目次

  1. 給与のデジタル払いとは
  2. PayPayが初指定 「PayPay給与受取」開始
    1. 追加のシステム開発・新たな契約は不要
    2. 受入上限額は20万円
    3. 送金手数料
  3. 給与のデジタル払いの導入に必要な手続き
    1. 指定資金移動業者の確認
    2. 指定資金移動業者のサービスの検討
    3. 労使協定の締結等
    4. 労働者への説明
    5. 労働者の個別の同意取得
    6. 賃金支払いの事務処理の確認・実施
  4. 9割の企業「導入予定なし」帝国データバンク調査
  5. スポットワーカー対応でニーズが高まる可能性

 厚生労働省の公式サイトによると、労働基準法は、給与は現金払いが原則ですが、労働者が同意した場合、1975年から銀行口座などへの振り込みが認められてきました。

 キャッシュレス決済の普及や送金手段の多様化のニーズに対応するため、2023年4月から労働者が同意した場合には、資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)ができる制度が始まりました。

 PayPayは2024年8月9日、資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)に対応する資金移動業者として、初めて厚生労働大臣の指定を受けました。

 そこで、労働基準法施行規則に基づく指定要件を満たすサービスとして「PayPay給与受取」を提供することを発表しました。9日時点で、ほかに3社が指定に向けて審査中です。

 「PayPay給与受取」は、ソフトバンクグループ各社の従業員から開始し、2024年内にすべてのPayPayユーザーへのサービス提供を予定しています。

 PayPayのプレスリリースによると、給与振込元の雇用主(事業者)は、銀行口座への振り込むことで、従業員のPayPayアカウントへの給与支払ができます。

 給与デジタル払いに向けた追加の送金システム開発や、PayPayとの間で新たなサービスの契約は不要で、雇用主(事業者)は、PayPayが従業員(ユーザー)に割り当てたPayPayアカウントへチャージするための「給与受取口座の入金用口座番号(銀行口座)」へ振り込み、ユーザーの「給与受取口座」に入金した時点で、給与支払が完了すると説明しています。

 労働者指定口座残高の受入上限額は20万円で、労働者指定口座残高が受入上限額を超えた場合は、超過金額を自動送金先口座兼保証金受取口座に自動で送金することになります。

 PayPay破綻時には、6営業日以内に、保証機関である三井住友海上火災保険が自動送金先口座兼保証金受取口座に保証額(労働者指定口座残高全額)を振り込む想定で、労働者から保証機関への請求は不要となる予定です。

 PayPayアカウントから金融機関口座への送金手数料について、「PayPay給与受取」ユーザーの場合は以下の通りです。

送金タイミング 本人名義口座の金融機関 送金手数料 月1回 送金手数料無料
残高上限超過時の自動送金 すべての金融機関 無料 対象外
都度 PayPay銀行 無料 PayPayマネー(給与)を含む
月1回目(初回)に該当する取引は送金手数料無料対象
その他の金融機関 100円
おまかせ振分 PayPay銀行 無料
その他の金融機関 100円

 今後も給与のデジタル払いの指定が増えるサービスが増えると見込まれるため、給与のデジタル払いを導入する雇用主に必要な手続きを紹介します。

 厚生労働省によると、以下の6つのポイントを確認してください。

  1. 厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(指定資金移動業者)の確認
  2. 導入する指定資金移動業者のサービスの検討
  3. 労使協定の締結等
  4. 労働者への説明
  5. 労働者の個別の同意取得
  6. 賃金支払いの事務処理の確認・実施

 まず、厚生労働省の公式サイトに掲載されている指定資金移動業者一覧で、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者とそのサービスの名称を確認してください。

 サービスを選ぶにあたっては以下のポイントを参考に検討してください。

  • 口座残高上限の設定金額
  • 1日あたりの払い出し上限の設定金額
  • 労働者や雇用主の手数料負担の有無と金額
  • 指定資金移動業者との契約締結の要否

 給与のデジタル払いを導入する前に、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と、労使協定を締結してください。

 労使協定のテンプレートは厚労省の公式サイトに掲載されています。

 労使協定を締結した上で、給与のデジタル払いを希望する労働者に対して、必要事項を説明してください。説明の際には、他の選択肢(預貯金口座への振り込みまたは証券総合口座への払い込み)もあわせて提示してください。

 労働者が希望しない場合に強制しないよう注意してください。労働者本人の同意がない場合やデジタル払いを強制した場合、雇用主は労働基準法違反で罰則の対象になり得ます。

 説明したうえで、労働者から個別の同意を得てください。同意書のテンプレートも厚労省の公式サイトに掲載されています。

 労働者から同意を得る際に、給与のデジタル払いを行う口座に賃金を振り込むために必要な情報、受け取り希望額、指定代替口座等の情報も取得してください。

 賃金支払いの実務を行うための手続きは、指定資金移動業者によって異なるため、以下のポイントを確認しつつ進めてください。

  • 支払い方法(雇用主の資金移動アカウントを作成し、そこから労働者のアカウントに支払うのか、現行の銀行振込と同様の手続き・手順を踏むのか)
  • 所定の賃金支払日に向けた雇用主の事務処理の期限

 帝国データバンクが2024年10月4日~10日、1479社に対し、給与デジタル払いについてアンケートを実施したところ、「導入に前向き」な企業は3.9%と低水準だった一方で、「導入予定はない」は88.8%に上りました。なお、「言葉も知らない」という回答も1.6%ありました。

 給与のデジタル払いについて、雇用主側には大きなメリットは見受けられませんでした。

 ただし、上場が注目されたタイミーなどの動向から見えてくるように、空き時間に様々な仕事を担う「スポットワーカー」が増えています。メルカリのプレスリリースによると、日本国内のスポットワーク登録者数は2024年5月末時点で2200万人に上るとも言われています。

 こうしたスポットワーカーたちから今後、給与のデジタル払いのニーズが高まり、対応が必要になる可能性はあります。