雇用期間とは?無期転換や法改正後の契約書記載ルールを社労士が解説
雇用期間(雇用契約期間)には、無期雇用と有期雇用があります。有期雇用は、育児介護休業などの欠員に対する人員と人件費の最適化が期待できる一方、雇止めトラブルなどが懸念点です。この記事では、2024年の法改正を踏まえて雇用期間に関するルールを社会保険労務士が解説します。
雇用期間(雇用契約期間)には、無期雇用と有期雇用があります。有期雇用は、育児介護休業などの欠員に対する人員と人件費の最適化が期待できる一方、雇止めトラブルなどが懸念点です。この記事では、2024年の法改正を踏まえて雇用期間に関するルールを社会保険労務士が解説します。
雇用期間とは、企業と労働者間で締結する雇用契約の期間をいいます。雇用期間には、雇用契約が有効である期間を定めた「有期雇用」と、期間を定めない「無期雇用」の2種類があります。
無期雇用とは、人材育成に取り組み企業に長期的な貢献を期待する社員について、期間を定めずに契約する方法です。一般的に正社員といわれる人は無期雇用であることがほとんどでしょう。
一方、有期雇用は雇用期間を1年や1カ月とするため、人に係る費用の計画を立てやすくなります。また、一時的であることを理由に人件費設定が行いやすく、より良い人材採用につながる可能性もあります。
ここでは、雇用期間の設定方法やメリット・リスクといった基本的なルールについて紹介します。
雇用期間の設定は、有期雇用の場合に必要となります。有期雇用の多くは、短時間勤務の人や学生です。企業と社員の双方が、長期的な雇用には期待せず、ライフスタイルや環境の変化によって働き方を変えたいという場合に適しています。
有期雇用期間の上限は原則3年です(参照:労働基準法第14条|e-Gov法令検索)。例外として専門的知識等を有する労働者、満60歳以上である労働者は5年とされています。なお、企業と社員双方が合意すれば、契約更新は可能です。
一方で最短の雇用期間は法律で定められていません。そのため、雇用期間は1日から3年で設定できます。後述する無期転換ルールの基準が5年であることを踏まえると、雇用期間を有期とした人材については最長でも5年が限度と考えておくとよいでしょう。
有期雇用契約のメリットは、一時的に人手が欲しいときに人員を補充できる点です。プロジェクト期間のみの人員確保や、育児・介護休業で人員が足りないが数年後には戻る見込みがあるといった状況では、人件費を抑えつつ状況を乗り越えることができます。
リスクは、有期雇用社員が多くなると社内に人材が残らない可能性やノウハウが蓄積されにくい点です。「数年で辞めるから……」と企業と社員双方のモチベーションが上がりにくかったり、引き継ぎやマニュアル作成途中で期間が満了したりすることが考えられます。
有期雇用契約には、無期転換ルールがあります。労働契約法第18条によると、有期雇用契約が更新されて通算5年を超えたとき、その雇用期間が満了するまでに社員側が申し出ることで企業の意向と関係なく無期雇用に転換されると定められています(参照:無期転換ポータルサイト|厚生労働省)。
無期転換ルールを適用する際は、企業側に以下の対応が必要です。なお、このルールは企業の規模には関係しません。
無期転換ルールで無期雇用となった社員の処遇は、有期雇用契約時と同じ労働条件で雇用契約期間が無期とする(無期転換社員)パターンが多い傾向です。とはいえ、次のような対応になることも考えられます。
多様な正社員制度を適用する場合は、就業規則への記載が必要です。多様な正社員制度がなくとも有期雇用で働く人がいる場合には、有期雇用契約社員・無期転換社員・正社員の定義は就業規則に記載しておくようにしましょう。
すべての労働者は、採用や雇用されるときに「雇用契約書(または労働条件通知書)」で労働条件を確認してから契約を締結します。雇用契約書については、2024年4月に労働条件の明示について法改正がありました(参照:令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます丨厚生労働省)
雇用契約書で明示すべき事項は次のとおりです(⑦から⑭は企業が定めた場合に明示が必要)。このうち②と③が法改正でルールが変更された点です。
明示事項 |
---|
①労働契約の期間 |
②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準(☆変更点) |
③就業の場所及び従事すべき業務(☆変更点) |
④始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等 |
⑤賃金、昇給 |
⑥退職 |
⑦退職手当 |
⑧臨時に支払われる賃金、賞与及び最低賃金等 |
⑨労働者に負担させるべき食費、作業用品その他 |
⑩安全及び衛生 |
⑪職業訓練 |
⑫災害補償及び業務外の傷病扶助 |
⑬表彰及び制裁 |
⑭休職 |
新ルールは次の3点です。
それぞれ記載例を交えて解説します。
このルールは、通常想定される就業場所や従事すべき業務を明示するものです。転勤の可能性がある場合には、転勤先の事業所を記載します。
【記載例】就業場所・業務に限定が無い場合 | |
---|---|
就業場所 | (雇入れ直後)〇〇事務所 (変更の範囲)会社が定める場所(テレワークを行う場所含む) |
従事すべき業務 | (雇入れ直後)営業・事務 (変更の範囲)会社が定める業務 |
ただし、臨時的な他部門への応援業務や出張、研修といった一時的に変更される際の場所や業務は書かなくともよいとされています。
このルールは、雇用期間を有期とする雇用契約の締結時や、契約更新時に通算契約期間もしくは更新回数の上限を明示するものです。
