組織基盤を固めています。

 創業60年、地域密着の建具屋である有限会社五戸木工。その後継経営者である中野氏は、自身の経営者としての成長を支援してくれる人材が必要だという考えに至り、公認会計士を外部ブレーンとして活用しました。

 経営者から持ち込まれた新商品開発のアイデアや悩みに対し、必要なリサーチやマーケティングの視点、経営の視点から考えるべきことなどを提言することで、スムーズな新規事業の立ち上げに寄与しました(参照:【地域事例集in青森】老舗建具屋の跡継ぎの不安をチームの力で支える。地域に開いた結果、新しい可能性が広がった。|ふるさと兼業)。

 経営者にとってブレーンを持つことは有用ですが、ブレーンを持つことによる失敗もあります。ここでは、ブレーンを持つ際に考えておきたいポイントを紹介します。

 経営者にとって、ブレーンは意思決定を共にする存在です。そのため、新たにブレーンを持つ場合は、その相手が信用できるかどうかの見極めが重要です。

 例えば、下記のような相手はブレーンとして迎えるべきではありません。

ブレーンに向いていない相手
経営者と二人だけで話すことを好み、組織における経営者と社員の意思疎通の阻害要因になるような相手 経営者と話すときにその人物を通さないとならないような場合は、どんなに有意な意見交換が出来たとしても組織にとって害になります
経営者と組織のことだけを考え、視野が狭い相手 組織に理があったとしても、人権デューデリジェンス、コンプライアンスなどの観点において問題があるような施策を提案してくる相手は、長期的観点では組織にとって害になります

 経営者と同じ視座で意思決定を支える存在であるブレーンは、経営者と同様の人望や能力が求められます。また、経営者の資質・能力を補完するような経歴や実力があるかどうかも大切な要件になります。

 ブレーンを探す方法としては、知人からの推薦や紹介、人材紹介サービスの活用などのルートがあります。それらの依頼に当たっては、経営者自身が自身に足りない資質、補いたい要素をしっかりと洗い出しておきましょう。

 ブレーンは大切な自社の情報を開示することになる相手ですので、経歴や保有資格、人柄までしっかりと見定めておく必要があります。

 経営者自身のビジョンや理念、想いに共感してくれるブレーンであるかは重要です。ブレーンは経営者の代わりにそのビジョンの実現のため、説明や調整を担う場合があるためです。

 難しい立ち回りを要求されるからこそ、ブレーン自身が経営者に真に共感しているかどうかは大切な要素になります。

 先に見た通り、ブレーンの役割の一つには諫言という要素があります。ブレーンの言葉は決して耳障りの良いものばかりではなく、むしろ経営者に直接届かない情報を収集する役割も担います。

 そのため、まずは経営者自身にその発言や提案を受け止める覚悟が必要です。

 ブレーンは経営者と一体となってそのビジョンの実現を担っていく存在です。つまり、ブレーンは経営者と同程度の視野・能力を持つ必要があります。

 良いブレーンを選び、また選ばれるためにも、経営者自身が驕らず謙虚に諫言を受け入れる素直さを持ちましょう。