目次

  1. チャーンレートとは
    1. チャーンレートの意味
    2. チャーンレートが注目されている理由
    3. チャーンレートとLTVの関係性
  2. チャーンレートの平均・目安
  3. チャーンレートの種類と計算方法
    1. カスタマーチャーンレート(顧客数ベースのチャーンレート)
    2. アカウントチャーンレート(アカウントやIDベースのチャーンレート)
    3. レベニューチャーンレート(収益をベースにしたチャーンレート)
  4. チャーンレートがマイナスになる「ネガティブチャーン」
  5. チャーンレートを改善する(下げる)方法
    1. 製品・サービスの機能を強化したり、品質を向上させる
    2. 顧客サポートを充実させる
    3. 価格を確認する
    4. 強い競合との真正面からの戦いを避ける
    5. 使いこなせるようにする
  6. チャーンレートを意識しよう

 SaaS(Software as a Service)事業者など、サブスクリプションビジネスに取り組む事業者にとって、チャーンレート(Churn Rate)は、極めて重要な意味を持ちます。ここでは、チャーンレートの意味とチャーンレートが重要な理由について、詳しく解説していきます。

 チャーンレートとは、一定期間内に顧客がサービスを解約する割合のことを指します。日本語では「解約率」や「顧客離脱率」とも呼ばれています。簡単に言うと「顧客がサービスを使うのをやめてしまう割合」のことです。

 たとえば、ある動画配信サービスの一ヶ月のチャーンレートが5%だったとすると、一カ月の間に全契約者の5%がサービスを解約したことになります。つまり、チャーンレートが高いほど顧客離れが進んでおり、低いほど顧客定着率が高いというわけです。

 チャーンレートは主に、サブスクリプション型のビジネスモデルを採用している企業で重要視されてきました。具体的には、SaaS(Software as a Service)事業者、保険会社、新聞社、通信会社、動画・音楽配信サービス事業者などが挙げられます。

 昨今サブスクリプションビジネスに参入する中小企業も増えていることから、チャーンレートの適切な管理と分析は、現代のビジネス環境における中小企業の成長戦略に不可欠なテーマといえます。

 チャーンレートが注目されている理由は、大きく3点あります。

理由 概要
サブスクリプションビジネスの特性 サブスクリプションビジネスは、顧客に一定期間、製品やサービスを提供し、定期的に料金を回収するビジネス。顧客の解約は収益の減少をもたらすばかりでなく、早期解約の場合、総収益が顧客獲得コストを下回るリスクがある
収益の予測可能性 サブスクリプションビジネスは定期的な課金により、景気に左右されにくく、安定した収益基盤を築きやすい。予測可能性が高いため、中長期的な収益計画が立てやすくなる。チャーンレートを把握することで将来の収益をより正確に予測できるようになる
サービスの健全性を図る指標 チャーンレートは、顧客満足度や製品の市場適合性(PMF)を反映する指標として機能する。高いチャーンレートは、ビジネスに何かしらの問題があることを示唆している

 チャーンレートを考えるうえで、LTVとの関係性は欠かせません。LTVとは、Life Time Value、すなわち顧客生涯価値のことです。LTVはその言葉の通り、1人や1社の顧客が、「顧客生涯」を通じて生み出すと予測される収益のことを指しています。

 たとえば、月額1,000円のサービスを顧客が12カ月利用するとした場合、LTVは12,000円となります。これは単一顧客のLTVの計算式ですが、通常のビジネスでは複数の顧客が存在します。複数顧客を踏まえたLTV計算を行ううえでは、チャーンレートと顧客当たり平均収益(ARPU)の2指標が必要となります。

指標 概要
チャーンレート 一定期間内に解約した加入者の割合 100人中3人が解約した場合、解約率は3%
顧客あたり平均収益
(ARPU:Average Revenue Per User)
1顧客や1ユーザあたりの平均収益 100人の顧客がいて、半数が月2,000円、残り半数が月4,000円の場合、ARPUは月3,000円

