目次

  1. 貸切バスの横転事故、「ふじあざみライン」で発生
  2. 事故原因「運転手の誤認識と指導不足」
    1. 運転者の誤認識
    2. 事業者・運行管理者の潜在的な危険性指導不足
  3. 再発防止に向けての提言
    1. 運行管理の徹底
    2. 運転者教育の強化
    3. 自動車単体への対策

 事故報告書によると、事故が起きたのは、富士山須走口五合目から小山町須走地区へ至る「ふじあざみライン」の、つづら折りの下り急勾配の道路です。

 大型貸切バスは、エンジンブレーキの効きにくい高い変速段でフットブレーキを多用した結果、走行中にブレーキが効かなくなる「フェード現象」により制動力を失いました。

 バスは、時速約93kmまで加速し、カーブを曲がり切れず、道路左側の法面に衝突・横転した。この事故により、乗客1人が死亡、9人が重傷、18人が軽傷を負いました。

 報告書は、事故原因として、運転者の誤認識だけでなく、事業者・運行管理者の潜在的な危険性指導不足もあったと指摘しています。

 運転手は、大型貸切バスの運転経験年数が短く、事故現場は過去に経験のない急カーブと急勾配の連続した道でした。ここでフットブレーキを多用していました。

 報告書は「事故地点道路においても、エンジンブレーキを効かせるためにシフトダウンすることで発生する、車両の揺動とエンジン騒音の上昇を避け、高い変速段でフットブレーキを使用することによるスムーズな減速を選んだ可能性が考えられる」と指摘しています。

 しかし、フェード現象により、フットブレーキが効かない状況に陥ります。

 運転手は、ここでエンジンブレーキによる制動力を効かせるためシフトダウンを試みました。しかし、車両に装備されたオーバーラン防止機能が働き、変速ができずに、変速機がニュートラル状態となっていたと推定されるといいます。

 運転者は、事故時にはフットブレーキによる制動力を失った状況下で、急勾配による加速と連続するカーブに対応するためのハンドル操作に追われ、冷静な判断ができない状態となり、変速機を変速可能段に入れる操作ができなかったものと考えられます。

 運転手にフェード現象に関する知識はあったものの、他人事で、フットブレーキを踏めばいつでも止まれるといった誤認識があったといいます。事故報告書は、運転手採用時の初任運転者教育こそあったものの、その後のフォローアップが不十分だったことを指摘しています。

 事故報告書によると、事故当日の運行指示書には、急カーブと急勾配の連続するふじあざみラインに対する注意事項の記載はなく、初めて行く山岳道路に不安を感じた運転者が、経験豊富な運行管理者に出庫前に指示を求めていました。

 しかし、運行管理者は、運転者のこれまでの経験を確認し、道路環境の違いと、そこに潜む危険を示した的確な指示をすることができていなかったといいます。

 このことが、フットブレーキを多用するなどの自己流の危険な運転を行った要因のひとつであった可能性が考えられると指摘しています。

 貸切バスの事故から得られる教訓は、事業者全体で安全に対する意識を高め、ハード・ソフト両面からの対策を講じることの重要性です。具体的には、事業者に向けて以下のような対策を提言しています。

 貸切バスの運行では、運転者にとって経験のない経路を運行することが多く、特に、初任運転者等の経験の少ない運転者については、運行の安全を確保するために、事前に経路の調査を行い道路状況、運転要領など必要な情報を運転者に詳細に指示する必要があります。

 運行指示書の作成は、運行上その他一般的な注意事項の記載のみでなく、運転者の経験・運転技量を確認し、それに応じた適切な注意事項、指示を記載し、始業点呼時に口頭で運転者に十分理解させ、運行の安全を確保しなければなりません。

 事業者は、運転者に対して、山岳道路における危険予測、車両の特性、フェード現象発生時の対応、緊急時対応など、実践的な教育を実施する必要があります。特に、経験の浅い運転者に対しては、添乗指導など、よりきめ細やかな指導体制を構築することが重要です。

 ブレーキライニングの温度上昇を検知し、フェード現象発生の可能性を警告する装置や、危険な速度で走行している際に警告を発する装置など、安全装置の開発・普及も重要な課題だと指摘しています。

 また、乗客の安全を守るためには、3点式シートベルトの全席への設置を促進する必要もあるとしています。