目次

  1. 賃上げ税制とは
  2. 教育訓練費に係る上乗せ税額控除の仕組み
  3. 会計検査院の検査結果 超過額は214億円
  4. 教育訓練費に係る上乗せ税額控除 会計検査院が見直し提言

 国税庁の公式サイトによると、賃上げ税制とは、たとえば、中小企業が一定の要件をクリアして前年度より給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税から税額控除できる制度のことを指します。

 国は、2013年度に「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度(所得拡大促進税制)」を設けていました。

 2018年度の税制改正で、企業の生産性向上を促進するため、教育訓練費を増加させた場合には、税額控除割合を上乗せできる「教育訓練費に係る上乗せ税額控除」が導入され、その後の税制改正でも制度改正が続けられています。

 賃上げ税制には、大企業向けと中小企業者等向けの措置があり、中小企業の方がよりメリットが大きくなっています。

 賃上げ税制のうち「教育訓練費に係る上乗せ税額控除」は、賃上げ税制の適用を受ける企業が、さらに教育訓練費を増加させた場合に、追加で税額控除を受けられる制度です。

給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度における教育訓練費に係る上乗せ税額控除等の特別控除制
度の概要
給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度における教育訓練費に係る上乗せ税額控除等の特別控除制 度の概要

 税額控除額は、給与等の支給増加額に一定割合を乗じて算出されます。ここで重要なのは、適用要件は教育訓練費の増加であるにもかかわらず、税額控除額の計算基礎は給与等支給の増加額であるという点です。

 教育訓練費に係る上乗せ税額控除では、教育訓練費の増加という適用要件を満たせば、実際に教育訓練費が少なくても、給与等支給額の増加が大きければ、多額の税額控除を受けることができます。

 このため、教育訓練費の増加額が少額であっても、給与等支給額の増加額が大きければ、税額控除額が教育訓練費増加額を上回ってしまいます。

 たとえば、適用前の教育訓練費支出額が10万円で適用時の教育訓練費支出額が12万円である場合(教育訓練費増加額が2万円で教育訓練費増加割合が20%の場合)には、教育訓練費に係る上乗せ税額控除の適用要件を満たします。

 この場合に適用事業年度の給与等支給増加額が1000万円であるとき、中小企業者等向けの税控除は給与等支給増加額の10%相当額である100万円となり、税額控除額が教育訓練費増加額を上回ってしまいます。

 会計検査院は、賃上げ税制の有効性を検証するため、2018事業年度から2021事業年度までに賃上げ税制を適用した法人の申告状況を調査しました。

教育訓練費に係る上乗せ税額控除の適用実態
教育訓練費に係る上乗せ税額控除の適用実態

 教育訓練費に係る上乗せ税額控除を適用した法人のうち、大企業では66.4%、中小企業者等では85.7%、延べ1万2861法人のうち9812法人(76.2%)が教育訓練費の増加額を上回る税額控除を受けていました。超過額は214億円に上るといいます。

 一方で、教育訓練費の増額に伴う優遇措置は賃上げ効果が非常に小さいという分析結果が得られたといいます。

 これらの結果から、会計検査院は「適用要件となっている事項と税額控除額の計算基礎となっている事項が異なる教育訓練費に係る上乗せ税額控除の仕組みは、政策目的である給与等の増加を促すために税負担の軽減を行う措置として、適切なものとなっていないおそれがあると認められた」と分析しています。

 会計検査院は、教育訓練費に係る上乗せ税額控除について、経産省などがその効果及び要望措置の妥当性を検証して、見直しを検討するよう指摘しています。

  • 経済産業省等において、税制改正要望に当たっては、特別措置の効果を検証することができる分析等を基に要望するとともに、事前評価等を基に検証可能な数値目標及び要望措置の妥当性について税制改正要望書に記載すること
  • 経済産業省等及び財務省で、教育訓練費に係る上乗せ税額控除について、その効果をできる限り定量的に把握して検証するとともに、課税の公平原則に照らして国民の納得できる必要最小限の特例措置となっているかという点から適切に検証すること