目次

  1. 「100年先に残る事業」を目指す
  2. 起業経験を生かして母親の創業を手助け
  3. 経営者の責務をベンチャーキャピタルで痛感
  4. 起業家人生は失敗の連続
  5. 後の世に残せる事業を手がけたい
  6. 「母が守ってきたことを壊さない」

 東京都目黒区中目黒に本社を構えるスパークレールは、植物油脂の良さを活かしたオリジナル石けんを製造販売している会社です。創業は2013年で、石けん製造のために東京都と福岡県のそれぞれに1カ所ずつ小さな工房を設けています。創業の原点である「CAMPHRIER(カンフリエ)」と、2023年に立ち上げた「mue(ミュウ)」といった2つのブランドで石けんを製造販売しているほか、OEMによるノベルティの製造が主な事業です。

 スパークレールの石けんが持つ最大の特徴は、熱を加えず長期間にわたって熟成させる「コールドプロセス製法」を採用している点にあります。市販されている石けんの多くは大量生産に向いた「ホットプロセス製法」で作られており、混ぜ合わせた原料に高温を加えて成分を速やかに固めるため、たくさんの石けんを1日で製造できます。

 一方でコールドプロセス製法は、熱を使わずにじっくりと石けんを固めることから、大量生産には向きません。ただ、植物油脂やグリセリンのほか芳香成分など熱に弱い物質が残りやすく、しっとりとした使用感や豊かな香りが商品のセールスポイントです。

ミュウの石けんは1ヶ月以上をかけて熟成したのち出荷されます(筆者撮影)

 スパークレールでは、6人の従業員に社長を加えた合計7人だけの手作業で石けんを作っているため、1カ月に作れる石けんはわずか3000個ほど。職人技を活かした丁寧な製造管理で、高価格帯の商品がブランドの主軸です。カンフリエでは1個90gを1580円、ミュウでは1個70gを2580円で販売しています。

 スパークレールの大部分がカンフリエの売上で、まだ年間売上にミュウが占める割合はわずかにすぎません。創業者である母・水井洋子さんから、息子の水井貴之さんが、2023年にスパークレールの経営を引き継ぎました。「100年先に残る事業」を育てるため、ブランドの立ち上げから今にいたるまで奮闘を続けています。

 スパークレールの創業の原点は、洋子さんの趣味である石けん作りにあります。洋子さんは自身の深刻な肌トラブルをきっかけに、当初は自宅キッチンで家族が使うための石けんをコールドプロセス製法で作りはじめました。当時について水井さんは「その頃の私は大学生でした。自宅が石けんであふれかえっていたことに加え、個人で入手するのは難しい材料を自宅で見かけるようになったことにも驚きました。直談判をもちかけた母の熱意がメーカーの心を動かし、特別に購入できたと聞いています」と振り返ります。

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