目次

  1. 女性経営者の「落とし穴」とは
  2. 女性従業員を増やすための工夫
    1. サンテックの取り組み
    2. 日本電鍍工業の取り組み
    3. 防災コンサルタントの取り組み
  3. 女性が働きやすい環境を整えるには
    1. サンテックは育児や介護の制度を整備
    2. 日本電鍍工業は社内清掃を徹底
    3. 防災コンサルタントは男性の育休取得も
  4. 課題解決への取り組み方
    1. サンテックの社員一律ベースアップの実施
    2. 日本電鍍工業の「ブラザーシスター制度」
    3. 防災コンサルタントの社員研修
  5.  働きやすさを高めるIT活用
    1. サンテックのクラウド活用
    2. 日本電鍍工業のFileMaker導入
    3. 防災コンサルタントのFileMakerによる顧客情報データベース化
  6. 性別に関係なく働きやすい未来へ
    1. サンテックの岩さん
    2. 日本電鍍工業の伊藤さん
    3.  防災コンサルタントの馬場さん
  7. 終わりに

 国内企業の9割以上を占めるファミリービジネスですが、その中で女性経営者の割合は1割にも満たないと言われています。後継者不足が深刻化するなか、なぜ女性経営者の割合が増えないのでしょうか。

 基調講演に登壇したのは、株式会社クオリア・コンサルティング 代表取締役社長 大塚久美子さん。大塚さんは女性経営者の割合が増えない理由として、若い世代にとって魅力的な組織づくりがまだ十分ではないことを指摘しました。

 「ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティーなんて二の次、と考えている経営者がまだ多いのが現状です。しかし、働き手の中心であった新卒の若い男性が減少しており、女性の労働力の活用は不可欠になっています。従来の価値観だけでは、事業の継続は厳しくなるでしょう」

株式会社クオリア・コンサルティング 代表取締役社長 大塚久美子さん

 また、大塚さんは、「若い世代が働きやすい職場を作るには、家庭のあり方も変わる必要がある」と指摘。ファミリービジネスは、職場と家庭の仕事のバランスを模索できる場として、大きな可能性を秘めていると語りました。

 さらに、女性経営者特有の「落とし穴」についても言及。

 「女性後継者が長期間裏方の役割を担わされると、周囲はその人をそういう役割だと固定的に捉えてしまいます。結果的に、いざ社長となったときに大きな困難に直面します。女性自身も、自分が我慢すれば何とかなると思いがちですが、それでは持続可能な経営は難しいのです」

 経営者は自分の任期中だけでなく、次の時代のために長期的な視点で多方面の課題に取り組むことが、働きやすい組織をつくるうえで重要であると訴えました。

 大塚さんの講演後、中小企業の後継ぎ経営者を招き、「働きやすい会社を実現した経営者が語る成功ポイント」をテーマにトークセッションが行われました。登壇したのは、以下の3人です。

岩武志さん サンテック株式会社(石川県輪島市)社長
伊藤麻美さん 日本電鍍工業株式会社(さいたま市北区)社長
馬場暁子さん 株式会社 防災コンサルタント(札幌市豊平区)社長

左から、サンテック社長の岩武志さん、日本電鍍工業社長の伊藤麻美さん、防災コンサルタント社長の馬場暁子さん、モデレーターの瀬戸川礼子さん

 モデレーターは、経営ジャーナリスト・中小企業診断士の瀬戸川礼子さんが務め、中小企業における人材活用や育成制度、ITツールを活用した労働環境の改善例について語りました。

 3社とも、長い時間をかけて女性社員の割合を増やした好例です。

 サンテックは金属加工会社で、岩さんは2代目社長として後を継ぎました。20年ほど前、女性社員は事務や経理を担当する1~2人だけだったといいます。

 2024年時点の従業員数は女性が17人、男性が9人。工場長、製造課長、営業課長といった要職も女性が務めています。このような企業の文化を作るのに20年近くかかった、と岩さんは話しました。

 岩さんは「人手不足など、社会情勢の変化によって女性に頼らざるを得ない状況になったことがきっかけ」と振り返ります。工業高校などに求人をかけても人が集まらないという状況で、リーマン・ショック後に応募があった30人ほどの女性の中から社員を採用し、そこから少しずつ女性の割合が増えていったと語りました。

 日本電鍍工業はめっきの表面処理などを手がけています。伊藤さんは2000年、家業の後継ぎとして社長に就任しました。当時は社員の8割が男性でした。しかし、職場環境の改善に注力した結果、現在では女性社員の割合が4割以上に。賃金格差も縮まり、安心して働ける職場へと変わりました。

 伊藤さんは「意識的に女性を登用していったのではなく、採用活動を続けるなかで自然と女性が増えた」と振り返ります。

 家業を継いだ当時、同社は経営危機だったといいます。伊藤さんはまず清掃や整理整頓などを行い、職場環境を徹底的に改善しました。「安全に、安心して働ける環境を整えたことで、女性の割合が自然と増えたのかもしれない」といいます。

 防災コンサルタントは、消防用設備の設置工事などを請け負う会社です。家業の後継ぎであった馬場さんは20年ほど前に同社に入社しましたが、当時は男性社員が中心で、女性社員は事務を担当する2人程度しかいませんでした。

