目次

  1. デザイン会社とコラボ
  2. あえて「縮み」を特長に
  3. 泉州タオルの良さを打ち出す戦略へ
  4. 「強み」の再定義が自社ブランドに
  5. 展示会出展で海外市場も開拓
  6. 事業基盤を固めてコロナを乗り切る
  7. かつての屋号を新ブランドに

 神藤さんは2014年、先代の祖父の急逝で28歳で社長に就任。それと前後して、新たなオリジナル商品をつくろうとベテラン職人とともに「2.5重ガーゼタオル」を企画・開発しました(前編参照)。

 今では神藤タオルの代表的な商品の一つですが、当初は商品化にあたって高いハードルがありました。2.5重ガーゼは製造過程で縮みやすいという性質があり、例えばバスタオルだと規格に合った商品を毎回同じようにつくれないのです。

 悩んでいた神藤さんに協力・助言してくれたのが、大阪市のデザイン会社でした。神藤さんが、泉州タオルのメーカーで構成する業界団体の展示会に2.5重ガーゼのサンプルを出展したところ、同社のデザイナーが気に入り、当時取りかかっていたプロジェクトに商品として採用したいという話になったのです。

 「先代の祖父からは『業界団体の取り組みにはきちんと顔を出すように』と言われていました。僕も新しい人や業者との接点が生まれるかも知れないと考え、毎年サンプルを出していました。(デザイン会社とは)その結果の出会いだったと思います」

 そのデザイン会社は、関西の地場企業と新商品開発プロジェクトを展開していました。企業が持つ技術や伝統を最大限生かすため、細かくヒアリングしながらアイデアをもむことを重視していたといいます。

 神藤タオルとのコラボレーションでも同じプロセスを踏みました。デザイナーは、2.5重ガーゼの販売戦略やコンセプトを考えるため、神藤タオルや泉州タオルの歴史から特有の製造工程、商品に込めた思いまで、ヒアリングしました。

 神藤さんは、よい風合いは出るものの縮みが出やすい乾燥方法を採用しているため、一般的なタオルのサイズ規格に対して不安定になりやすいというデメリットを説明しました。するとデザイナーからは、あえて「製造段階での縮みを特徴として前面に打ち出す」という方針が提示されます。

 そして、ウォッシュタオル、フェイスタオル、バスタオルの定番3種に当てはまらない、「バスタオルより少し小さいMサイズ」と「ひとまわり大きいLサイズ」というラインアップで展開する戦略にしたのです。

2.5重ガーゼタオルのラインアップ(神藤タオル提供)
2.5重ガーゼタオルのラインアップ(神藤タオル提供)

 洗練されたデザインで商品化された2.5重ガーゼタオルは展示会でも好評で、そこで知り合ったバイヤーからの紹介で、これまで取引がなかった全国各地のセレクトショップや雑貨店などへ販路が広がりました。

 「まさにデザインの力で2.5重ガーゼの商品力が大きく高まり、業界内で多くの注目を浴びることができました。デザインについて僕はずっと苦手意識を持っていたのですが、一緒にコラボレーションできて本当に良かったと思います」

 社長就任から2年が経ったころ、神藤さんは問屋経由ではなく小売店などと直接取引したり、直接消費者に販売したりすることを視野に、自社ブランドの立ち上げを考え始めます。インナーパイルや2.5重ガーゼなどがヒットし始めたこともありますが、神藤さんは先駆けてブランディングを進めていたタオル産地の愛媛県今治市を意識していました。

 今治も泉州と同様、海外製品に押されて事業者の倒産が相次いだ過去があります。2000年代にタオルメーカーが共同でブランディングを行うプロジェクトを始めた結果、「今治タオルは高級品」という認知が消費者に広まり、売り上げも生産量も回復したのです。

 今治ではメーカーが問屋のみではなく、エンドユーザーの視点でブランディングしたことが成功の要因だったとされています。それは、神藤さんが問屋以外の販路を模索し、オリジナル商品を開発したのと同じでした。

 泉州タオルの特長は、生地が織り上がった後で洗いをかける「後ざらし製法」による吸水性の良さにあります。しかし、一般消費者は「吸水性の良さといえば今治タオル」というイメージを持っており、泉州タオルへの認知が高まっていないことも課題でした。

 神藤さんはこう話します。

 「これまでのように問屋だけを意識するようなビジネスではなく、消費者に向けて泉州タオルの良さを明確に打ち出すことが必要でした。ブランディングに取り組むことで、神藤タオルも泉州タオルももっと成長できると考えました」

神藤さんは今治タオルを見習い、泉州タオルの地位を高めようとしました

 そのころ、泉州のタオルメーカーの知人から、中小企業のブランディングや販路開拓などを支援する大阪府所管のプロジェクト「大阪商品計画」を紹介されました。自社で製造機能を持つ府内の中小企業が対象の企画です。

 商品開発やブランディングの経験が豊富な民間のプロデューサーらの支援が得られることから、神藤さんは「絶好の機会」と考え応募。インナーパイルなどの独自性が認められ、3期生の支援対象に選ばれました。

 支援開始後は半年に渡ってブランディングやマーケティングのコンサルティングを受けました。神藤タオルにしか作れないインナーパイルや2.5重ガーゼの価値を再定義しつつ、どんな要素をブランドとして打ち出すかを一緒に突き詰めました。

神藤タオルの製造工程(神藤タオル提供)
神藤タオルの製造工程(神藤タオル提供)

