目次

  1. 入社祝い金(就職お祝い金)とは からくりを紹介
  2. 職業紹介事業者における入社祝い金規制、2021年4月から
  3. 職業紹介事業の許可条件に入社祝い金禁止を追加 2025年1月から
  4. 募集情報等提供事業も入社祝い金を禁止 2025年4月から

 入社祝い金とは、「当サービスに登録し採用された方を対象に入社祝い金を差し上げます」などといった触れ込みで、採用が決まった労働者側に一定の条件の下で支給する金銭や金券などのことです。

 人手不足が深刻な医療、介護、保育の3分野や製造業の期間工などで入社祝い金の触れ込みが多くみられました。

 転職エージェントや人材紹介会社などの職業紹介事業者は、紹介した求職者と求人を出していた会社が雇用契約を結ぶと、その会社から手数料を受け取るのが通例です。

 雇用契約がたくさん成立すると職業紹介事業者の収益増につながるため、手数料の一部を求職者に入社祝い金として渡し、就職を促そうする職業紹介事業者がいました。

 入社祝い金について、求職者の立場からすると、お得に思えるかもしれません。しかし、厚労省は、求職者の判断を金銭で誘導してしまうだけでなく、求職者の適性を評価せずに紹介してしまったり、不適切な転職や短期間での離職が増加するリスクを高めてしまったりする可能性があるとして問題視しています。

 厚生労働省が2023年8月~2024年5月に実施した調査(PDF)によると、入社祝い金について次のような指導事例があります。

  • 面接実施時に電子ギフトカード(数千円)を支給
  • 知人を紹介した人、紹介されて求職登録した人それぞれに対して旅行券(数万円)や電子ギフトカード(数千円)を支給
  • 資格取得費用または研修講座受講費用(数万円程度)のキャッシュバックを実施
  • 紹介により就職し一定期間後にアンケート回答した場合に支給(数万円程度)
  • 求職登録し就職した者を対象とした無料宿泊券の支給
職業紹介事業者に対する「就職お祝い金」の禁止
職業紹介事業者に対する「就職お祝い金」の禁止(厚労省のリーフレットから)

 厚労省のリーフレット(PDF)によると、職業安定法にもとづく指針は2021年4月1日から、職業紹介事業者が「就職お祝い金(入社祝い金)」の名目で求職者に金銭等を提供して求職の申し込みを勧奨することを禁じています。

 さらに、職業紹介事業者に対し、自らの紹介で就職した無期雇用契約者に対して、就職した日から2年間は、転職を勧めることを禁じました。これは、職業紹介事業者が、自社で紹介した就職者に対して短期間で転職させて、繰り返し手数料収入を得ようとすることを防ぐためのものです。

 ただし、上記の指導事例のように、違反事例が後を絶たないため、厚労省は2025年から規制を強化することにしました。

2025年1月から追加される職業紹介事業の許可条件
2025年1月から追加される職業紹介事業の許可条件(厚労省のリーフレットから)

 厚労省のリーフレット(PDF)によると、2025年1月1日から、職業安定法指針に規定されている「転職勧奨の禁止」と「お祝い金等の提供の禁止」が許可条件に追加されます。つまり、入社祝い金を設けている事業者は、職業紹介事業を営むことができなくなります。

 具体的には、新たに追加される許可条件の内容は以下の通りです。

  • その紹介により就職した者(期間の定めのない労働契約を締結した者に限る)に対し、当該就職した日から2年間、転職の勧奨を行ってはならないこと
  • 求職の申込みの勧奨については、お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる程度を超えて求職者に金銭等を提供することによって行ってはならないこと

 2025年1月1日以降の許可や許可有効期間の更新には、この許可条件が追加さます。ただし、更新前にこの職業安定法指針に違反した場合、厚労省は是正指導をし、この時点で許可条件を追加します。

 これまで、求人サイト・求人情報誌などを運営する募集情報等提供事業者は入社祝い金を禁止されていませんでした。

募集情報等提供事業者の入社祝い金の禁止
募集情報等提供事業者の入社祝い金の禁止

 しかし、同じように早期離転職や、求人を出している会社の手数料負担の問題が起こっています。厚労省のリーフレット(PDF)によると、厚労省は2025年4月1日から職業安定法にもとづく省令と指針を一部改正し、募集情報等提供事業者についても労働者に金銭やギフト券等を提供することを原則禁止とします。

 ポイントは以下の通りです。

  • 労働者になろうとする者に、金銭等の提供は好ましくなく、社会通念上相当と認められる程度を超えて、金銭などを提供することを行ってはいけません
  • 募集情報等提供事業の利用料金、違約金等の額、発生条件、解除方法等を含む契約の内容について、分かりやすく明瞭かつ正確に記載した書面または電子メールその他の適切な方法により、あらかじめ募集主に誤解が生じないよう明示してください

 「社会通念上相当と認められる程度」とは、厚労省が個々のケースについて、提供される金銭等の趣旨だけでなく、額や経済価値、提供手法、その有する離転職誘引効果、複数事業者からの料金請求等に伴うトラブルが生じやすいまたは生じてきた形態かどうかなど、労働市場への影響をみて、総合的に判断することになります。

 一方で、以下のようなケースは対象外となります。

  • 提供するサービスの質の向上を図るため、サービス利用者からアンケート等への回答を求める場合であって、回答者すべてに対してではなく、抽選による少数者に対して、500円程度の電子ギフト券等を提供するもの
  • イベント来場者を確保するため、転職フェアへの来場及びブース訪問者に対して、500円程度の電子ギフト券等を提供するもの(求人サイトへの登録の対価として提供されるものを除く)