経費率とは?計算式や業種別の適正水準、低くする方法を税理士が解説
経費率は、企業の収益性を測る重要な指標です。この記事では、経費率の基本、計算方法、業種別の適正水準、そして経費率を改善する方法について税理士が詳しく解説します。経費率に関する知識を深め、実践的な改善策を取り入れることで、企業の持続的な成長と発展につなげましょう。
経費率は、企業の収益性を測る重要な指標です。この記事では、経費率の基本、計算方法、業種別の適正水準、そして経費率を改善する方法について税理士が詳しく解説します。経費率に関する知識を深め、実践的な改善策を取り入れることで、企業の持続的な成長と発展につなげましょう。
目次
経費率とは、売上高に対する経費の割合を表す数字のことで、企業の収益性を示す重要な指標の一つです。
中小企業の経営者にとって、経費率は企業の財務状態を把握する重要な要素となります。例えば経費率が高すぎる場合は、余分な経費がかかりすぎているか、売上が低すぎる可能性があるでしょう。このような状況では、利益減少や倒産リスクの可能性を高めてしまいます。
経費率を適切に管理すると、企業の財務状態を健全に保ち、利益率を向上させることにつながります。そのためには、業務効率化や専門家の知見を取り入れるなどの工夫が大切です。
経費率には売上高経費率と売上総利益高経費率の2種類があります。それぞれ以下の計算式で求めます。
・売上高経費率 = 経費 ÷ 売上 × 100
・売上総利益高経費率 = 経費 ÷ 売上総利益 × 100
売上高経費率はシンプルに経費を売上で割って求める計算方法である一方、売上利益高経費率は売上総利益(売上から売上原価を引いたもの)を算出してから求めるためやや複雑です。どちらにも良し悪しがありますが、売上高経費率のほうがキャッシュフローもわかりやすく、日々の経営判断に役立てやすいでしょう。
売上高経費率の計算方法は以下のとおりです。
売上高経費率 = 経費 ÷ 売上 × 100 |
例えば、年間売上高が1,000万円で経費が300万円の場合、売上高経費率は300 ÷ 1,000 × 100 = 30%となります。
売上高経費率を指標にするメリットは、計算が簡単で直感的に理解しやすいところです。企業全体の経費の割合をイメージしやすいため、日々の意思決定に活用しやすいでしょう。一方、業種や企業規模によって割合が変わるため、他社と比較しづらい点がデメリットです。特に、売上原価の影響を考慮していないため、粗利率の異なる企業間での比較には適していないといえます。
売上総利益高経費率は、売上総利益(粗利)に対する経費の割合を示す指標です。計算方法は以下のとおりです。
売上総利益高経費率 = 経費 ÷ 売上総利益 × 100 |
年間売上高が1,000万円、売上原価が600万円、経費が300万円のケースで例えると、売上総利益は400万円(売上高 - 売上原価)のため、売上総利益高経費率は300 ÷ 400 × 100 = 75%となります。
売上総利益高経費率で考えるメリットとしては、企業の実質的な収益力に対する経費の割合を把握できる点が挙げられます。特に、売上原価が大きく変動する業種や、企業ごとに粗利率が異なる業界では、この指標を重視している傾向です。
デメリットは、計算がやや複雑であり、日々の経営判断には即座に適用しにくい場合がある点です。また、売上原価の計算方法によっては、企業間での比較が難しくなる可能性もあります。
実際に企業を運営していく中で、自社の経費率が適正値であるのか確認したいという人もいるのではないでしょうか。ここでは日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査」から、税引前当期純利益と自己資本がともにプラスである企業の平均値(黒字かつ自己資本プラス企業平均値)を参考に、業種別の売上高経費率の適正水準についてみていきます。
製造業の経費率の黒字かつ自己資本プラス企業平均値は、22.4%とされています(参照:業種別経営指標/製造業 p.1丨日本政策金融公庫)。そのため、製造業の経費率の目安は約20~30%といえるでしょう。