 上記を踏まえたLTVの計算式は、以下の通りです。

LTV = ARPU / 解約率

 上記の例に当てはめると、計算式は以下のようになります。

3,000円(ARPU)/ 3%(解約率)= 100,000円(LTV)

 計算してみるとわかる通り、チャーンレートが高いほどLTVは低下します。そのため、チャーンレートとLTVの両方に注意を払うことが重要です。

 チャーンレートの平均は、厳密にはターゲットとしている顧客層やBtoB、BtoCビジネスのどちらを対象としているかなどによって異なります。目安として、サブスクリプション管理のプラットフォームを提供しているRecurly社の調査結果を紹介します。

業界別のチャーンレートの平均
ソフトウェアサービス(SaaS) 約3.5%
デジタルメディア・エンターテイメント 約6.9%
教育コンテンツ 約6.7%
消費財・小売 約5.5%
ビジネス・専門サービス 約4.1%
旅行・エンターテイメント 約3.8%

 サブスクリプションの価値を決める要素は、価格や便利さ、使いやすさなどさまざまです。特に一般消費者向け(BtoC)では、各利用者によって価値の感じ方が大きく異なります。

 BtoCの顧客は価格の変化に敏感で、少しの値上げや値下げでも需要やチャーンレートに大きな影響を与え、LTVに影響を及ぼします。一方、企業向け(BtoB)においては、顧客の業務に不可欠な製品やサービスを提供していることが多く、サブスクリプションを長く続ける傾向があります。

 これまでチャーンレートを説明してきましたが、チャーンレートにはいくつかの種類があります。ここでは詳しく見ていきましょう。

 これは最も一般的なチャーンレートの計算方法です。カスタマーチャーンレートは顧客数を基にした解約率で、顧客の離脱率を示しています。計算式は、以下の通りです。

カスタマーチャーンレート = 一定期間内に解約した顧客数 / 期間初めの顧客数

 たとえば、ある期間開始時の顧客数が1,000人で、1カ月の間に50人が解約した場合のカスタマーチャーンレートは、 (50 ÷ 1,000) × 100 = 5%となります。

 カスタマーチャーンレートと似たような指標で、アカウントチャーンレートと呼ばれるものもあります。これは顧客数ではなく、サービスに登録しているアカウント数やID数を基に算出されるチャーンレートです。顧客数とアカウント数が同一にならないサービスの場合には、こちらを使うと良いでしょう。

アカウントチャーンレート = 一定期間内に解約したアカウント数 / 期間初めのアカウント数

 顧客数ではなく、収益をベースにしたチャーンレートをレベニューチャーンレートといいます。計算式は以下のとおりです。

レベニューチャーンレート = 一定期間内の解約等による損失額 / 期間初めの収益金額

 レベニューチャーンレートは、さらに「グロスレベニューチャーンレート」と「ネットレベニューチャーンレート」の2つに分類されます。

①グロスレベニューチャーンレート

 グロスレベニューチャーンレートは、解約やダウングレードなどによる「損失のみ」を考慮したチャーンレートです。例えば、月初の収益が100万円で、解約による損失が10万円の場合、グロスレベニューチャーンレートは10%です。

②ネットレベニューチャーンレート

 解約やダウングレードによる損失と、追加販売などのアップセルによる増収分を考慮したチャーンレートをネットレベニューチャーンレートと呼びます。増収分が損失分を上回ると、チャーンレートがマイナスになることがありますが、この状態を「ネガティブチャーン」と呼びます。

 ネガティブチャーンは、ネットレベニューチャーンレートがマイナスとなっている状態のことです。つまり、既存顧客からの収益増加が、解約による収益減少を上回っており、マイナスであるほど安定した顧客基盤を築けているといえます。ネガティブチャーンの状態を築くことができると、サブスクリプションビジネスの成長は加速します。

