目次

  1. 先行投資とは
    1. 先行投資の意味
    2. 先行投資の使い方
  2. 先行投資の具体例
    1. 設備投資
    2. 研究開発投資
    3. 人材育成投資
    4. 広告宣伝・マーケティング投資
    5. IT投資
  3. 先行投資を行うメリット
    1. 人材確保と育成
    2. 事業の成長と拡大
    3. 長期的な収益性の向上
  4. 先行投資をする前の検討・準備
    1. 中長期の戦略を持つ
    2. 投資対効果を予測する
    3. 資金調達を行う
  5. 先行投資を成功させるポイント
    1. 短期的な結果と長期的な打ち手のバランス
    2. マネジメント自身のリソース配分
    3. 企業のリソース配分
  6. 企業の長期的な存続・成長に不可欠な先行投資

 先行投資とは、長期的な視野で投資をすることです。企業は目先の事業にのみに着目していると、短期的には存続・成長できても、長期的には衰退への道をたどることになります。

 事業にはライフサイクルがあり、今は成長していても、やがて衰退していくことは避けられません。ですから、企業を継続的に経営するためには、目先の事業だけでなく、先行投資が必要です。

 先行投資とは元々経営用語で、「現時点では利益や効果は得られないものの、将来に利益や効果を得ることを見込んで投資を行うこと」を意味します。

 この記事では経営用語としての先行投資の解説をしていきますが、一般的な用語としても使われることがあります。一般的な意味での先行投資は、未来に向けたキャリアアップや自己実現のための自己研鑽のことを指します。

 また、先行投資と混同しやすい用語として、成長投資があります。成長投資は株式投資において将来成長が見込まれる企業の株価の上昇を見込んでその企業に投資することで、成長株投資、もしくはグロース投資などと呼ばれることもあります。

 経営用語としての先行投資は、以下のように使われます。

先行投資を使った例文
「新規事業のために先行投資をする」
「新規市場開拓のための先行投資に着手する」
「防災・災害リスクに備えて先行投資をする」

 補足となりますが、一般用語としては「キャリアアップのための先行投資として英語を学ぶ」「自己実現のための先行投資として資格を取得する」という使われ方もします。

 先行投資の目的に準じて、企業の活動(バリューチェーン)や資産のほぼ全てが投資対象となりえます。ここでは、代表的な先行投資の例をご紹介します。

先行投資の具体例
・設備投資
・研究開発投資
・人材育成投資
・広告宣伝・マーケティング投資
・IT投資

 製造業においては、工場や機械設備など設備の性能が生産能力に直結します。設備投資を怠ると、生産能力が低下して、競合他社に遅れをとることになりかねません。将来の製品の需要を見越して、必要な設備投資をする先行投資は、特に製造業で非常に重要です。

設備投資の具体例
新しい工場の建設
最新鋭の工作機械の導入
ロボット導入
新規店舗のオープン
オフィス環境への投資など

 研究開発も代表的な先行投資の例です。製品やサービスにはライフサイクルがありますので、今は利益をもたらしていても必ず衰退していきます。ですから、新しい製品・サービスを生み出していくことが必要です。そのためには、研究開発をして新技術や新製品を生み出す先行投資が不可欠です。

研究開発投資の具体例
医薬品や医療機器の研究開発
半導体の研究開発
情報通信技術の研究開発
エネルギーシステムの研究開発(カーボンニュートラル実現のためなど)
モビリティシステムの研究開発など

 現パナソニック創業者の松下幸之助は「事業は人なり」と常々言っていたといわれています。それほど従業員を育てることは重要だということです。

 従業員の育成はすぐに効果が見えるわけではありませんし、数値で測れるものでもありません。しかし、従業員の教育やスキルアップのための先行投資は、企業の存続や成長にとって極めて重要であることは明白です。

人材育成投資の具体例
リスキリングの促進
キャリアパスの整備
人材採用の強化
福利厚生や待遇の改善
健康経営の導入など

 製品やサービスを販売するためには、費用が先行しても広告宣伝を打つことがありますが、これも広義の先行投資とみなすことができるかもしれません。また、会社のレピュテーション向上や潜在的な顧客との関係を築くためのPR等の活動も先行投資の一部です。

広告宣伝・マーケティング投資の具体例
新規顧客獲得やブランドイメージ向上のための広告宣伝
市場調査
Webマーケティング
PR(パブリック・リレーションズ)
CSR(企業の社会的責任)向上のための取り組みなど

 IT投資はすぐに利益に直結するものではありませんので、先行投資の一つといえます。近年では、IT投資を欠かすことはできません。かつてのIT投資は、効率化やコスト削減などが目的となることがほとんどでした。

 しかし、テクノロジーの進展に伴って、顧客との関係性向上やデータによるマーケット分析などのあらゆる企業活動が、IT化される対象となってきています。

IT投資の具体例
ERP(基幹システム)の刷新
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入
AI(人工知能)を活用した業務効率化の促進
BI(ビジネス・インテリジェンス)の導入
CRM(顧客管理システム)の導入など