製造業の経費率には材料費、人件費が大きく占めます。そのため、適正な経費率を保つには効率的な生産プロセスと厳密なコスト管理が求められます。例えば、自動車の生産においては「組み立て工程において無駄はないか」「部品の材料費は適正か」「持て余している作業員はいないか」などの見直しが重要です。
小売業の経費率の黒字かつ自己資本プラス企業平均値は、18.4%でした(参照:業種別経営指標/小売業 p.105丨日本政策金融公庫)。そのため、目安は約10~20%といえるでしょう。
小売業では、家賃や人件費、在庫管理費が主な経費項目です。経費率を適正な数値に保つためには、在庫管理と販売戦略が鍵となります。在庫を過剰に抱えていないか、計画どおりに販売できているかなど、定期的に戦略の見直しを行うことが大切です。
一般飲食店における黒字かつ自己資本プラス企業平均値は33.8%です(参照:業種別経営指標/一般飲食店 p.2丨日本政策金融公庫)。そのため、飲食業の経費率の目安は約30~40%であるといえます。
飲食業の主な経費項目としては、食材費や人件費、家賃が大きな割合を占めています。もし、自社の経費率が高いと感じているのであれば、効率的な仕入れと人員配置ができているかどうか見直してみるのとよいでしょう。
中小企業が経費に含めて計算できる代表的な項目を以下の表にまとめました。
項目 | 説明 |
---|---|
人件費 | 従業員の給与、ボーナス、福利厚生費 |
家賃 | 事務所や店舗の賃貸料 |
水道光熱費 | 事務所や店舗の水道代やガス代、電気代 |
接待交際費 | 事業関係者との関係構築や維持に関わる費用 |
旅費交通費 | 業務命令により勤務地以外へ向かうための費用 |
広告宣伝費 | 認知度向上のための費用 |
研究開発費 | 製品の新開発や改良のために投じる費用 |
外注費 | 外部業者に業務を依頼した際の費用 |
減価償却費 | 固定資産の減価償却費用 |
資産 | 固定資産の購入費用にかかる借入金の金利や維持管理費用 |
純資産 | 会社の純資産額 |
人件費は最も大きな部分を占めることが多い経費です。人件費には、給与、ボーナス、福利厚生費などが含まれます。
人件費が過度に高い場合は経費率を押し上げ、収益性を低下させます。一方で、過度に抑制すると人材確保や生産性向上の障害となる可能性があります。人件費を最適化するには、売上高などとの関係を注視し、バランスを保つことが重要です。
その上で、まずは残業の抑制から始めるとよいでしょう。例えば業務プロセスを標準化して情報共有をスムーズにする方法が挙げられます。タスクの進捗を自動で集計・一元化できるプロジェクト管理システムなど、業務効率化ツールやソフトウェアの導入も効果的です。
固定費の代表的な項目でもある家賃には、事務所や店舗の賃貸料が該当します。適正な立地を選ぶことで家賃を抑えつつ、ビジネスの効率を維持することが大切です。
高すぎる家賃は経費率を悪化させ収益性を圧迫しますが、コストカットのみを目的とした立地の変更は、売上減少につながる恐れもあります。家賃を削減したいと考えている場合は、テレワークの導入やオフィススペースの効率的利用など、家賃負担を軽減する工夫も検討しましょう。
水道光熱費は、水道や電気、ガスなどのエネルギー費用が含まれます。
・上下水道料金
・ガス料金
・電気料金(照明・空調など)
・灯油代
事務所や店舗の水道光熱費は、企業の運営に不可欠です。そのため、適切に管理することで、経費の最適化が期待できます。水道光熱費は一括と個別に分けて計上することのどちらも可能ですが、経費削減を目的とするなら個別形状がおすすめです。詳細な分析や管理が可能になることで、どの項目が余分にかかっているかなど問題点を把握しやすくなるでしょう。
接待交際費とは、得意先や仕入先など、事業関者に対する接待、供応、慰安、贈答などの行為に使用される費用を指します。具体的には、1人あたり10,000円を超える会食費用、お中元・お歳暮、イベントへの招待などが含まれます。ただし、従業員のみの慰安行事、10,000円以下の会食費、ノベルティグッズの制作・贈与費用などは接待交際費には該当しません。
接待交際費として計上するには、支出の相手が事業関係者であること、支出形態が接待等に該当すること、支出目的が取引関係の円滑化であることがポイントです。これらの条件を正しく理解したうえで正確に区分することで、適切な経費管理につながります。
