目次

  1. 通勤手当(交通費)支給規程とは
    1. 通勤手当(交通費)の支給は法律に定められていない
    2. 通勤手当(交通費)を支給する3つの方法
  2. 通勤手当(交通費)のルールを決めるときのポイント
    1. 支給対象者は正社員のみに限定するか
    2. 通勤手段を限定するか
    3. 所得税が課税されるか非課税となるか
  3. 【移動手段別】通勤手当(交通費)の計算方法
    1. 公共交通機関を利用する場合
    2. 自家用車やバイクを利用する場合
  4. 通勤手当(交通費)に関する注意点
    1. 業務の移動にかかる交通費は取扱いが異なる
    2. 引越しにより通勤経路が変わったときのルールを定めておく
    3. 在宅勤務時の通勤手当(交通費)について記載しておく
    4. 不正受給への対応策を定め周知しておく
  5. 通勤手当(交通費)支給規程は適切に設定を

 通勤手当(交通費)支給規程とは、従業員が会社へ通勤する際にかかる交通費を補助するための「通勤手当」に関するルールを明確にしたものです。会社によっては、就業規則の中で通勤手当に関するルールを定めているケースもあります。

 わざわざルールを定めなくとも、通勤にかかった費用を支給すればよいと考えられる経営者の方もいらっしゃるかもしれません。ですが、例えば自転車で通勤する従業員にも通勤手当を支給しますか?車で通勤する従業員の通勤手当の支給額は、どうやって計算しますか?

 従業員によって通勤手段、通勤にかかる費用、距離等は異なります。この規程は、会社と従業員双方の理解を深め、公平かつ効率的な運用を実現するために作成されます。

 多くの会社で通勤手当が支給されていますが、実は通勤手当そのものは法律で支給を義務付けられていません。あくまでも、会社が自主的に支給しているものであり、支給するかしないかは会社が決定できます。

 一方で、厚生労働省の令和2年就労条件総合調査では、通勤手当を支給している会社の割合は92.3%という結果となっています(参照:令和2年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省)。テレワークで通勤の必要がない場合はともかく、90%を超える会社が支給している通勤手当を支給しないことは、採用面でのデメリットが大きいでしょう。

 通勤手当には、一律支給、全額支給、上限を設けた支給などの支給方法があります。各方法には、運用の簡便さや公平性の観点から違いがあり、それぞれのメリット・デメリットを把握して選ぶことが重要です。

支給方法 メリット デメリット
一律支給 全従業員に対し、通勤距離や手段に関係なく、同じ金額を支給する ・管理が簡単 ・実費との差異が生じ、従業員同士で不公平感が生まれる

・割増賃金の計算の基礎から除外できない(従業員に支給する割増賃金が高くなる)
全額支給 通勤にかかる実費(定期券代やガソリン代など)を全額支給する ・合理的で透明性が高い ・引っ越しによる支給額変更もあり、管理の手間がかかる

・虚偽申請による不正受給が生じるリスクもある
上限を設けた支給 通勤手当の支給額に上限を設定し、その範囲内で実費を支給する
例:月3万円まで支給
・上限額を設けることで会社側の支出を抑えることができる ・長距離通勤者の負担が増える

 新幹線通勤のように、交通費が高額になる遠距離通勤をする従業員が増えると、会社のコストも増加するため、上限は設けるべきでしょう。上限額は任意ですが、後述する所得税の非課税限度額を基準とする会社もあります。

 すでにご説明した通り、通勤手当は支給義務が法律で定められていないので、支給ルールも会社で自由に決定できます。自由に決定できるからこそ、曖昧なルールにならないように、具体的でわかりやすいルールにしておかなければなりません。

 そこで、ルールを決める上でのポイントをまとめました。

通勤手当(交通費)のルールを決めるときのポイント
・支給対象者は正社員のみに限定するか
・通勤手段を限定するか
・所得税が課税されるか非課税となるか

 通勤手当の支給対象者を正社員に限定している会社がありますが、このルールは見直しされることをおすすめします。短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)において、正社員と非正規社員との間で不合理な差を設けることは禁止されているためです。