 しかし実際に現場に出てみると、意外にも女性社員が対応した方が女性客からの反応が良いことに馬場さんは気づきます。そこで、当時の社長だった父に直談判し、少しずつ現場に出る女性社員の割合を増やしていったといいます。

 女性の顧客からの反応が良かったことから、現場に出る女性社員をさらに増やそうと社内に働きかけますが、当初は男性社員からの反発もあったと振り返ります。しかし根強く説得し、現場に出て働く女性社員の姿を見せることで、少しずつ社内の雰囲気も変わっていきました。当初は反対していた男性社員の理解も、時を経てだんだん考え方が変わっていったといいます。

 女性が働きやすい環境を整えるために、上記の他に3社が取り組んだ具体例の紹介もありました。

 サンテックは、育児や介護に関する制度を整備し、昼休みの食器洗いを男性社員と分担する仕組みに変更しました。

 日本電鍍工業の場合は、制服を男女同じデザインにリニューアルし、社員の意見を取り入れた素材を使用するなど、働きやすくする工夫をしています。また、社内清掃を徹底したことで製品の不良率が低下し、生産性が向上したといいます。

 防災コンサルタントは、産休や育休を取得する女性社員の増加が、男性社員の育休取得にもつながったといいます。さらに資格取得を推奨することで社員全体のスキル向上に成功しています。

 女性が活躍できる職場を作る過程で生じた課題と、それをどう乗り越えたかについても、議論しました。

 岩さんは、社員間のコミュニケーションを活性化するため、社内SNSを導入。これにより、個人間で連絡先交換が不要になり、セクハラなどのトラブルを未然に防ぐ仕組みを構築しました。

 また、産休や育休などの制度を整えると同時に、社員の一律ベースアップも行ったといいます。

サンテック株式会社(石川県輪島市)社長の岩武志さん

 岩さんは「夫婦でどちらかが休んだり業務を抜けたりしなければならなくなったとき、どうしても給料が安いほうが休むという選択をしがちです。夫が他社に勤めている場合、当社の女性社員ばかりが休む選択を強いられないよう、一律ベースアップを行いました」と振り返りました。

 伊藤さんは、社内で新入社員が先輩に相談できる「ブラザーシスター制度」を導入。業務の進め方や悩み事を気軽に共有できる体制を整えました。その結果、メンタル面も含めたちょっとした悩みの解消に繋がっているのかもしれません。

 馬場さんは、セクハラ防止や人権問題、社会情勢について学ぶ3日間の社員研修を外部の講師を招いて実施。当初は長時間の研修に対する社員の抵抗もありましたが、次第に社内の雰囲気が変わり、今では男性社員が保育園の送迎のために業務を抜けるような光景も見られるようになったといいます。

 働きやすい職場づくりには、ITツールの活用も欠かせません。

 サンテックは、クラウド上にデータを保存できないシステムを利用しており、社員が営業先やリモートワーク時にアクセスできないという問題が生じていました。2024年1月の能登半島地震でハードウェアが被災したことを契機に、クラウド対応システムの導入を検討。リスク分散と業務効率化を両立させる仕組み作りを進めています。

 伊藤さんは2016年から、Clarisのローコード開発ツール「Claris FileMaker」を導入。日本電鍍工業では、一点物も量産品も同様に注文を受けるため取引先企業も多く、それら2300社分の情報を効率的に管理する仕組みを整えました。伊藤さんは「FileMakerの導入で、材料管理や棚卸し作業が格段に効率化されました」と語りました。

日本電鍍工業株式会社(さいたま市北区)社長の伊藤麻美さん

 モデレーターの瀬戸川さんがシステム導入による費用対効果について尋ねると、伊藤さんは「長期的な視点で考えれば高いとは思わない」と答えました。今後100年、200年続く企業であるために、属人化せず、誰にとってもわかりやすい状態でデータを残しておくことが重要だといいます。

 防災コンサルタントでは、従来Excelで管理していた顧客情報を、FileMakerを使って本格的にデータベース化。年2回の点検業務の効率が飛躍的に向上しました。

 従業員が働きやすい環境づくりに取り組む経営者たちは、自社の未来にどのような希望を抱いているのでしょうか。

 「良い人材を採用しても、働きやすい環境がなければ定着しません。女性が活躍できる環境を整えることで、会社と地域も良くなると信じ、継続的に取り組む必要があります」

 「海外の展示会に、数人の社員を同行させています。その効果がすぐに出るわけではありませんが、世界に通用する技術力を育てるため、社員の視野を広げるための費用は長期的な投資であると考えています」

 「消防設備業界の女性進出の推進を目指し、心ない言葉をぶつけられることのない社会を作りたいです。そして、次世代に事業を引き継ぐ際には、性別に関係なく全ての人が尊重される職場環境を実現したいと考えています」

株式会社 防災コンサルタント(札幌市豊平区)社長の馬場暁子さん

 経営者たちが語ったのは、短期的な成果だけでなく、次世代へと続く職場環境作りの大切さでした。事業継承を通じて次の時代に、誰もが活躍できる社会を築くという強い思いが感じられるセミナーとなりました。

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