旅費交通費は、企業の業務遂行上で必要な出張・移動に関連する費用を指します。
・交通費
・宿泊費
・駐車場代
・レンタカー代
・海外出張に伴う費用
・赴任費用
・そのほか旅費規程に含む日当や食事代 など
注意すべきは、通常の勤務地での業務と区別することです。通常の勤務地での業務に関する交通費は「交通費」として計上します。適切に経費処理するためには、業務目的や場所に応じて、旅費交通費とほかの勘定科目を正確に区別するものと理解しておきましょう。
広告宣伝費は、企業の製品やサービスの認知度を高める際に投じる費用です。金額が膨らみやすく、経費率を押し上げやすいため、費用対効果の高い手法を常に検討することが重要です。デジタルマーケティングツールを活用し、広告効果をリアルタイムで追跡して迅速に改善策を講じましょう。
例えば、SEO対策やコンテンツマーケティングの強化は、長期的かつ持続的な集客効果が期待できます。ほかにもソーシャルメディア広告やリターゲティング広告を活用することで、ターゲットを絞った効率的な広告配信が可能となるでしょう。どの手法もリアルタイムに効果測定を行いやすい点が特徴で、適切に運用すれば高い費用対効果が期待できるはずです。
研究開発費は、新製品や新技術の開発、既存製品の改良に投じる費用を指します。主に新知識の発見を目的とした調査研究費、新製品開発費用、研究開発に従事する人員の人件費などが含まれ、企業の将来性に関わる経費項目の一つです。
研究開発費は原則として、発生時に全額を費用計上します。しかし、研究設備の減価償却などは資産計上できる場合もあります。また、研究開発費には税額控除制度があり、一定条件のもとで法人税額の軽減が可能です。適切な管理と戦略的な投資で、企業の持続的な成長につなげましょう。
外注費は、外部業者に業務を依頼する際の費用(委託費用)です。適切に活用すれば、経費の削減と業務効率の向上につながる可能性がある一方で、管理が不適切だと経費率を悪化させる要因にもなりえます。
清掃や警備、IT保守などの専門性の高い業務を外部委託することで、自社のコストを抑えつつ、高品質なサービスを受けられる可能性があります。
ただし、外注費の管理は慎重に行うべきです。委託先の選定には複数の業者から見積もりを取り、価格だけでなくサービスの質も比較検討することが重要です。また、定期的に契約内容の見直しを行い、不要なサービスがないかチェックするなどして、経費の無駄を省きましょう。
減価償却は、固定資産の取得価格を使用可能期間にわたって費用化する会計処理(減価償却費用)です。適切な減価償却の計画を立てることで、財務状況を健全に保つことができるだけでなく、税務上のメリットも得られる可能性があります。
減価償却費は直接的なキャッシュフローには影響しませんが、経費として計上されるため経費率に影響を与えます。減価償却の方法には定額法や定率法などがあり、企業の状況に応じて適切な方法を選択することが重要です。
資産は、固定資産の購入費用です。固定資産の購入費用は経費に計上されないため、経費率に直接関わりませんが、借入金の金利や維持管理費用は経費として計上されるため、間接的に経費率に影響します。
そのため、資産を購入する際は必要性と収益性を十分に検討し、使用頻度の高い設備からにするなど計画的に行い、過剰投資による経費率の悪化を避けるよう注意しましょう。
純資産は、会社の総資産から負債を差し引いた金額(純資産額)です。経営の健全性を示す重要な指標の一つで、純資産が高いほど企業の財務基盤が強固であることを意味しています。
純資産は経費率に直接影響を与えるものではないものの、間接的に経費管理に影響をおよぼす可能性があります。例えば、純資産が少ないと設備投資や研究開発などの長期的な戦略を立てることが難しい企業であると金融機関から見られ、資金調達の際に高い金利を要求されるケースがしばしば見られます。このような場合は、利息で経費を押し上げてしまう恐れがあります。
経費率が高いと、企業は以下のリスクや問題に直面することがあります。
高い経費率は直接的に利益を減少させ、企業の成長を妨げます。利益が減少すると、新たな投資や事業拡大のための資金が不足し、競争力の低下につながる恐れもあるでしょう。