 通勤距離が同じである契約社員と正社員の間で、通勤手当の支給額に差を設けていることは不合理であると判断された裁判例もあります(ハマキョウレックス事件・最二小判平成30年6月1日)。

 仕事をするために会社に行かなければならないのは、仕事内容や責任の度合いとは無関係です。そのため、正社員のみに通勤手当を支給していると「不合理な差」とみなされる可能性が高いと考えられます。

 支給対象者とは別に、通勤手段を限定するかどうかも検討する必要があります。一般的に、電車、バスなどの公共交通機関を利用する通勤は支給対象とします。

 一方、自動車やバイク等を利用した通勤を支給対象とするかどうかは、会社によって異なります。自動車やバイクは通勤時に事故に結びつく可能性があり、駐車スペースの確保も問題となるからです。自動車やバイク等での通勤を認める場合は、駐車場代を従業員の負担とするのか、会社負担とするのかも検討しなければなりません。

 従業員が事故を起こし会社が責任を問われる可能性もあるので、自動車やバイクでの通勤は許可制にしておくのもよいでしょう。許可する前には免許証、任意保険の保険証、自動車検査証などを確認しておくことをおすすめします。

 通勤手当は、条件によって所得税が課税される場合と非課税になる場合があります。非課税限度額は以下のように定められていて、限度額内であれば所得税は課税されません。

①公共交通機関を利用する場合

非課税限度額:月15万円

 非課税と認められるのは、通勤にかかる運賃・時間・距離などを考慮し、もっとも経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の定期券代などです。

 新幹線や特急列車を利用する場合でも、その方法が経済的かつ合理的な経路および方法であれば、限度額15万円の範囲内で非課税となります。

②車やバイク、自転車を利用する場合

 通勤距離に応じて非課税限度額が設定されています。国税庁の資料をもとに提示します。

通勤距離(片道) 非課税限度額(月額)
2km未満 全額課税
2km以上10km未満 4,200円
10km以上15km未満 7,100円
15km以上25km未満 12,900円
25km以上35km未満 18,700円
35km以上45km未満 24,400円
45km以上55km未満 28,000円
55km以上 31,600円

 なお、公共交通機関と車を利用して通勤する場合は、①と②を合計した額が非課税限度額となりますが、1カ月当たり15万円が限度です。また、非課税限度額は、パートやアルバイトの従業員についても、月を単位にして計算します。

 電車やバスなどの公共交通機関を利用したり、自家用車を利用したりと、出勤方法は社員によってさまざまです。ここでは、それぞれの通勤手当を決めるときの計算方法を紹介します。

 電車やバスなど公共交通機関を利用する場合、通勤に必要な区間の定期券代を基準に支給する方法が一般的です。通勤の経路や方法、定期券代を従業員に申告させて、その申告に基づき支給します。

 正社員は定期券代を支給する方法が一般的ですが、正社員に比べて出勤日数が少ないパート社員やアルバイトについては、出勤日数分の交通費を通勤手当として支給する方法もあります。

 上限額の設定についてですが、公共交通機関のみの通勤の場合、非課税限度額は15万円ですので、通勤手当の上限額も15万円と設定する方法があります。その他、非課税限度額を基準とせず、月3万円を上限とするなど、上限額は会社で自由に設定できます。

 自家用車やバイクを利用した通勤に対する通勤手当の計算方法は、いくつかあります。例えば「通勤距離に応じて非課税限度額分を支給」や「通勤距離 × 1kmあたりのガソリン単価 × 1か月の平均所定労働日数」といった方法です。

 非課税限度額分の支給であれば、非課税限度額の表の通り、片道の通勤距離が10km以上15km未満の従業員には月額7,100円の通勤手当を支給します。実際に通勤にかかる費用とは乖離が生じますが、片道の距離に応じて非課税限度額分の通勤手当を支給するので、計算は簡単です。

