木造建築物の維持保全方法をわかりやすく紹介 国土交通省が冊子を作成
杉本崇
(最終更新:)
地球温暖化対策としてCO2排出量削減が求められるなか、木材は伐採後も炭素を貯蔵し続ける「カーボンストック」効果を持つため、政府は建築物への木材利用を広げようとしています。ただし、木造の維持保全・維持管理の方法やコストを懸念する建築主もいるため、国土交通省が「中大規模建築物に木材を使用する際にあたって知りたい維持保全・維持管理の考え方と設計等の工夫」というパンフレットをまとめ、公表しました。木造化を検討するときの懸念事項となる経年劣化や維持管理方法、コストについて整理しました。
カーボンニュートラル実現へ 政府が木造建築を後押し
政府は2020年10月に、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル宣言』を出しました。
こうしたなか、林野庁の公式サイトによると、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が2010年に制定されました。街中に木造建築物が増えると、木の建築が増えると、炭素を貯蔵し続ける「カーボンストック」の効果が期待できます。
しかし、民間の非住宅分野や中高層建築物では木造はなかなか広がっていません。
そこで、政府は法律を改正し、法律の題名が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律<通称:都市(まち)の木造化推進法>」に変更して、2021年10月1日に施行しました。
しかし、木造建築物の維持保全・維持管理の方法を示した情報が少ないのが現状です。そこで、築物の木造化・木質化を検討する際、懸念事項となる経年劣化や維持管理方法、コストなどを、建築主向けにまとめたパンフレット「中大規模建築物に木材を使用する際に知っておきたい維持保全・維持管理の考え方と設計等の工夫」にまとめました。
木造建築物の維持保全・維持管理の目的
国交省のパンフレットは、具体的に木造建築物の維持保全・維持管理のポイントを整理しています。まず、木造建築物の維持保全・維持管理の目的は、時間の経過に伴う建築物の性能低下に対し、耐用年数を迎えるまでの間、建設当初の性能を保つことであり、具体的には以下の4つがあります。
- 建築物の安全性の確保
- 建築物内の安全·快適かつ衛生的な環境の保持
- ランニングコスト、ランニングCO2の節減
- 資産価値、建築物に要求される性能及び機能の保持
木造建築物の維持保全・維持管理の注意点
木造建築物であっても、建築基準法で、施設所有者や施設管理者などに対して建築物の構造等を常時適法な状態に維持保全すべき努力義務が課されており、一定の建築物に対して、必要に応じ、維持保全計画の作成や適切な措置を講じる義務が課されていることに注意が必要です。
木材の場合はとくに変化や劣化が生じてから対応しようとすると、維持保全に係る費用が大きくなる可能性があります。たとえば、ひとたびシロアリによる食害や腐朽などが起きると、被害範囲が急速に拡大してしまいます。そのため、予防保全が大切です。
木造建築物の木材利用部の維持保全コスト(メンテナンスコスト)を低減するためには、木
材利用部を水分や湿気から保護することが重要で、複数の保護対策を組み合わせることによって耐久性が確保できるようになります。
そのため設計時から、木材利用部を水分や湿気から保護する設計の工夫、損傷しやすい部分や確認·交換が難しい部分に用いる使用材料の工夫、問題が生じてしまった場合に早期発見対応につながる工夫を考えておくとよいでしょう。
木材利用部の維持保全のために設計時にできる工夫
建築物の木材はおもに躯体(基礎や柱、梁、壁など)、外装材、内装材などに使われます。共通点として、以下の3つがあります。
- 木材は、紫外線等の影響により経年変化し、色調が変わる材料である
- 木材の耐久性を高めるために防腐防蟻薬剤の注入、含浸、塗布等を行った場合、あるいは木材に難燃性を付与するために難燃薬剤を注入、含浸、塗布等を行った場合、塗膜のはく離、破損や白華現象等の外観の変化があり得る
