目次

  1. フライパンで高めたモチベーション
  2. 知育玩具がOEMのきっかけに 
  3. 地域の発酵文化を守り伝える

 社員らがおそろいの真っ赤なエプロンをつけて、鍛造技術で作ったフライパンをアピールしていたのが、大阪府東大阪市のヤマコーです。ブースでは製造工程を伝える動画もモニターに映していました。

 1946年に創業したヤマコーは、モンキーレンチなどの工具製造から始まり、鍛造技術を磨き上げて自動車部品などのメーカーとして成長を遂げました。

 それでも3代目社長の山本恵津子さん(52)は6年がかりでtoC製品に挑み、フライパン「TANZO5」を開発。2024年10月から発売を始めました。「自動車部品など普段作っている製品は表には見えません。お客さんから直接『すごいね』と言われる経験を、社員にしてほしいと思いました」

 フライパンには、ヤマコーの鍛造技術を存分に生かしています。鉄を1200度に熱し、自動車部品の製造に使うエアスタンプハンマーで2千トンの力をかけてたたきます。「トラックで踏まれても壊れないほど丈夫です」

 鍛造技術によって熱伝導の効率が高まり、弱火でも熱を逃さず調理できます。時間も短縮でき、食材をかき混ぜずに放っておいても満遍なく火が通るのが特徴です。IH調理器にも対応しています。

 表面はフッ素加工などを施さず、製造時の手入れも食用油だけを使っています。「たわしで水洗いできるので洗剤は不要です。フッ素加工などをしていないので、調理したものから直接鉄分を摂取できるフライパンになっています」

ヤマコーの鍛造性フライパン「TANZO5」
ヤマコーの鍛造性フライパン「TANZO5」

 フライパンは通常価格で2万4千円(GOOD LIFE フェア限定価格は2万2千円)。耐久性にも優れ、「100年以上受け継がれる商品になっています」と胸を張ります。

 開発に至るには試行錯誤もありました。最初は社員から「何でやらなあかんの?」という声もあったそうです。

 山本さんは従業員と一緒にデザイン経営のプログラムに参加したり、デザイナーを何人も変えたり、妥協のないものづくりを進めました。試行錯誤が実り、2024年春の東京インターナショナル・ギフトショー「LIFE×DESIGNアワード」で、フライパンがグランプリに輝きました。

 「GOOD LIFE フェア」では、製造担当の社員がブースに立ち、直接エンドユーザーに説明する姿が目立ちました。今後はラインアップを増やす予定で、量産体制を作っています。

 山本さんは「いいものを同じ基準で作る製造業の厳しさをフライパンにも生かすことができました。何より、6年間かけて開発に取り組んだことで、社員の技術やモチベーションが上がったのが財産です」と話しました。

 ダイカスト金型の設計や製造を手がける大高製作所(横浜市都筑区)は、マウンテンゴリラやアフリカゾウなど動物の形の知育玩具「クラベランス」を並べていました。

大高製作所の知育玩具「クラベランス」と「wiggle」
大高製作所の知育玩具「クラベランス」(左)と「wiggle」(右)

 大高製作所は1984年に創業し、建築関連や自動車部品、LED照明のケースなど幅広い金型を作っています。ただ、認知拡大が課題でした。2代目の大高晃洋さん(50)は「金型は守秘義務があり、画像などを公開することができません。個性ある営業ができず、何屋さんなのかと思われることもありました」。

 技術を知ってもらい、OEM受注のきっかけにしようと、3年かけてtoC製品の開発に注力しました。子ども向けの知育玩具にたどり着いたのには、大高さんの思いがありました。

 「私も子を持つ親ですが、子ども向けのおもちゃは木やプラスチックが多いと感じていました。もっと金属に触れる機会を増やしたいと思い、開発しました」

 コンマ単位の精度で金型を作る技術力を、おもちゃにも生かしています。

 「クラベランス」のゾウは、40グラム1体と10グラム4体が入っています。寸分たがわぬ重さで作ることで、かけ算や割り算の勉強に使ってもらうのが狙いです。動物を積み上げるバランスゲームや、大人向けのインテリアとしても楽しめる形にしました。

 クラベランスは2024年夏に発売を開始。クラウドファンディングを利用したり、大高さん自身が常に持ち歩いたりしてPRしています。「クラベランスをきっかけに、OEMの話もいただくようになりました。広告塔としての商品ですが、認知は広がっていると感じます」

大高製作所2代目の大高晃洋さん。持っているのはバランスゲーム「wiggle」
大高製作所2代目の大高晃洋さん。持っているのはバランスゲーム「wiggle」

 ブースには、くねくねしたブロックを積み上げるバランスゲーム「wiggle」も並びました。大高製作所と地元の相模女子大学生活デザイン学科との産学連携で生まれ、製造だけでなく販売やブランディングも意識し、金型製造にとどまらない可能性を追求しています。

 「GOOD LIFE フェア」は製造業だけでなく、地域色豊かな食に関するブースも少なくありません。その一つが「発酵オカン」です。

 酒蔵やしょうゆ蔵などがある滋賀県長浜市木之本町で、鮒ずしや野菜のぬか漬けなどの発酵文化を守り継承する女性たちの地域おこし活動です。ブースでは活動の様子をパネルや写真で紹介し、漬物の試食提供も行っていました。

 これまで「オカンの発酵便」という発酵食の販売や、発酵関連の店などを載せたイラスト付きのマップ制作、イベント開催などを続けてきました。活動が全国ネットのテレビ番組で取り上げられるなど評判を呼び、出版の話も持ち上がりました。

藤澤佳織さん(右)と「発酵オカン」のメンバーら
藤澤佳織さん(右)と「発酵オカン」のメンバーら

 出版プロデュースを手がけているのが、藤沢製本(滋賀県大津市)代表の藤澤佳織さん(35)です。「中小企業の嫁」と名乗り、X(旧ツイッター)などで発信している藤澤さんは「発酵オカン」の活動に共感。個人事業として協力することになりました。

 「子育てや家業の手伝いをしながら発酵文化を守り、つなごうとしています。皆さんが現役のうちにその活動を本に残したいと思い、企画に関わりました」

 現在は製本業を行っていませんが、藤澤さんの経験は出版企画に生きています。印刷は個性的なデザインの本を手がける藤原印刷(長野県松本市)に依頼しました。

 「私は出版社、著者、本の制作者、すべての間に入り橋渡しができます。コスト計算や台割(ページ構成の設計)もできるので、『カバーや帯はつけなくていい』といった提案もしています」

「発酵オカン」のブース
「発酵オカン」のブース

 出展に合わせてクラウドファンディングを立ち上げ、2025年秋の出版を目指しています。藤澤さんは「販売目標は3千部です。大変だけど明るくハツラツと発酵文化を伝えるオカンの生き様を、本を通じて都会の女性にも伝えたいと思っています」と話しました。

 「GOOD LIFE フェア」はほかにも中小企業が多数ブースを出展しており、10月27日まで開かれています。