次世代産業に「スタートアップと中小企業のエコシステムを」 馬田隆明氏
『解像度を上げる』の著者で、東京大学のFoundXディレクターとしてスタートアップの支援に携わっている馬田隆明さんは、急成長する「ハイグロース・スタートアップ」を生み出すためには、周囲に中小企業を含む企業群を生んでいくことが大切だとブログで指摘しています。2025年に向けて日本でスタートアップと中小企業が一緒になって新たな産業を生み出していくために方策について談話形式で紹介します。
『解像度を上げる』の著者で、東京大学のFoundXディレクターとしてスタートアップの支援に携わっている馬田隆明さんは、急成長する「ハイグロース・スタートアップ」を生み出すためには、周囲に中小企業を含む企業群を生んでいくことが大切だとブログで指摘しています。2025年に向けて日本でスタートアップと中小企業が一緒になって新たな産業を生み出していくために方策について談話形式で紹介します。
スタートアップと中小企業の協業は以前から続いています。
よく知られたところでは、2014年にスペースデブリ除去のための衛星開発等を行うアストロスケールは由紀精密と業務提携を発表。2022年には人工衛星開発のベンチャー企業「アクセルスペース」が由紀ホールディングス株式会社と「宇宙機製造アライアンス」構築に向け覚書を締結しました。
また、東京・墨田で精密金属加工業を営む浜野製作所も、スタートアップの開発支援先としてよく知られています。
私は、気候変動問題を解決するためのテクノロジーを生み出そうとしている「Climate Tech」関連のスタートアップを支援しています。
ハードウェアを必要とするClimate Techの興味深いポイントとしては、最先端の研究技術を商用化するというよりも、特定のニーズに応えるため、一定のコスト以下で一定以上のスペックの要素技術をかき集めてきて、それをシステムとして組み上げることが求められている場合も多い、というところです。
また、最先端の研究技術を応用して有用な素材や部材を作ることを事業のコアとするスタートアップでも、新たな市場をつくるためには、まず最終製品を自社でつくらなければならないこともよくあります。すると、自分たちのコアとなる技術以外の部素材も集めてこなければならず、1社ではまかないきれなくなります。
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こうしたスタートアップは、特定の技術を持つ中小企業との協業を求めています。特定の技術とは、Climate Techでいうと、たとえば、エネルギー貯蔵や二酸化炭素回収などで高性能なエアコンプレッサーが求められています。また、エネルギー関連でいうと、高効率に回せるタービン関連技術も重要な要素となります。
日本は、経済複雑性指標(Economic Complexity Index、ECI)で長く世界一を維持し続けており、世界的にみても、技術や製品の多様性を持っている国だとも言えます。日本国内で多くの部品がそろうのです。
ある海外のスタートアップも必要な技術を求めて、日本に部素材を発注していると聞いたことがあります。これからスタートアップが新しい製品を世に生み出すうえで、エンドツーエンドで製品をつくるポテンシャルのある日本には強みがあると言えるでしょう。
Salesforceなどのプラットフォーム企業は、売上高が1000億円を超え、プラットフォームの機能が複雑化しはじめたタイミングで、コンサルタントなどの周辺事業が生まれてきたと言われています。
SpaceXやTeslaのような企業まで成長すると、その周辺にいくつもの企業が生まれ、高付加価値な雇用も生み、産業として成長していきます。
こうした急成長する「ハイグロース・スタートアップ」がなければ、関連産業も生まれませんが、逆に言うと、周りに企業群がなければ、中心となる「ハイグロース・スタートアップ」も生まれません。
「ハイグロース・スタートアップ」を生み出す支援をするなかで、スタートアップだけでなく、中小企業やNPOも含めたエコシステムを作り上げることの必要性を感じています。
たとえば、電気自動車(EV)は裾野の広い産業です。車の部品に限らず、EVチャージャー、メンテナンス、バッテリーリサイクル、場合によってはHEMS(Home Energy Management System:ホーム エネルギー マネジメント システム)まで、関連産業は多様です。
小売店にも影響があります。アメリカで2024年に発表された論文「Recharging Retail: Estimating Consumer Demand Spillovers from Electric Vehicle Charging Stations」は、EVの急速充電器周辺の小売店の店舗の月間訪問者数が平均4%増加したと推定しています。
今後、そうした経済効果も見込みながら、社会のインフラが変わっていくことになるでしょう。実はEVはまちづくりにも影響してくるということです。
まちづくりの観点でいうと、現状、スタートアップは東京に集中していますが、ハードウェアを扱うスタートアップの場合、地方にチャンスがあると感じています。一つ目は、製造業のサプライチェーンやインフラが確立していること、二つ目は地方の大学の技術を活かせること、三つ目は需要地に近いという特徴があるからです。
たとえば、温暖化の原因とされる牛のげっぷに含まれるメタンガスを減らす効果を持つ「海藻」の量産化に、高知大などの研究グループが成功し、技術を継承したスタートアップ企業「サンシキ」が設立されました。
起業家は東京、技術や生産は地方という組み合わせです。
牛は北海道と九州に多く、そうした需要地の近くで海藻を量産することにはメリットがあります。Climate Techと地方の組み合わせには可能性があるのです。
いくつかの石炭火力発電所の跡地で、あらたなビジネスを立ち上げようという動きもあります。火力発電所跡地は送電容量の大きい設備が残っているなど初期投資を抑えた事業開発がしやすいという特徴がありますし、その地域での新たな雇用にもつながります。
Appleなどがそうであるように、サプライチェーン全体にカーボンニュートラルを求めてくるグローバル企業が今後も増えてくると考えられます。そうなったときにグリーン電力の供給量の多い地域は、様々な産業を誘致しやすくなるかもしれません。
スタートアップを中心とした新しい産業を地域内で興せると、利益率の高いビジネスを展開することができます。
日本は今後ますます労働力が不足していきます。そのなかで、産業構造を変えて、付加価値の高いビジネスを生み出すためには、「スタートアップと中小企業のエコシステム」をつくる産業政策が必要になるのではないでしょうか。
産業政策は本来、行政の役割ですが、行政だけでできることでもありません。そこで地域の核となる企業の後押しが欠かせません。20~30年先を見据えて、地域でどんな産業を育てていくべきか、地元の中小企業が連合を組んで考え、様々な産業でスタートアップとの連携を模索してほしいと考えています。
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