 先行投資のメリットは、長期的に会社の存続と成長を見込める点です。ヒト・モノ・カネの観点でメリットを掘り下げてみましょう。

 先行投資で採用強化や人材育成を行うことで、優秀な人材の確保や人材のスキルアップが可能になります。「事業は人なり」ですので、人材の強化によって、力強い企業活動の土台が築かれます。人材確保と育成は、先行投資における重要なメリットです。

 設備投資、研究開発投資、広告宣伝・マーケティング投資、IT投資を行うことによって事業の成長や拡大を見込めるようになります。これは、設備投資による生産能力向上、広告宣伝・マーケティング投資による売上向上、IT投資による生産性向上等がなされて、現状の事業が成長していくからです。

 また、研究開発投資によって新規事業の創出が行われ、事業が拡大してくことも期待できます。

 人材の確保と育成を土台として、事業の成長と拡大が実現すれば、長期的な収益性の向上がなされていきます。このように、先行投資を行うことによって、ヒトとモノが強化され、結果として、カネの部分でもメリットを享受できるというわけです。

 将来の果実を得るための先行投資には、事前の検討や準備が欠かせません。事前の準備として3つのポイントについて説明します。

先行投資をする前の検討・準備
・中長期の戦略を持つ
・費用対効果を予測する
・資金調達を行う

 先行投資を検討するためには、中長期の戦略を持つことが重要です。具体的には、現在の主力の製品・サービスのライフサイクルを考慮して「主力の製品・サービスの競争力を維持するために何ができるか」「主力の製品・サービスが衰退した場合の対策として新しい製品・サービスが必要ではないか」という発想が大切です。

 そのような長期の視点があってはじめて、「競争力を維持するために設備投資をしよう」「主力サービスが衰退したときに新しいサービスを提供できるように研究開発投資をしよう」という判断ができるのです。

 先行投資をするときには、投資対効果を予測することが必要です。投資をいつ回収できて、いつ会社に利益をもたらすのかということが分からなければ先行投資をすべきかの意思決定はできません。

 ここで注意したいのは、人材確保と育成や研究開発投資など先行投資のなかには、定量的な効果測定が難しい場合がある点です。「定量的な効果が見込めないから先行投資を行わない」とならないよう、注意しなくてはいけません。

 定量的に効果を測れない場合には、企業の理念や戦略にそって定性的な効果を考慮しつつ、最後は経営者の経験や勘によって先行投資の意思決定を行うことが必要です。

 先行投資をするとなった場合、投資のためのリソースを調達する必要があります。ヒト・モノ・カネの中で、特にセンシティブなのはカネかもしれません。

 企業の内部留保を使って、投資をできる場合には、資金調達の必要はありませんが、外部から資金調達する場合には、どのように資金調達をすべきかを検討する必要があります。

 また、外部から資金調達する場合には、定量的な投資対効果がより精緻に求められることも念頭に入れておく必要があります。

 最後に先行投資を無駄にせず、成功させるための3つの視点について触れておきます。

 GEの著名な経営者であったジャック・ウェルチは、次のような主旨のことを述べています。

短期の成果を上げることは簡単です。ひたすらコストを絞り利益をねん出すればよいからです。また、長期的経営も誰にでもできます。自分たちの戦略がやがて成果をあげるはずなので辛抱強く待つようにステークホルダーを説得できれば良いからです。四半期の成果を求められる圧力と将来の成長や利益をつくる必要性の両方に応えられるのが優れた経営者なのです

 このことは、まさに先行投資を検討するときの重要な視点です。短期と長期の成果や打ち手のバランスをとることが求められるのです。

 マネジメントは階層があがるにつれて、自分のリソースつまり時間の大部分を企業の将来の検討のために使わなくてはなりません。主任や係長のような現場に近いマネジメントは、今現在の事業に対してほぼすべてのリソースを使います。

 ミドルマネジメントは、今現在の事業だけでなく、1年先くらいのことまでも想定する必要があります。経営者のようなトップマネジメントは、自分のリソースを今現在の事業に割くのは1~2割くらいで、数年先もしくはもっと先の未来を見越して何に先行投資すべきかを検討することに大部分の時間を割かなくてはなりません。

 マネジメントの適切なリソース配分無くして、短期と長期のバランスをとりつつ先行投資を成功させることは不可能です。

 先行投資をするためには、企業のリソース配分も大切です。例えば、Googleの20%ルールというものがあります。業務時間の20%を自分の好きなことに使ってよいというルールで、このルールの中で社員が作り出したサービスがGmailだといわれています。これは、社員の労働時間というリソースの配分です。

 同じように、会社の内部留保や利益をどの程度、先行投資に振り分けるかという資金面のリソース配分もあります。このように、企業のリソース配分をどの程度先行投資に振り分けるかも、先行投資を成功させるためにとても重要な視点です。

 長期的な会社の存続と成長には、先行投資が不可欠です。先行投資の対象は企業の活動や資産のすべてが対象となりえますが、実際に何に対して投資をするのかは中長期の企業の戦略や理念に準じて決定されるべきものです。

 なお、先行投資を検討する際には、投資対効果を明らかにすることが必要ですが、人材育成や研究開発などは必ずしも定量的に効果を測れるわけではないことは念頭に入れておくべきでしょう。

 先行投資を成功させるためには、短期的な成果と長期的経営を両立させるバランス感覚が強く求められます。