ビジネスにおける洗い出しとは?業務改善との関係と活用できるフレームワーク
業務プロセス改善や、業務の効率化を目的として行う作業を「洗い出し」といいます。この記事ではビジネスにおける洗い出しについて、その重要性や意味、洗い出しに使われる代表的な手法やフレームワークを紹介します。また、その際の問題点について社労士が解説します。
業務プロセス改善や、業務の効率化を目的として行う作業を「洗い出し」といいます。この記事ではビジネスにおける洗い出しについて、その重要性や意味、洗い出しに使われる代表的な手法やフレームワークを紹介します。また、その際の問題点について社労士が解説します。
ビジネスにおける「洗い出し」とは、特定の課題や状況に対して、隠れている問題や要素を明確にするために、関連する事柄を全てリストアップするプロセスを指します。このプロセスには「問題点の洗い出し」や「業務の洗い出し」が含まれます。
ビジネスにおける「洗い出し」は、問題の特定と解決のための重要なステップです。プロジェクトの準備段階やトラブル発生時、業務フロー改善の際によく用いられ、問題解決や改善の第一歩として、現状把握や根本的な原因を特定するために行われるものです。
そもそも、「洗い出す」という言葉には「詳しく調べあげて、事実を明らかにする」という意味があります(参照:「洗い出す」|デジタル大辞泉)。
この意味での用例には、下記のようなものが挙げられます。
ビジネスにおいて、「洗い出し」という行為には「問題点の洗い出し」と「業務の洗い出し」の2つの異なる内容が含まれます。
「問題点の洗い出し」とは、現状の課題や障害を具体的に特定する作業です。言い換えると、問題点の洗い出しは「現状分析」や「課題抽出」と表現されます。これらは、表面的な問題だけでなく、根本的な原因を探るために行われる作業です。
この「問題点の洗い出し」の作業の一環として行われるのが「業務の洗い出し」です。これは、まず業務内容を細かく分解し、どの業務がどの程度の時間を要するか、各業務がどのように関連しているかなどを明確にする作業をいいます。
業務プロセス改善(業務の流れ全体の改善)を行う際、まず「業務を洗い出す」ことで、業務の流れや各ステップを可視化し、その中で具体的な問題点を特定するステップが「問題点の洗い出し」です。
問題点の洗い出しと業務プロセス改善は、ビジネスの効率向上や生産性の向上において非常に密接な関係があります。
業務プロセス改善とは、企業や組織が業務プロセスの効率化や生産性向上を図るために行う取り組みです。現状の業務を分析し、無駄や非効率な部分を特定したうえで、改善策を立案・実行します。業務プロセス改善は、一般的には下記のような手順で行われます。
業務改善の一般的な手順 |
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1.現状の把握・分析 2.問題点の洗い出し 3.問題点に対する対応レベリング・優先順位付け 4.原因分析と仮説設定 5.仮説に基づく改善案の立案 6.改善案の実行 7.改善案の評価と継続的実施 |
これら一連の業務プロセス改善は、業務全体の効率を高め、コスト削減や品質向上の実現を目的として行われます。このプロセスに「問題点の洗い出し」が含まれていることから、業務プロセスの改善において問題点の洗い出しの果たす役割は重要なものといえます。
「問題点の洗い出し」は、業務改善の全体の中で中心的な役割を果たします。問題点の洗い出しが不十分であった場合、適切な原因分析や改善策の立案が難しくなり、結果として改善の効果が期待通りにならないことがあります。逆に、適切な問題点の洗い出しが行われれば、その後のプロセスがスムーズに進むため、的確な改善が可能です。
その前提として、的確な業務把握が求められます。業務の洗い出しを行うことによって、業務の流れ全体が見えてきます。この業務の洗い出しを含めて問題点を洗い出していくことで、非効率や無駄な部分を的確に特定でき、その後の原因分析や改善策の立案が可能になります。
ほかにも、業務プロセス改善において洗い出しを行うことは、下記のようなメリットがあります。
業務プロセス改善において洗い出しを行う際に有効な方法として、下記のようなものが挙げられます。
業務プロセス改善で洗い出しをする方法 |
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・現場ヒアリングの実施 ・タイムスタディ(作業時間の観察) ・業務フローの可視化 ・データ分析 |
これらは単独で行うものではなく、複数を組み合わせて実施することが重要です。それによって、抜け漏れなく個々の業務や全体としての問題点を洗い出すことが可能になります。