また、株主への配当の減少や、企業価値の低下を招くリスクもあります。さらに、研究開発費の削減を余儀なくされ、長期的な競争力が失われる危険性も考えられます。このような状況が続くと、優秀な人材の流出や、取引先からの信用低下など、企業の存続に関わる深刻な問題に発展する可能性もあります。
経費が多すぎると、資金繰りが悪化し、日常業務の運営が困難になります。資金繰りの悪化は、仕入れや人件費の支払いの遅延を引き起こし、取引先や従業員との関係悪化につながる可能性があります。また、緊急時の資金需要に対応できなくなり、ビジネスチャンスを逃す恐れもあるでしょう。
高い経費率は企業を倒産に追い込むリスクを高めます。資金繰りが悪化すると、債務不履行に陥る可能性が高まるためです。
倒産のリスクが高まると、取引先からの信用が失われ、取引条件の悪化や取引停止につながる恐れがあります。また、従業員の士気低下や離職が進み、事業継続が困難になる可能性も考えられるでしょう。
こうした状況に陥ると、企業の再建は極めて困難となり、関係者全体に大きな損失をもたらす結果となりかねません。
経費率の見直しや改善は、一時的な取り組みではなく、長期的かつ継続的に行う必要があります。ここでは、経費率改善の重要性と、長期的に取り組む必要性について解説します。
筆者の経験上、多くの経営者は、過去情報の見直しや、経費の詳細確認を好まない傾向があります。しかし、経費の見直しは必須であり、売上を追うこと、あるいはそれ以上に重要な経営活動の一部です。
例えば、経費を100万円削減することと売上を100万円増加させることは、どちらも金額は同じですが、経費削減には即効性があります。今まで積極的な見直しが行われていない部分であればなおさら、大きな効果を生む可能性を秘めているでしょう。
経費削減にはまず、経営者自身が経費削減のこうした効果の大きさ、ひいてはそれが持続的な経営活動に直結することをしっかり受け止める意識改革が不可欠です。
経費削減を成功させるためには、トップダウンでの強力な指針が必要です。経営層が率先して経費削減の重要性を認識し、その意識を全社に浸透させることが求められます。
具体的には、以下のような取り組みが有効です。
・明確な経費削減の目標値を設定
・経費削減プロジェクトの発足
・経費削減の成功事例の共有
・経費削減に対するインセンティブの導入
このように、経費削減の目標を設定し、経営層や従業員が積極的に参画できる取り組みを実施することで、持続的な経営戦略の一つとして浸透させられるでしょう。
経費削減の進捗状況を定期的に報告し、会議で共有することも重要です。経営層が主体となって経費削減の成果を確認し、必要な修正や改善策を迅速に講じることができます。定期的な会議で経費削減の状況を報告すれば、全社で情報を共有することも容易になり、透明性が高まるほか全社員の協力を得やすくなります。
また、外部専門家の力を借りると、経営者自らを律し、客観的な視点での評価とアドバイスを受けることが可能です。
特に税理士に助言を求めると、税制優遇措置を活用したり、税務調査のリスクを軽減したりしながら節税効果を高められるため、経費率の改善をより効果的に図ることができます。
また、事業形態の見直しや組織再編などの大きな意思決定の際にも、税務面からの助言を得られ、長期的な視点で税負担の軽減、経費率の改善が期待できます。
経費削減の効果を高めるには、具体的な目標に対する達成度の定期的なモニタリングと改善策の実施も重要です。
ここでも外部専門家の知見を借りることで、モニタリングの精度を高め、客観的な評価ができるでしょう。
経費率の適切な管理は、企業の収益性向上に直結する重要な経営戦略の一つです。自社の業界水準を把握し、高くなりすぎないよう注意することで、資金繰り悪化や倒産リスクを低減できるでしょう。
そのためには長期的かつ継続的に行う姿勢が重要であり、経営者主導のもと、全社で取り組むことが大切だといえます。経費率の理解と適切な管理により、企業の競争力を高め、健全な経営を維持しましょう。
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