目次

  1. 解雇予告手当とは
    1. 解雇予告との違い
    2. 解雇予告手当の支給日数と金額
    3. 労働基準法における解雇予告手当の根拠
  2. 解雇予告手当を支給しなくてよいケース
    1. 解雇予告の対象外になる者を解雇する場合
    2. 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
    3. 労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合
  3. 解雇予告手当の計算式
  4. 解雇予告手当に使う平均賃金の計算式
    1. 平均賃金の計算式の例外①:時給・日給・出来高払制の場合
    2. 平均賃金の計算式の例外②:日雇い労働者の場合
    3. 平均賃金の計算に含まれる賃金
    4. 平均賃金の計算に含まれない賃金
  5. 解雇予告手当の支払いを怠ったときのリスク
    1. 訴訟リスク・付加金支払いの可能性
    2. 他の従業員へのエンゲージメントの低下、離職リスクの増大
    3. 市場における企業イメージの低下リスク
  6. 解雇予告手当に関する注意点
    1. 解雇予告手当は解雇予告をした日に支払う
    2. 労働者が解雇予告手当の受け取りを拒否した場合は供託できる
    3. 解雇予告手当は退職所得となり、源泉徴収が必要になる
  7. 解雇予告手当は労働者への最後の礼儀

 解雇予告手当とは、使用者が労働者を解雇する際に支払わなけれならない金銭です。解雇によって労働者が突然収入を失うことへの緊急的な生活保障や、労働者が次の就職活動や生活再建の準備を行えるようにするための手当です。

 使用者は法人・個人を問わず適用されます。正社員、パートタイマー、アルバイトなどを含めて基本的にすべての労働者が対象になりますが、一部対象外となる者もいます。

 労働基準法では、原則として解雇を行う少なくとも30日前に解雇の予告(解雇予告)をしなければならないとされています。この解雇予告を行わずに解雇を行う場合は、解雇と同時に30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことが義務付けられています(参照:労働基準法第20条|e-Gov)。

 なお、解雇通知から解雇日までの期間が30日以上取れない場合は、その不足日数分の解雇予告手当の支払いによって解雇を適法に行うことができます。

項目 解雇予告 解雇予告手当
タイミング 解雇日の30日前まで
ただし解雇予告手当を支払うことで日数の短縮が可能
解雇する日まで
目的 労働者に次の職場を見つける時間的な余裕を与える 労働者にとって突然の労働機会の損失を補填する
内容 口頭または書面にて一定期間後に解雇することを伝える 解雇通知と解雇日が同一の場合、平均賃金の30日分以上を解雇予告手当として支払う

解雇通知が30日に満たない場合は、不足日数分の解雇予告手当を支払う
必要性 必ず必要 解雇日の30日以上前に解雇予告が行われていれば不要

 解雇予告手当は、解雇通知を行った日から解雇日までの日数により支給する金額が異なります。

 例えば、10月31日で解雇したいと考えている場合、その旨を解雇予告した日によって解雇予告手当の金額は下記のようになります。

解雇予告の日 解雇予告手当の金額
10月1日 不要
10月3日 平均賃金の2日分以上
10月20日 平均賃金の19日分以上
10月31日(即時解雇) 平均賃金の30日分以上

 解雇とは、使用者が労働契約を一方的に終了させ、労働者との雇用関係を終わらせることです。労働基準法では使用者に対し、解雇するときに少なくとも30日前までにそのことを伝えることを義務付けており、解雇予告手当はこの予告が行われないときに支払うものとされています。

労働基準法 第20条1項
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。
三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

 下記に挙げる場合は、解雇予告手当を支給しなくてもよいとされています。

解雇予告手当を支給しなくてよいケース
1.解雇予告の対象外になる者を解雇する場合
2.自然災害や事故などのやむを得ない理由で事業継続不可能である場合
3.労働者自身に重大なミスや問題があるなど解雇の原因がある場合

 該当する具体例を一つずつ解説していきます。

 雇用形態や雇用期間の性質に基づいて、下記の者については解雇予告の対象としないものとされています。この場合、解雇予告手当も支給する必要はありません(参照:労働基準法第21条|e-Gov)。