 以下は、毎月2,000ドルの月額収益を追加した場合のサブスクリプションビジネスのシミュレーションです。月間のチャーンレートが2%、0%、-1%、-2%と、5%のネガティブチャーンが生じている状況を示しています。

ネガティブチャーンとは
サブスクビジネスにおけるシミュレーション(筆者作成)

 サブスクリプションビジネスの場合、チャーンレートは短期的な収益にはほとんど影響を与えませんが、数年を経過するとその差は顕著になります。

 月間チャーンレートが5%の事業は、一定の成長をしているにもかかわらず収益は横ばい状態、1%または2%の企業も低成長となっています。一方、ネガティブチャーンが -2% の事業は、それ以外の事業と比べても急激な成長を生み出していることがわかります。

 では、新規顧客の獲得が停滞したサブスクリプションではどうなるのか、シミュレーションしてみましょう。

ネガティブチャーンとは
サブスクビジネスにおけるシミュレーション2(筆者作成)

 新規顧客の獲得が停滞すると、チャーンレートの影響がさらに大きくなります。チャーンが発生している事業ではほぼ横ばい、5%のチャーンが発生している事業では大きくマイナスに転じています。-2%のネガティブチャーンが生じている事業のみが、新規顧客に依存しなくても事業を成長させることができています。

 これまで見てきたように、チャーンレートを低く抑える、積極的にネガティブチャーンを獲得できるようにビジネスをブラッシュアップしていくことが、サブスクリプションビジネスの成否を分けると言っても過言ではないでしょう。

 チャーンレートが高くなってしまう原因はさまざまですが、主なものとして以下が挙げられます。

チャーンレートが高くなってしまう原因
・製品・サービスの機能不足や品質が低い
・顧客サポートが不十分
・価格が高い
・競合が強い
・使いこなせていない

 それでは、チャーンレートを改善する方法にはどのようなものがあるのでしょうか。

 顧客満足度調査などを活用し、顧客の声を収集するとともに、優先度の高い機能を確認し、開発や品質向上などのブラッシュアップをすることが有効です。また、顧客に対して改善点や新機能を伝えて続けるのも大切です。製品の進化を実感してもらえば、長期的な利用を自然と促せます。

 顧客サポートを充実させることは大切ですが、コストに跳ね返るポイントでもあり、中小企業にとっては慎重な検討が必要です。サービスにもよりますが、操作マニュアルやFAQ、使い方の動画などを整備し、顧客が困った際に自身で解決できるような仕掛けを検討したいところです。

 BtoBなのかBtoCなのかによっても異なりますが、特にBtoCのサブスクリプションの場合、価格がチャーンレートに与える影響は大きくなります。競合サービスと比べた際に割高になっていないか、サブスクリプション価格に見合うサービスが提供できているか、商品やサービス機能に応じた、複数のメニューが用意できているかなどを確認しましょう。

 まったく同じ商品・サービスで競合が強い場合には、顧客層をずらしたり、競合と異なる商品・サービスをラインナップに加えたりするのが有効です。逆に、サービスやラインナップを削って価格を下げる対応をするのもありです。強い競合とは別のサービスとして展開することも検討してみましょう。

 これまでの記事で、サブスクリプションビジネスはLTVが大切なことを見てきました。商品やサービスを使いこなせない限り、顧客はすぐに解約を検討します。サブスクリプションビジネスで顧客が使いこなせるようになってもらうためのステップを「オンボーディング(乗船)プロセス」と呼びます。

 サブスクリプションビジネスにおいて顧客を適切にオンボーディングさせることは、LTVを最大化させるための第一歩です。オンボーディングをしてもらうためには、何ができていればよいのかをしっかり検討していきましょう。

 サブスクリプションビジネスは、短期的な売上の高さを出すことが難しいビジネスです。しかしながら、一度収益化が進めば、中長期での安定的な収益を生み出すエンジンとなります。チャーンレートを意識して、ビジネスに取り組んでみましょう。