ナッジ・行動経済学で行動を促すには 企業経営に活用できる行動特性

社員や顧客にある行動をとってほしいと考えるとき、仕組みやルールで強制するのではなく、行動できない要因を特定して、人が無意識のうちに持っている行動特性を利用する手法があります。ナッジとは何か、行動特性を生かして無理なく行動に移してもらう手順について紹介します。
社員や顧客にある行動をとってほしいと考えるとき、仕組みやルールで強制するのではなく、行動できない要因を特定して、人が無意識のうちに持っている行動特性を利用する手法があります。ナッジとは何か、行動特性を生かして無理なく行動に移してもらう手順について紹介します。
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経済アナリストの増井麻里子さんが執筆した記事「ナッジ理論とは 3つの身近な具体例からわかりやすく紹介 ビジネス応用も」によると、ナッジとは、金銭的インセンティブや罰則を用いずに、相手の意思決定の癖を利用して行動変容を促すことだといいます。
伝統的な経済学では、計算能力や認知能力が非常に高く、自制心が強く、常に自己利益の最大化のために合理的な行動をすることを前提としてきました。ただし、現実を見ると人はそのようには行動しません。
そこで、行動経済学は、心理学的要素を数理的にモデル化し、現実に合うように経済学の適用範囲を広げています。ナッジを使うと、相手の意思決定を合理的なものに近づけることができるとされています。
企業経営でナッジを活用することで、以下のような効果が期待できます。
行動特性とは、人が無意識のうちに持っている思考や行動の傾向であり、必ずしも合理的な判断に基づかない行動の背景にある心理的な要因です。
三菱総合研究所が2023年にまとめたレポート「ナッジ・行動経済学を活用した行動促進策の設計法」(PDF)によると、行動の必要性はわかっているが行動できない、行動が継続できないことには、以下のような行動特性が関わっているといいます。
こうした行動特性がボトルネックとなって行動に移せない場合、逆の効果を持つ行動特性を生かすことで行動を誘導することができます。
具体的にはどのような方法があるのか、企業や組織で活用されているナッジを紹介します。
熊本地域医療センターでは、日勤と夜勤の看護師のユニフォームの色を変えることをきっかけとして残業時間を削減することに成功しています。
顧客に営業提案をするとき、選択肢が多すぎると迷ってしまうため、選択肢はある程度残したままで、好ましい営業プランを目立たせるなどすることで強制せずに誘導する手法があります。
具体的には、保険プランの見積もりなどで、最も人気のあるプランを「オススメ」と紹介していたり、ECサイトでよく選ばれている配送オプションや決済方法にすでにチェックが入っていたりします。
広告でよく見かけるのが無料トライアルです。無料で試してもらって現状維持バイアスのハードルを下げたり、有料プランに切り替えるときに「特別価格」を提示したり、具体的な追加機能を紹介したりします。
広告宣伝では、アンカリング効果もよく使われています。不動産業者が購入希望者に「この物件の相場価格は7000万円ですが、即決いただければ5000万円でお譲りできます」と最初に高い金額を提示した後、実際の価格を提示するといった使い方をします。
ハーバード大学発の行動デザインコンサルティング組織の「Ideas42」は「A Model for Integrating
Behavioral Design in City Government」(PDF)というレポートのなかで、ナッジの設計方法についても紹介しています。
効果的なナッジを設計するうえでは、まずどのようなメッセージの伝え方をするのが良いかを設計しましょう。
一般的に表現の仕方として損失を強調する方が利得を強調するよりも行動促進しやすい傾向がありますが、繰り返し使うと効果が低くなるというデメリットがあります。損失/利得の基準点によって、損失や利得の受け止め方も変わるので、どこを基準として意識させるかも考えましょう。
イギリス政府内には行動経済学の特別チーム「BIT」(The Behavioral Insights Team)があります。BITのレポート「Four simple ways to apply behavioural insights」(PDF)では、効果的なナッジの設計方法からは4つの要素に抽出できるといいます。
ただし、ナッジを設計するときは以下に注意しましょう。
本人が望まない行動を促すことはナッジではなく「スラッジ」と呼ばれています。一度信頼を失ってしまうと取り戻すのにたくさんの時間が必要です。選択の自由をわかりやすい形で保つことを意識しましょう。
人には自分の過去の行動と一貫した行動をとりたいという「一貫性の原理」という行動特性があります。そこで、促したい行動につながる小さい行為(スモールアクション)を自分の意志で行ってもらうことで行動が促される行動へのハードルを下げることができます。
いきなり大きな行動変容を促すのではなく、スモールアクションから始めましょう。
日々行動を続けなければ意味がない場合、メッセージを繰り返し伝達すると効果が弱まってしまうため、自己効用感を持続する仕組みを組み込む必要があります。
経済的インセンティブを与えて行動変容を促すことは強力ですが、長期間にわたりインセンティブを付与することは難しく、中止すると行動が元に戻ってしまう人が多いことに注意して設計してください。
そこで、一貫性の原理の活用(同じような行動をしている友人や仲間との連帯を感じるといった体験を意図的に設計する)や損失回避バイアス(行動開始時に少額の金銭を預託してもらい目標達成時にボーナスを加えて金銭をフィードバッグする)、贈与交換効果(恩を受ければ返したいという互恵性の行動特性)を利用します。
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