原則対象外になる者 例外として予告が必要になる場合
日々雇用される者 1カ月を超えて引き続き使用された場合
2カ月以内の期間を定めて使用される者 契約で定めた期間を超えて引き続き使用された場合
季節的業務に4カ月以内の期間を定めて使用される者 契約で定めた期間を超えて引き続き使用された場合
試用期間中の者 雇用初日から14日を超えた場合

 解雇がやむを得ないような自然災害や事故などで、使用者がそもそも事業を続けることが不可能になった場合、解雇予告手当の免除が免除されます。

 例えば、事業場が火災により焼失した場合や、震災に伴う工場、事業場の倒壊、類焼などで事業の継続が不可能となった場合などが該当します(参照:解雇予告除外認定申請について|厚生労働省)。

 労働者の側に明確に解雇されるに足るような理由がある場合は、解雇予告手当の支払いは不要です。

 具体的には、賭博・風紀の乱れ等により、職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼすような場合や、2週間以上にわたり無断欠勤を続け、出勤の督促にも応じない場合など、労働者に重大または悪質な言動がある場合が該当します。

 解雇予告手当は、以下の計算式によって計算します。

解雇予告手当の額 = 平均賃金 ×(30日 - 解雇予告日から解雇日までの日数)

 なお、解雇予告日当日は予告日数に含めずに計算します。そのため、具体的には下記のようになります。

<10月31日に解雇したい場合で解雇予告日が10月20日のとき>
予告期間:10月21日から10月31日(11日間)
解雇予告手当の額:平均賃金 ×(30日 - 11日)

 解雇予告手当の計算に使う平均賃金は、原則として、解雇予告日以前3カ月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(就労日数ではなく、暦日数)で除した金額です。

 なお、過去3カ月間の賃金の総額は、賃金締切がある場合は解雇予告日より直前の賃金締切日からさかのぼった3カ月の総支給額の金額で計算します。

 賃金が時間額や日額、出来高給で決められており労働日数が少ない場合など、総額を労働日数で除した額の6割に当たる額の方が高い場合は、その額を適用します。これを最低保障額といいます。

 日雇い労働者は稼動状態にむらがあり、日によって勤務先を異にすることの多い労働者です。このような現状を踏まえ、以下の計算式を用いて算定します。

(1)本人に同一事業場で1か月間に支払われた賃金総額 ÷ その間の総労働日数 × 73/100
(2)(当該事業場で1か月間に働いた同種労働者がいる場合)
 同種労働者の賃金総額 ÷ その間の同種労働者の総労働日数 × 73/100

 平均賃金の計算に使用する総支給額には、算定期間中に支払われた賃金のすべてが含まれます。具体的には、下記のようなものが参入の対象です。

  • 残業手当、精皆勤手当、通勤手当などの各種手当(6カ月の通勤定期券などは1カ月ごとに支払われたものと見なして算定)
  • 年次有給休暇に対する賃金

 現実に支払われた賃金だけでなく、賃金の支払いが遅れているような場合は、未払賃金も含めて計算することとなっています。ベースアップすることが確定している場合は、その確定額で計算します(参照:平均賃金について|神奈川労働局)。

 平均賃金が労働者の通常の収入を基準として生活保障を目的にしているという観点から、次の賃金については賃金総額から控除します。

  • 臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金等)
  • 3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金・ボーナス(四半期ごとに支払われる賞与など、賞与であっても3カ月ごとに支払われる場合は算入)
  • 労働協約で定められていない現物給

 また、平均賃金が不当に低くならないよう、次の期間がある場合に支払われた賃金額も控除することになっています。この場合は、3カ月の算定対象期間からも控除します。

  • 業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
  • 産前産後休業期間
  • 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
  • 育児・介護休業期間
  • 試みの使用期間(試用期間)

 解雇予告手当は労働基準法に定めるものであり、支払いを怠ることは法律違反になります(労基法119条第1項)。労働基準監督署からの是正勧告に従わなかった場合、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。

 こうした刑事罰のリスク以外にも、解雇予告手当の支払いを怠ることで想定されるリスクのうち、代表的なものを紹介します。

 解雇予告手当の支払いが適法に行われないことにより、解雇の正当性が争われ未払い賃金が争点となる労働審判や裁判に発展する可能性があります。また、裁判に至った場合、付加金を支払わなければならない場合もあります。

