目次

  1. 市場創出 なぜ日本企業は苦手なのか
  2. 「新市場創出サービス」とは
  3. 「新市場創出サービス」活用の具体例
  4. 新市場創出サービスの課題と展望

 「社会実装を支援するサポート産業の実態とその振興に関する調査」によると、過去存在していなかった新市場に投入された新規事業が売上高に占める割合は、アメリカが6.1%に対し、日本は0.7%にとどまっています。

 その原因の一つとして、イノベーションが、既存の規制を突破したり、潜在的な需要を掘り起こしたりするためにステークホルダーと協力しなければ成り立たないものへと変化していることがあります。

エコシステム型イノベーション・プロセス
エコシステム型イノベーション・プロセス

 経済産業省の「2019年版ものづくり白書」(PDF方式)によると、製造業のうち「事業活動はルールに適合していなければならない」と考える企業の割合が61.2%に上る一方、「事業活動を利するように変えていくべき」と考える企業の割合は4.8%。マーケット拡大や利益確保のために国内外において自社が有利となるよう、ルール改正や新たなルール形成を働きかけた経験がある企業は5.6%にとどまっています。

 しかし、ルール形成に取り組むことで市場創出を目指してきた企業上位37社のCAGR(年平均成長率)は約4%と、日本企業の平均を大幅に上回っています。

 よく知られた例として、ダイキン工業は中国で初のインバータエアコンに関する省エネ規制の導入に貢献した結果、中国で売上高を大幅に伸ばすことに成功しました。

ダイキン工業の中国における家庭用エアコン事業売上高の推移
ダイキン工業の中国における家庭用エアコン事業売上高の推移(2019年版ものづくり白書から https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2019/index.html)

 イノベーションが市場に普及するためには、イノベーターだけでなく、アーリーアダプターまでに広がる「普及率16%」のラインを超えることが必要とされています。

「社会実装」が進む閾値
「社会実装」が進む閾値

 ただし、1社だけで市場創出が難しくなっているため、経産省の調査事業のなかで注目しているのが「新市場創出サービス」です。

 新市場創出サービスとは、中長期的な社会・経済の流れを利用して、問題設定やストーリーテリング等を通じてステークホルダーの共感を獲得し、協力を集めることで、顧客が目指すイノベーションの社会実装に必要な外部環境(規制、基準、規範、共通認識等)の構築を支援するサービスのことを指します。

 サービスの提供者として、戦略コンサルタントや弁護士、規格開発機関、パブリック・アフェアーズ、パブリック・リレーションズ、ロビイストが挙げられています。このほか、大学、シンクタンク、金融機関、NPO/NGO等も広義ではサービス提供者となり得るといいます。

 たとえば、民泊事業は、新市場創出サービスを以下のように活用しました。

新市場創出サービスの活用イメージ(例:民泊事業)
新市場創出サービスの活用イメージ(例:民泊事業)

経営コンサルタント:地方創生や宿舎不足の解消といった大義設定や環境分析を支援
パブリック・リレーションズ:業界団体の発足に貢献
政策コンサルタント:議員への説明機会提供など、政策提言を支援
法律事務所:住宅宿泊事業法への登録システム導入など、法制度整備を支援

 このほか、経産省の調査事業では、新市場創出サービスの具体的なユースケースとしては、以下のような事例を紹介しています。

嚥下食の普及: 嚥下障害児が口から食べる喜びを享受する権利があるという世論を喚起し、調整食の条件や環境要件の設定について行政機関へ働きかけ
リペアサービスの普及: 環境負荷の低減を訴求し、「リペアラブル」指標の国際標準化を支援
保育Techの普及:保育Techが育児者の社会進出に資する旨の世論を喚起し、中小規模保育園によるTech活用のための業界プラットフォーム構築を支援
未病対策:2017年の政府の健康・医療戦略に「未病」という概念を埋め込み、消費者への認知度向上を図る

 新市場創出サービスの成長と普及には課題もあります。

事業会社側の課題 社会課題解決でステークホルダーから協力を集めてマネタイズする「ビジネスモデル描画」の弱さ
「最初の成果」の遅さによる事業部での予算獲得の困難性
サービス提供者側の課題 コンサル・PR等の成熟サービスの“新市場創出”スキルの弱さ
行政・立法・民間の各業務経験を持つ「回転ドア」人材の不足
「市民社会セクター」「消費者変革」プレイヤー(NPO等)の不参加
行政機関等側の課題 顕在化している業界ニーズへの足元支援に傾倒している
中央省庁によるルール/エコシステム形成の政策の後工程を担う業界団体(中長期に当該アジェンダにコミット)内部の機能欠如

 こうした課題に対し、有識者検討会からは「新市場創出サービスの基本知識や、効果的な活用モデルを整備してはどうか」「新市場創出サービスに関する知識を整理し、社会人向けの教育機関等に周知してはどうか」といった意見が出ていました。