 その結果、次の二つの組み合わせを、神藤タオルの「強み」と位置づけました。

  1. 熟練の職人による新しいタオルを生み出す技術力と発想力
  2. 130年超の歴史を持つ泉州タオルの伝統的な「後ざらし」製法

 さらに、消費者にとって「本当にいいタオルとは何か」を求め続けるという姿勢自体をコアのコンセプトとして掲げました。

 神藤タオルの創業110周年となる2017年、神藤さんは自社ブランド「SHINTO TOWEL」を立ち上げました。

 インナーパイル、2.5重ガーゼに加えて、新たに加わったのが「YUKINE」(フェイスタオルは税抜き1100円、バスタオルは同2200~2800円)という商品です。YUKINEは後ざらし製法の加工技術で、工程に倍の手間をかけることで、吸水性を最大限に高め、手に握った時に「キュッキュ」という感触が生まれるのが特長です。

自社ブランド立ち上げ時にラインアップに加わったYUKINE(神藤タオル提供)
自社ブランド立ち上げ時にラインアップに加わったYUKINE(神藤タオル提供)

 SHINTO TOWELの立ち上げに合わせ、WEBサイトの制作や商品のキービジュアル用の写真撮影を、2.5重ガーゼの商品化の際にコラボレーションしたデザイン会社に依頼しました。自社ブランドのお披露目として、2017年にあった東京の展示会にも出展しました。

 SHINTO TOWEL立ち上げ後、神藤さんは全国からバイヤーが集まる日用品や雑貨などの展示会に積極的に参加しました。そこではデザイナーらとともに映えるブースをつくるとともに、神藤さん自身がブランドのコンセプトやものづくりに対する姿勢の説明に努めています。

 展示会で出会うバイヤーを通じて、小売店などへの販路が開き、SNSなどを通じたPRも始め、WEBサイトなどへの問い合わせも増えていきました。

 次第にセレクトショップやカフェ、ブックストアなどにも販路が広がり、一般消費者との接点が大きく増加。小売店やオンラインストアでの「SHINTO TOWEL」の売り上げは、1年目に約2千万円、2年目には約4200万円と好調に推移しました。

 展示会では海外のバイヤーや小売業者とも出会いがありました。SHINTO TOWEL立ち上げから間もないころ、東京の展示会で、香港のショップオーナーにタオルを「機能的でデザイン性も高い」と気に入ってもらえ、購入してもらえることになりました。

 神藤さんは、大手銀行勤務だった父親の転勤で子どものころに英国に住んだこともあり、「いつかは海外にも売っていきたい」と考えていました。タオルのタグの内容も英語にするなど海外展開の準備も整え、多くの海外のバイヤーとの商談に英語で臨みました。

展示会でSHINTO TOWELをアピールする神藤さん(神藤タオル提供)
展示会でSHINTO TOWELをアピールする神藤さん(神藤タオル提供)

 他にもJETRO(日本貿易振興機構)主催のオンライン商談会に参加したり、海外展開に関する事業に応募・採択されたりした結果、20以上の国・地域と取引が広がりました。新型コロナウイルスの拡大で取引継続が難しくなったところもありますが、今でも欧米やアジアを中心に取引が続いています。

 神藤さんは主に欧州のバイヤーとの商談を通じて、サステイナビリティーの重要性、地球環境への配慮が企業に強く問われることを知りました。2021年までにはSHINTO TOWELブランドで販売する製品は、素材を全てオーガニックコットンに切り替えました。

 自社ブランドの立ち上げと販路拡大の成果について、神藤さんは「利益率が上がり、事業基盤が強くなった」と話します。

 実際、2020年春の新型コロナウイルスの拡大でOEMの受注量が大きく減り、神藤タオルの売上高はピーク時の7割ほどに落ち込みました。それでも自社ブランドの3商品については、小売店やオンラインショップでの販売量があまり変わらず、利益を確保でき、コロナを乗り切ることができました。

 消費者の接点拡大といえば大手ECモールでの展開もあります。しかし、「価格競争」に陥ってしまいがちのため、神藤タオルは当面、出店の予定はありません。

 2024年3月期の神藤タオルの売上高は約2億円で、そのうち自社ブランドの売り上げは4分の1の約5400万円にのぼります。さらに、その中で約1900万円(送料含む)が海外での売り上げです。

 「先代のころからの職人たちの発想と高い技術に基づく商品開発力こそが、神藤タオルの何よりの財産です。そしてデザイン会社や大阪商品計画などとの出会いにも恵まれ、今日の成長につながったと考えています」

 神藤タオルでは2024年7月に「MARUSHIN by SHINTO TOWEL」という新ブランドを立ち上げました。かつての神藤タオルの屋号「マルシン」を復活させたものです。初心に立ち返って、いいタオルを作って消費者に届けることで改めて泉州タオルの普及に尽力したいという思いを込めました。

新ブランド「MARUSHIN by SHINTO TOWEL」の商品例(神藤タオル提供)
新ブランド「MARUSHIN by SHINTO TOWEL」の商品例(神藤タオル提供)

 インナーパイルや2.5重ガーゼより値段は少し抑えめにしつつ、高い機能性とデザイン性は踏襲。箱入りにして贈り物として使ってもらいやすい仕様にしました。

 「今後も二つの自社ブランドの展開を、事業の中心に据えて会社を成長させたいです。2ブランドを通して神藤タオルを消費者により身近に感じてもらえるようになれば、泉州タオル自体の認知拡大やブランディングにつながると考えています」