 付加金とは、使用者が労働者に対し、解雇予告手当を含む一定の金銭を支払っていない場合に、裁判所がその金額と同一額の支払を命ずることができる制度です(労働基準法第114条)。

 解雇予告手当の支払いを怠ることで、こうした訴訟等にかかる時間的・金銭的コストが大幅に増大するリスクがあります。

 解雇予告手当の支払いを怠ったことが露見した場合、在職中の従業員にも会社が労働者を軽視しているという悪印象を与えます。解雇予告手当の未払いは明確なコンプライアンス違反になるため、その観点でも従業員の会社に対する信用低下は著しいものになります。

 会社に対する不信感が募れば、モチベーション低下や離職が増加するリスクが増加します。こうした観点からも、適法な解雇予告手当の支払いは必要です。

 コンプライアンスを遵守していないことで、消費者が企業に対し抗議の意を示す意図で、不買運動などに発展する可能性があります。また、そのようなイメージが一度ついてしまうと、資金調達や新規の採用などにも悪影響が出ることが想定されます。さらに、顧客離れや取引先からの信用低下によるサプライチェーンへの影響も考えられます。

 こうした観点からも、コンプライアンスを遵守する姿勢を常に持ち続けることが、長期的な企業利益の確保につながるといえます。

 解雇予告手当を実際に支払う際に考慮しておくべきポイント、注意点について解説します。

 解雇予告手当の支払い時期については、行政通達により解雇予告をした日に支払うこととなっています(参照:解雇予告 p.2|新日本法規)。ただし、この取り扱いは30日分を支払う場合に限られ、解雇予告の日数を30日から短縮したい場合は、その日数と解雇日を解雇予告の日に通知することで、解雇予告手当の支払い時期を解雇日までずらすことができます。

 このように、解雇予告手当を支払うことで解雇日までの猶予期間である30日間を短縮できますが、解雇予告手当の支払いなしに解雇予告があった場合でも、その予告の日から30日を経過すれば解雇の効力を生じます。

解雇予告日が12月1日で、12月31日に解雇すると告げられた場合 解雇予告手当の支払いは不要。労働者は解雇予告手当を請求できない
解雇予告日が12月20日で、12月31日に解雇すると告げられた場合 解雇予告手当の支払いは19日分必要(この場合、解雇予告手当は解雇日までに支払えばよい)。解雇予告日に解雇予告手当の支払いがない場合、労働者は解雇予告手当を19日分請求できる
解雇予告日が12月1日だったが、具体的な日付は告げられなかった場合 解雇自体は30日経過した12月31日に成立する。労働者は解雇予告手当を請求できない
解雇予告日が12月1日で、12月1日での解雇(即日解雇)告げられた場合 解雇予告手当の支払いは30日分必要(この場合、解雇予告手当は解雇予告当日に支払う必要がある)。解雇予告手当の支払いなく即日解雇を求められた場合、労働者は解雇予告手当を30日分請求できる

 労働者が解雇無効を申し立てるなどの意図で解雇予告手当の受け取りを拒否したときは、法務省に供託することによって効力を担保できます(参照:解雇予告 p.2|新日本法規)。

 また、解雇予告手当を現金書留などで労働者の自宅に送るなどの方法も認められており、労働者本人ではない家族等が受け取った場合であっても、適法に解雇予告手当の支払いをしたものとみなされます。

 解雇予告手当は、税法上給与所得ではなく、退職所得として計算されます(参照:No.2736 解雇予告手当や未払賃金立替払制度に基づき国が弁済する未払賃金を受け取ったとき〈退職所得〉|国税庁)。そのため、社会保険料・雇用保険料などの控除は行いません。

 解雇予告手当は所得税の対象になるため、退職金等と同様の計算方法で源泉徴収を行います。税率は「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無により異なりますので、詳細は国税庁等の案内で確認のうえ徴収します(参照:No.2732 退職手当等に対する源泉徴収|国税庁)。

 解雇予告手当の支払いは法に定められた義務ではありますが、今までともに働いてきた労働者に対して会社が礼を尽くすことのできる機会でもあります。

 解雇に至る経緯はさまざまだと思いますが、解雇予告手当を法に則って支払うということそれ事態が、労働者に向けることのできる最後の礼儀と心得のため、誠実に履行することが求められます。