従来は、契約更新の有無と更新がある場合の判断基準のみを記載していました。しかし改正後は、更新がある場合の上限有無と内容の記載が加わっています(参照:労働条件通知書|厚生労働省)。
また有期雇用について、更新上限に関する変更を行う場合は、対象社員への説明が必要です。具体的には、当初は更新上限を設けていなかったのに次の更新時から上限を設けたり、既存の上限期間・回数を短縮したりする場合が該当します。
このルールは、有期雇用の契約更新時に、今回で通算雇用期間が5年を超える人について「無期転換の申し込みができること」と「無期転換後の労働条件」を書面で明示するものです。
無期転換ルールと転換後の労働条件をあらかじめ社員に通知しておくことで、無期転換申込を本人に判断してもらいます。
下記画像の【労働契約法に定める同一の企業との間での通算契約期間が5年を超える有期労働契約の締結の場合】がこれにあたります。
また、企業の留意点としては、有期雇用契約している社員からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならないことが挙げられます(参照:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律〈パート・有期労働法〉第16条|e-Gov法令検索)。
有期雇用契約を更新せずに雇止めとなる場合、トラブルに発展しやすいため注意が必要です。雇止めとは、有期雇用について雇用期間満了により雇用契約を打ち切ることをいいます。継続雇用を期待する社員と、有期雇用で計画していた企業とのミスマッチにより、雇止めトラブルは発生します。
有期雇用や雇止めをめぐるトラブルが多いことから、行政指導を行う基準として「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」が定められました。ここでは、この基準から注意点を3点紹介します。
企業は、次のいずれにも該当する有期雇用社員に対し、契約の実態や社員の希望に応じて契約期間を長くするよう努めることが求められています。
なお、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」は法律ではありませんが、行政指導の基準であるため、悪質な場合には都道府県労働局や労働基準監督署の指導が行われる可能性があります。
こちらも「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」に定められています。
上記のいずれかに該当する有期雇用社員については、契約期間満了の30日以上前に予告することが必要です。
雇用期間満了による雇止めであっても、求められた場合は雇止め理由の明示が必要です。これは雇止めの後から請求された場合でも明示しなければなりません。
なお、雇止めの主な理由として、下記が挙げられます。
雇用期間が定められている以上、期間満了にしたがって雇用契約が終了(雇止め)するのが原則です。しかし、実質的に無期雇用と変わらない状態になっている場合や、雇用継続に対して合理的な期待がある場合には例外となります。このようなケースでは、労働者保護の観点から、企業は社員からの再契約の申し込みを拒絶できません(参照:労働契約法第19条|e-Gov法令検索)。
雇止めトラブルを防ぐためにも、締結・更新の度に雇用契約書を見直し、有期雇用社員とコミュニケーションをとっておくようにしましょう。
無期・有期の雇用期間を適切に採用することで、企業は人件費と福利厚生費を抑えつつ、人員を確保することができます。ここでは、中小企業に適した戦略的な活用法として2点を紹介します。
「雇用期間の設定方法」で前述したように、長期的に育成したい・企業の中核となってほしい人材は雇用期間を無期とした正社員で採用するのがよいでしょう。
有期雇用は、プロジェクト人員や育児・介護休業による欠員の補充に適しています。ただし、特定のプロジェクトや部署に有期雇用社員が集中すると、その部分のノウハウが蓄積しにくくなるデメリットもあります。
これらを踏まえて、無期・有期雇用の社員それぞれをバランスよく調整し雇用することが重要です。ベストな人員と人件費で事業運営することが期待できます。
無期転換ルールを踏まえた雇用管理を実施するためには、長期的な視点が重要です。たとえ現時点で5年を超える有期雇用契約の更新予定がなくても、無期転換ルールへの対応策を整備しておきましょう。社内規則が適切に整備されていれば、無期雇用にしたい優秀な有期契約社員がいた場合に、人材流出を防ぐことができます。
もし、無期転換ルールの対応をしていない場合は、ルールの内容を参考に社内の有期雇用社員に面談を実施し、今後の働き方やキャリアの考え方を尋ねるのもよいでしょう。有期雇用社員の実態把握から始め、環境整備に努めることが大切です。
面談の機会をなかなか得られない場合には、所属部署の上長にヒアリングをしてもよいでしょう。その際、たとえ有期雇用社員が更新を希望しておらず辞める見込みだとわかったとしても、不利益な取り扱いをしてはいけません。
雇用期間とは、企業と社員間で締結する雇用契約の期間のことをいいます。1回の雇用期間は原則として最長3年とされており、更新が可能です。
このように期間が定められていることを有期雇用といい、プロジェクトや休業休職による欠員に対して、人員や人件費の最適化が期待できます。ただし、期間満了に伴う雇止めトラブルや、雇用期間が通算5年を超えた場合に申し込みできる無期転換ルールがあることに注意しましょう。
事業運営や人事採用を円滑にするためにも、有期雇用や無期転換ルールといった雇用期間の決めごとを正しく理解し、自社の雇用管理に役立てましょう。
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