台湾は世界の半導体産業の中心地であり、特にTSMC(台湾積体電路製造)はグローバルサプライチェーンの要です。日本企業は半導体や電子機器の生産で台湾に大きく依存しており、有事が発生すれば供給網の寸断や経済的損失が懸念されます。
また、地理的に近い日本は、軍事的な影響や邦人保護の課題にも直面する可能性があります。台湾有事などを想定し、政府は、沖縄県の先島諸島の住民ら約12万人を九州・山口各県に避難させる初期的な計画を3月にも取りまとめる方針です。
帝国データバンクの調査(2024年)によると、台湾に進出する日本企業は約2988社で、その多くが製造業や卸売業を展開していますが、「戦争・テロ」をリスクとして想定する企業は2割未満と、有事への備えが十分とは言えません。
トランプ政権の台湾有事への対応は不透明さが際立っています。第1次政権時(2017~2021年)、トランプ氏は中国を「戦略的競争相手」と位置づけつつ、軍事的なコミットメントは慎重でした。
2025年2月の記者団への発言でも、「台湾有事への対応はコメントしない」と述べ、明確な軍事介入の意思を示していません。これは、米国が介入するかも知れないと「戦略的曖昧さ」を示すことで中国を抑止する狙いがあります。
トランプ大統領は大統領選前にも「軍事力行使を排除しない」とも述べており、状況次第で柔軟に対応する可能性も残されています。
トランプ大統領は、アメリカを再び強大な国へと導くというビジョンを掲げつつ、中国に対する優位性を維持することに全力を尽くすと見られています。
言い換えれば、これまで日本周辺の安全保障環境で主導的地位を保ってきたのはアメリカでしたが、21世紀に入り、中国が海洋進出を加速させる中で、地域の地政学的構図が変動しつつあるのです。
アメリカがこの地域での地政学的優位性を維持するためには、台湾への軍事支援などを通じて積極的な関わりを示し、台湾を中国の海洋拡大を食い止める防壁として活用することが求められます。
もし中国が台湾を掌握すれば、そこを西太平洋進出の拠点と位置づける可能性が高く、それはこれまで西太平洋で軍事的優位性を保ってきたアメリカにとって新たな挑戦となるでしょう。
日米首脳会談で台湾への関与継続を示唆か
今回のトランプ政権では、国務長官にマルコ・ルビオ氏が、安全保障担当の大統領補佐官にマイク・ウォルツ氏が任命されていますが、いずれも対中強硬派として知られ、中国の海洋進出を抑えるために台湾防衛の重要性を強調する立場を取っています。
さらに、2025年2月7日に行われた日米首脳会談では、台湾にも一部言及しており、トランプ政権がこうした方針を貫く姿勢をうかがわせるものでした。
トランプ大統領と初の直接会談に臨んだ石破首相は、アメリカが日本の外交・安全保障において最も重要なパートナーであると述べ、トランプ大統領と共に日米同盟をより強固なものにし、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて協力する意義を確認したと明らかにしました。
また、地域の戦略的課題に日米が緊密に連携して対応することで合意し、トランプ大統領が核を含むあらゆる手段を用いた日本の防衛への確固たる決意を表明し、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認したとされています。
この会談で安心感を得たのは日本だけではないはずです。よく言われるように「台湾有事は日本有事」であり、台湾での危機は地理的に近い沖縄県や八重山諸島にも影響を及ぼします。
2月7日の会談でトランプ大統領が日本防衛に積極的に取り組む姿勢を示したことは、台湾への関与を継続する意志があることを示唆していると言えるでしょう。
日本企業への具体的な影響と求められる対応
ただし、トランプ政権が具体的にどのように台湾への関与を進めていくか、まだ不透明な点が多いのが現状です。
しかし、台湾有事が日本企業に与える影響は甚大です。
経済的には、サプライチェーンの再構築が急務となります。軍事侵攻や海上封鎖を想定し、代替調達先の確保や在庫管理の見直しなどを考えておく必要があります。
安全保障面では、台湾に進出する日本企業の約2万人の従業員と家族の安全確保が課題です。危機管理マニュアルの作成や退避ルートを検討する必要もあるでしょう。
物流への影響も深刻で、台湾周辺のシーレーンが封鎖されれば、中東からの石油や物資の輸送に支障が出ます。これにより、エネルギー価格の上昇や貿易停滞が日本経済全体に波及する恐れがあります。
トランプ政権の不透明な姿勢を踏まえ、日本企業は「最悪の事態」を想定した準備が不可欠です。
具体的には、以下の3つの対応が必要です。
- サプライチェーンの多元化
- 危機時の事業継続計画の策定
- 地政学リスク管理体制の強化
経営層が主体となり、全社的な取り組みとして進めることで、有事への耐性を高められるでしょう。
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