現場の担当者やチームメンバーに直接ヒアリングを行い、日常の業務のなかでどのような問題や課題があるのかを確認します。業務に携わる人たちの実際の経験を基に現実的な問題を把握できるため、実務に基づいた改善ポイントが見つかります。
各業務にかかる時間を詳細に記録・観察し、どの部分で無駄や遅れが発生しているかを特定します。特に、長時間かかるタスクや遅延の発生源を見つけ出し、改善すべきプロセスを洗い出すのに役立ちます。
業務の流れをフローチャートやプロセスマップで視覚化し、各ステップを確認します。これにより、無駄な手順や重複しているプロセスが明らかになり、どこに改善の余地があるのかを見つけやすくなります。
業務の効率に関わるデータ(例えば、エラーレート、顧客満足度、処理件数など)を集めて分析し、数値的な裏付けを基に問題点を洗い出します。データを基にすることで、感覚的ではなく、客観的に問題を把握できます。
洗い出しを行うにあたり、さまざまなフレームワークが活用できます。ここでは、代表的なフレームワークをメリット・デメリットと共に説明します。状況や目的に応じて、適切なフレームワークを選択することが重要です。
洗い出しに役立つフレームワーク | |
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バリューチェーン分析 | 企業が商品やサービスを市場に届けるまでの一連の活動を「価値創造の流れ」として捉えるフレームワーク |
ロジックツリー | 問題や課題を抜け漏れなく論理的に分解していくフレームワーク |
SWOT分析 | 内部環境と外部環境を分析するフレームワーク |
なぜなぜ分析 | 「なぜ」を複数回繰り返し問いかけ、問題の根本原因を突き止める手法 |
PDCAサイクル | 「Plan」「Do」「Check」「Act」の4つのステップを繰り返し、業務を継続的に改善するフレームワーク |
フィッシュボーンチャート | 問題の要因を「人」「物」「方法」「環境」などに分類し、問題の根本原因を視覚的に整理するツール |
ECRS | 業務プロセスの改善を行う際に、無駄を排除し効率化を進めるためのフレームワーク |
バリューチェーン分析は、企業が商品やサービスを市場に届けるまでの一連の活動を「価値創造の流れ」として捉えるフレームワークです。原材料の調達を起点とし、利益を得るまでの過程を物流、製造、マーケティング、販売、サービスといった「主活動」と、それを支える経営基盤、技術開発、人事、調達などの「支援活動」に分けて、どの活動が価値を生み出しているか、どの部分に改善の余地があるかを分析するものです。
バリューチェーン分析のメリットには、各業務活動がどのように価値を生み出しているかを詳細に把握できること、各プロセスの個別改善により全体の競争力を強化できることなどが挙げられます。
一方、長期的な視点が必要であるため、すぐに成果が見えにくい点はデメリットです。複数の商品・商材を保有する場合は個別に分析を行ったうえで統合して検討する必要があるため、より時間とコストがかかります。
ロジックツリーは、問題や課題を抜け漏れなく論理的に分解していくフレームワークです。問題や目標をツリー状にブレイクダウンし、全体の構造を明確にします。要素構造を把握するための「Whatツリー」、原因掘り下げのための「Whyツリー」、解決策掘り下げための「Howツリー」などがあります。
ロジックツリーのメリットとしては、複雑な問題を分かりやすく整理できるため、問題の全体像を視覚的に把握できること、問題の根本的な原因とそこに対する解決策を体系的に導き出すのに役立つことが挙げられます。
デメリットには、分解の深さが浅いと表面的な理解にとどまることがあること、抜け漏れがあるツリーだと有効な分解ができないことが挙げられます。
SWOT分析は、内部環境と外部環境を分析するフレームワークです。内部要因として「強み(Strength)」と「弱み(Weakness)」を、外部要因として「機会(Opportunity)」と「脅威(Threat)」を整理します。
SWOT分析のメリットは、内部と外部の両面から業務の現状を俯瞰できること、問題点だけでなく改善の機会も見つけやすいことが挙げられます。
デメリットとしては、定性的な分析が主になるため具体的な解決策に落とし込むまでに追加の分析が必要であること、多くの視点を網羅するため問題の焦点がぼやけやすいことなどが挙げられます。
なぜなぜ分析は、「なぜ」を複数回繰り返し問いかけることで、問題の根本原因を突き止める手法です。問題の表面的な原因にとどまらず、深いレベルでの原因を追求します。「なぜ」を5回繰り返し行うことで根本原因にたどり着くとされていることから5Whysとも言います。
なぜなぜ分析のメリットは、問題の根本原因をシンプルに発見できること、複雑な問題でも簡単な手順で原因を探れることです。
