目次

  1. 調査目的「本当に後継者不足の解決目指しているのか」
  2. M&A仲介の営業姿勢、目立つ悪印象
  3. M&A仲介悪印象の根拠 経営者らがコメント
  4. 業界の自主規制ルール、機能しないケースも

 事業承継学会の「事業承継M&Aリサーチプロジェクトチーム」を立ち上げた経緯について、チームの代表を務める小林博之さんは「中小企業庁は事業承継支援の一つとしてM&Aを掲げています。しかし、実際のところM&Aはもうかる、資格も何もなくてもできる、年収〇千万円稼げる仕事などといううたい文句で採用も事業参入も相次いでいます。M&A仲介会社は後継者不足の解決をうたいながら、本当に目指しているのでしょうか」と指摘します。

 具体的には、あるべき姿から大きく逸脱した強引な営業行為や、M&A仲介は売り手と買い手の両方から報酬を得る「両手取引」が多く、悪質な買い手に対してゲートキーパーの役割を果たせていないという問題点について耳にしており、実態を明らかにしようと調査を始めました。

 契約で約束された経営者保証の解除がされないトラブルや、強引な営業行為が問題となるなか、経済産業省は、中小M&Aガイドラインを改定予定ですが、小林さんらは「経営者の生の声を反映してほしい」という思いもあり、今回のアンケートの調査結果を中小企業庁や日本商工会議所に届けました。

調査対象: 中小企業の経営者・後継者・経営幹部、中小企業むけ経営支援者
調査方法: インターネットを通じたアンケート調査
調査期間: 2024年6月26日~7月31日
有効回答: 126人(中小企業の経営者・後継者62%、中小企業の経営幹部5%、中小企業向け経営支援者33%)

 今回は、無作為抽出ではないインターネット調査のため、回答者の傾向に偏りがある可能性はあるものの、回答者126人の51.6%が「どちらかといえば悪印象」、23.8%が「非常に悪い印象」と回答しました。

 悪い印象をもっている回答者93人のうち、おもに以下のポイントが悪印象につながっているという回答が目立ちました。

  • 当方の事業や経営について事前に何も調べていない
  • 手数料目当てであることが明らかである
  • M&Aを進める上でのリスク、問題点についての説明がない

 では、具体的にどのような言動が悪印象につながったのか。アンケートのフリーコメントから紹介します。

「20年以上前に事業所の土地や建物は売却して事業転換しているにも関わらず、20年前の事業について『御社の事業に興味を持って資本提携したいと言っている企業様が2社おられる』という手紙が毎月のように封書で届く。しかも封筒にはご丁寧に【重要】【親展】と赤字で記されている」

「電話をしてきて、断って着信拒否をしたら別の担当者から別の電話番号でかけてくるという、イタチごっこ状態」

「事業承継したのにいまだに父宛てにメールや手紙が山ほど来る。公開していない自宅にも送られてくる。信書風にしているが、中身がバラマキコピー。さらに、名前が間違っていたり、同名の全然違う業種の会社と間違っているなど、相手の会社への敬意が全く感じられない。みんな斜め45度腕組み筋トレ大好き風の写真で送りつけてきて偉そうな態度が鼻につく」

「苗字だけ名乗って、さも社⾧の知り合いのように装って、電話をとりつがせて話してみると一面識もないM&A仲介業者だった。話を聞いてみると、当社の事業内容について全く知らずに単にホームページに書いてある内容しか知識がない様子だった。そんな中で、御社と業務提携したい会社があると言われたが、嘘だという事が丸わかりだった」

自社のことを考えて手書きのレターを書いてきたのかと思わせつつ、全く違う業種、地域の会社にも全く同じ内容のレターを送付してきている業者(アンケート回答者から。個人情報に結びつく部分はマスキング・トリミングした)
自社のことを考えて手書きのレターを書いてきたのかと思わせつつ、全く違う業種、地域の会社にも全く同じ内容のレターを送付してきている業者(アンケート回答者から。個人情報に結びつく部分はマスキング・トリミングした)

 日本M&AセンターやストライクなどM&A仲介会社でつくる「M&A仲介協会」は2023年12月、M&A仲介の倫理規定や自主規制ルールを設けて公表しました。事実にもとづかない「御社を買いたい会社がある」というセールス文言を禁止するなど、コンプライアンス(法令順守)、広告・営業、契約重要事項説明の3分野で仲介会社が守るべき行為を明記しました。

 M&A仲介協会は自主規制ルールをつくると同時に苦情相談受付窓口を設けて対処してきました。

 しかし、その後も複数の会社を運営する経営者宅に、全社分の「御社を買いたい会社がある」と虚偽と疑われる営業DMが同時に届いたという中小企業経営者の声がツギノジダイ編集部に寄せられました。

 この営業メールの差出人は、M&A協会の理事を務める上場会社の営業担当者だったため、問い合わせ窓口を通じて、春先から複数回取材を申し込んだものの、返答はありませんでした。

 今回のアンケートを実施した小林さんも「自主規制ルールは、仲介会社が自分たちを律しようとして作ったものですが、中心である上場企業がこのような営業を続けていること自体が、残念ながらルールが十分機能しているとはいいがたいと思います。今回のアンケートでもM&A協会の理事を務める会社名が複数挙がっています」と話しています。