 一方、ガソリン単価を使用した計算方法は実際の通勤にかかる費用に近い支給額となりますが、ガソリンの小売価格も変動しますし、車の燃費によって1kmあたりのガソリン単価も異なります。

 定期的な見直しが必要となり、計算は複雑かつ管理が大変です。見直しにより1kmあたりのガソリン単価を変更した場合は、社会保険の標準報酬月額が変わる(つまり、納めるべき社会保険料額が変わる)可能性もありますのでご注意ください。

 ここでは、通勤手当に関する注意点を紹介します。いざというときトラブルにならないよう、前もって確認しておきましょう。

通勤手当(交通費)に関する注意点
・業務の移動にかかる交通費は取り扱いが異なる
・引越しにより通勤経路が変わったときのルールを定めておく
・在宅勤務時の通勤手当(交通費)について記載しておく

 これまで、従業員が自宅と会社の間を移動(通勤)するための費用を補助する通勤手当について説明しましたが、通勤手当と混同しやすいものに、出張や営業など業務で移動した際に発生する交通費があります。

 こちらは従業員が一時的に交通費を立て替えて、領収書や清算書などを会社に提出し、後日会社が支払い清算する形が一般的です。通勤手当と異なり、業務にかかる交通費は全て非課税となります。領収書の提出方法、清算時期、清算方法など、会社でルールを定めておきましょう。

 引越しをすると、通勤経路が変わります。引越し時の申請ルールや通勤手当が変更となる時期も通勤手当支給規程に定めておきましょう。

通勤手当支給規程に定めておくとよいルール(引っ越しに関するルール)
引越し時の報告義務 「引越し後、〇日以内に申請」のように期限を設けるとよいでしょう
通勤手当の支給額が変更となる時期 「引越しの申請があった翌月から支給額を変更」など具体的にいつから支給額が変わるかを定めます
報告が遅れた場合の対応 引越しの報告が遅れたことで、過払いが生じた場合は、従業員が会社に返還する義務があることを定めておきましょう

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響や働き方の多様化により、在宅勤務を実施する会社が増えました。定期券代を支給する方法から、出勤日数に応じて実費分を支給する方法に切り替えている会社もあります。

 ルールの変更にあたっては、規程の変更も必要となります。在宅勤務と通常出社の組み合わせで勤務するような場合、定期券代の支給を原則としつつ、下記のようなルールを通勤手当支給規程に追加する方法もあります。

 (例)在宅勤務が週に〇日以上の通勤手当については、毎月定額の通勤手当は支給せず、実際に通勤に要する往復運賃の実費を支給するものとする

 残念ながら、申告と異なる通勤手段を使ったり、居住地の虚偽申告をするなどして、通勤手当を不正受給する従業員もいます。不正受給を防ぐためには、明確なルールを作っておくことが重要です。

 これまで説明してきた支給基準や計算方法に加え、下記についても通勤手当支給規程に定めて従業員に周知しておきましょう。

  • 通勤経路や手段は、最も経済的かつ合理的と会社が認めたものに限ること
  • 通勤経路や手段の申請手順
  • 不正申告が発覚した場合のペナルティ(返還義務、懲戒処分など)

 従業員が申請してきた通勤経路や手段が合理的な方法かどうか判断するために、経路検索アプリケーションで確認したり、定期券の写しを提出させたりするとよいでしょう。

 通勤手当は、従業員が会社と自宅を移動するための費用を補助する制度です。その支給基準や方法が曖昧だと、不正受給や従業員間の不公平感など、会社経営に影響を及ぼすリスクがあります。

 本記事でご説明したように、通勤手当の支給規程を作成する際は、支給対象者や通勤手段、支給額の上限などを明確にし、税制のルールも踏まえて設定することが大切です。また、在宅勤務、通勤経路の申告に関するルールを定め、トラブルを未然に防ぐ仕組みを整えましょう。

 従業員にとっては支給されることが当たり前の通勤手当だからこそ、合理的で透明性のあるルールを設けることが重要です。是非、自社の通勤手当支給規程を見直してみてください。