- 使用木材や薬剤の事業者と入念に打合せを行うことが必要不可欠である
それぞれの設計時に工夫したいポイントは以下の通りです。
躯体
躯体は交換等が難しいため、計画供用期間と同等の耐用年数とし、設計等の工夫により耐久性を確保した上で損傷や劣化が生じないよう適切な維持保全を計画する必要があります。
躯体の一部が屋外露出する場合、雨掛りを防ぐなどの設計等の工夫とともに、木材保護塗料の定期的な塗布を行うことが重要となります。
また、床下のピットがシロアリの侵入経路となる場合もあることに留意し、ピット回りの木材の点検が可能なよう配慮する必要もあります。
乾燥・収縮により木材表面に生じる割れは構造耐力上問題になることは少ないのですが、接合部に生じた割れには留意しましょう。
外装材
外装材は風化やシロアリ被害などが起きやすいため、軒の出の寸法確保、耐久性の高い材料利用など、設計等の工夫により生じる変化の速度を緩やかにする工夫をしましょう。
また、基材である木材を屋外環境から保護するため、木材保護塗料を塗装する必要があります。基材保護のために定期的な再塗装を行うこと、木材保護塗料を用いても経年により基材の損傷が進むため交換が必要であることを考慮しておきましょう。
内装材
壁仕上材では、木材保護塗料を用いる場合、無塗装とする場合のどちらも色彩の変化が主となります。
また、床仕上材として下足で使用する場合、ワックス等の造膜により基材を保護することを念頭に入れておきましょう。どちらも、経年や重量による変形等によりささくれが生じる場合があり、補修や交換の要否を判断する。加えて水分や湿気が継続的に作用する場合、外装材と同様の措置が必要となることにも注意が必要です。
そのほかの部位で木材を使う場合の注意点
そのほかの部位で木材を使う場合のチェックポイントは以下の通りです。
床下
床下を点検しやすいように点検口(複数)、床下の高さを確保している。
床下に配置される構造材には耐久性の高い木材·木質材料を用いている。
床下は、べた基礎などのコンクリートで覆う構造となっている(北海道などを除く)。
基礎の配管回りなどの隙間には、防蟻性のあるシーリング材の充填などの防蟻対策を講じている。
基礎外側に断熱材を施工する(基礎断熱等)場合、断熱材と地盤との縁を切るなど、シロアリが侵入しにくい措置を講じている
屋根・屋上
谷部を少なくするなど、雨水が適切に排水される計画となっている。
パラペットや壁·屋根の取り合い部の防水立ち上がりなどの寸法が適切に確保されている。
地面での雨水の跳ね返りなどが生じない、または生じても木材を用いる部分に作用しない距離と対策が確保されている。
といの清掃など、日常的な維持保全が可能なつくりとなっている。
外装材(非構造材)
外装材が軒や庇によって雨や紫外線から保護されている。
外装材の隙間から雨水が浸入した際に、壁体内の木材に雨水を作用させないつくりとしている。
外装材として利用する木材を長持ちさせるためには、定期的な再塗装及び交換が必要であることを理解している。
木材の厚みなどにより防耐火性能を確保している場合、瘦せ等の変形が生じないよう、適切に維持保全を行うことを理解している。
躯体と接合部
躯体は計画耐用年数の問、交換等を要しないつくりとしている。
外壁通気工法等、軸組の乾燥を保つつくりとしている。
点検や修繕がしにくい部材などは、耐久性の高い材料を用いている。
屋外に現しで用いる躯体は、外装材と同様、雨水や紫外線からの保護、再塗装等が必要であることを理解している。
屋外に現しで用いる躯体は、木口面を金属製の笠木で覆うなど雨水作用を抑えるつくりとしている。
接合部は水が溜まりにくい納まりとするなど、環境に応じたつくりとしている。
外部建具
開口部回りの防水納まり、外壁との取り合い部(シーリング等)の維持保全について理解している。
(木製建具の場合)外側の枠材には、外装木材と同様の変化が生じることを理解している。
内装材
内装材に使用する木材には、割れや変色などの経年変化が生じることを理解している。
高湿となる室内環境下では、結露の発生に伴う腐朽が生じるおそれがあることを理解している。