デメリットは、主観的な判断に頼りがちで客観性に欠けることがある場合があること、 「なぜ」の追求が適切に行われないと誤った原因にたどり着く可能性があることが挙げられます。
PDCAサイクルは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」の4つのステップを繰り返すことで、業務を継続的に改善するフレームワークです。
PDCAサイクルのメリットは、業務改善を継続的に実行できること、評価と改善を繰り返すことで問題点に対して持続的な改善が可能になることです。
デメリットには改善サイクルが長期に渡るため、効果が出るまでに時間がかかることがあること、改善を行う際は組織全体の協力が必要で、適切に回らない場合は効果が薄れることが挙げられます。
フィッシュボーンチャート(フィッシュボーンダイアグラム、特性要因図)とは、問題の要因を「人」「物」「方法」「環境」などに分類し、問題の根本原因を視覚的に整理するツールです。魚の骨の形に見えることからその名がついています。
フィッシュボーンチャートのメリットは、複数の要因を体系的に整理でき、原因と結果の関係が明確になること、チームでのブレインストーミングに最適で、視覚的に理解しやすいことが挙げられます。
デメリットとしては、因果関係が複雑すぎる場合に図が混乱する可能性があること、あくまでも仮説としての原因の整理にとどまるため、改善に当たっては仮説検証のプロセスを別に用意する必要があることなどが挙げられます。
ECRSは、業務プロセスの改善を行う際に、無駄を排除し効率化を進めるためのフレームワークで、改善の4原則とも呼ばれます。「排除(Eliminate)」「結合(Combine)」「交換(Rearrange)」「簡素化(Simplify)」の視点から問題点を洗い出し、多くの場合この順番で取り組むことで効果を得られるとされています。
ECRSのメリットは、問題をシンプルに提示でき、すぐに行動に移しやすいこと、課題解決のための手順がわかりやすいことが挙げられます。デメリットは、問題点の設定が抽象的である場合は表面的な解決にとどまりやすいことや、網羅的な視点に欠けるため改善範囲が多岐にわたる場合は補完するフレームワークも活用する必要があることなどが挙げられます。
個々の業務や全社的な問題点・課題について洗い出しを行う際に注意すべき点について、代表的なものを解説します。
業務プロセス改善で洗い出しを行うときの注意点 |
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・問題の根本的原因を捉えているか疑う姿勢を持つ ・一面のみの情報で判断しない ・急いで結論を出さない ・問題点を特定の部署・個人に押し付けない |
問題があると認識している状態で洗い出しを行うと、表面的な問題のみを拾い上げてしまい、根本的な原因にたどり着かないことがあります。
例えば「作業の遅れ」が問題として洗い出された場合、それがスケジュール管理の問題なのか、リソース不足なのか、技術的な障害なのか、深堀りしなければ根本的な改善にはつながりません。
問題の根本的な原因を捉えるためには、洗い出した問題にどのような背景があるのかを意識しつつ、問題の本質を検討する姿勢が重要です。
前述のとおり、洗い出しにはさまざまなフレームワークや手法があります。しかし、それらのフレームワークや手法の一つの方法のみで洗い出しを行うと、見方や視点が偏りがちです。
例えば、個別の業務の洗い出しを行う際にタイムスタディの手法を用いて行った場合に、併せてヒアリングを行うことでその工程に関する現場の意見を確認するなど、複数の視点で洗い出しを行うとよいでしょう。
業務プロセス改善に関する洗い出しを行う際、問題点に関する仮説を持つことは重要ですが、仮説を短絡的に結論付けてしまうと問題の本質を見誤る可能性が生じます。洗い出しの過程では問題点を決めつけることなく網羅的に洗い出していくことが求められます。
業界構造や法令の関係ですぐに改善が難しいものも含め、バイアスにとらわれずさまざまな立場・観点から状況を整理しましょう。
洗い出しの過程で、問題点が特定の部署や作業に端を発していると思われる場合があります。しかし、それは組織風土や業界慣習などに原因がある場合も多いものです。特定の部署や個人に責任を期することなく、全社的な問題として改善に取り組んでいく姿勢が求められます。
洗い出しは組織全体の問題点を浮き彫りにし、業務自体の棚卸や工程の把握や業務プロセスの課題抽出のためになるものです。洗い出しを行う際は抜け漏れがないよう留意し、効率的な改善につなげましょう。
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