目次

  1. モダナイゼーションとは
    1. マイグレーションとの違い
    2. DXとの違い
  2. モダナイゼーションが重要視される理由
    1. 老朽化したシステムのリスク回避  
    2. ビジネスの競争力強化  
    3. DX推進の基盤づくり  
  3. モダナイゼーションの方法
    1. リプレイス
    2. リホスト
    3. リライト
    4. リファクター
    5. リドキュメント
    6. リビルド
    7. ハイブリッド
  4. モダナイゼーションを成功させるポイント
    1. 目的を明確化する
    2. 変更可能な部分とできない部分を分ける
    3. 業務プロセスの見直しも行う
    4. コストの最適化とバランスの重要性
  5. モダナイゼーションへの取り組み事例
    1. 現状の調査
    2. 改善計画と実施内容
    3. 改善の成果
  6. モダナイゼーションで企業の競争力を高めよう

 モダナイゼーションとは、古くなったITシステムを最新技術に適合させ、機能・性能・セキュリティを向上させる取り組みです。単なる技術の入れ替えではなく、業務効率や柔軟性の向上を目的としています。

名称 モダナイゼーション(Modernization)
目的 システムの近代化・最適化
範囲 システムの改善・再構築
対象 アプリケーション、インフラ、データ
手法 リプレイス、リホスト、リライトなど
変化の程度 部分的または全体的な変更
メリット 最新技術の導入、運用効率化
リスク コスト増、移行期間の長期化

 古い技術や規格のシステムであるレガシーシステムを使い続けると、セキュリティリスクや保守コストが増大します。また、対応できる技術者も減少している点も問題です。モダナイゼーションによってこれらの問題を解決すれば、企業の競争力を高めることができます。

 経済産業省が2018年に発表したDXレポートでは、モダナイゼーションの遅れによって「2025年の崖」という問題に直面すると警告しました(参照:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~ p.26|経済産業省)。

 同レポートでは、レガシーシステムが放置されることでDX(デジタルトランスフォーメーション)が進まず、年間最大12兆円の経済損失が発生する可能性があると指摘しています。企業の持続可能な成長には、システムの更新とビジネス戦略を連携させたモダナイゼーションが必要なのです。

 モダナイゼーションを、昔のブラウン管モニターから現代の液晶モニターへの変遷に例えてみます。どちらも画面を表示するという基本機能は同じですが、液晶モニターは従来のブラウン管モニターと比較して、技術的にまったく新しい別の仕組みだといえます。液晶モニターを採用した結果、画質の向上(デジタル化)、省エネルギー化、小型・軽量化などの大きな進化を遂げました。これは単なる技術の進歩ではなく、「現代のニーズに適応するための刷新」です。

 同様にモダナイゼーションとは、時代遅れとなった技術や仕組みを最新のものに置き換え、より快適で効率的な環境を実現するための重要なプロセスなのです。

 マイグレーションは、システム自体を変更することなく新しい環境へ移行することを指します。クラウド移行やハードウェアの更新が代表的な例です。 モダナイゼーションと混同されることが多いですが、マイグレーションは「環境移動(移行)」に焦点を当てた概念であり、必ずしもシステムの近代化を伴うわけではありません。

名称 マイグレーション(Migration)
目的 システムやデータの移行
範囲 環境の変更(移行)
対象 サーバー、データベース、アプリケーション
手法 オンプレミス→クラウド移行など
変化の程度 最小限の変更
メリット 短期間での移行が可能
リスク 互換性の問題、移行トラブル

 DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して、ビジネスモデル、組織、プロセスを根本的に変革し、新たな価値を創造することを目指します。モダナイゼーションはDXを推進する手段の一つです。DXは単なるシステム移行や改善(モダナイゼーションやマイグレーション)ではなく、業務や製品・サービスをデジタルを前提としたものへ変革し企業の競争力向上が目的です。

名称 DX(デジタルトランスフォーメーション)
目的 ビジネス全体のデジタル変革
範囲 企業戦略・業務プロセス全体
対象 組織、ビジネスモデル、顧客体験
手法 AI、IoT、クラウド活用など
変化の程度 根本的な変革
メリット ビジネスモデルの創出、競争力向上
リスク 組織の適応力、投資リスク

 モダナイゼーションが重要視される理由には「老朽化したシステムのリスク回避」「ビジネスの競争力強化」「DX推進の基盤づくり」の3つが挙げられます。

   老朽化したシステムは、セキュリティリスクの増大や運用コストの上昇、人材不足を招きます。モダナイゼーションにより、最新のセキュリティ対策の導入、システムトラブルの防止、保守の効率化が可能となります。  

   柔軟なシステムを構築することで迅速なサービス提供が可能になり、市場の変化にも対応しやすくなります。これにより、顧客満足度の向上や、新たなビジネスチャンスの創出が期待できます。  

   データ活用を促進し、変化に対応できる柔軟なシステム環境を整備することで、DXへの対応が可能となります。モダナイゼーションは、企業のデジタル変革を支える重要な基盤となります。

 モダナイゼーションにはさまざまなアプローチや手法があります。目的やシステムの状況に応じて最適な方法を選択することが求められます。 

 リプレイスとは、既存のシステムやアプリケーションを新しいものに完全に置き換える手法です。老朽化や技術的制約が顕著なシステムに対し、最新の技術やアーキテクチャを採用したシステムを導入することで根本的な解決を図ります。ただし、リプレイスは移行に時間やコストがかかるため、綿密な計画が必要です。

 リホストとは、既存システムやアプリケーションのコードはそのままに、クラウドなどの新しいインフラ環境へ移行する手法で、実行環境のみを刷新します。迅速かつ比較的低コストで移行できるのも特徴の一つです。

 もっとも、クラウド移行による一部の最適化は可能ですが、レガシーシステムの問題を抜本的に解決するものではなく、システムの根本的なアーキテクチャ改善にはならない場合もあります。

 リライトは、既存システムの機能を維持しつつ、既存のアプリケーションを新しい言語やフレームワークで再構築し書き直す方法です。モダンな言語へ移行することでパフォーマンスやセキュリティ、保守性や拡張性を向上させます。 ただし、ある程度のコストが必要となり、構築後の再現性の問題などもあります。

 リファクターは、システムの外部仕様を変えずに、内部構造を整理・改善しながら動作を維持する手法です。システムの品質向上、開発効率の改善、バグの減少といった効果が期待できます。コードの可読性や保守性は向上するものの、大規模な変革とはならないこともあります。  

 リドキュメントは、既存システムの仕様や設計を整理して、ドキュメント化することで現状を把握し、段階的にモダナイゼーションを進める方法です。老朽化や属人化で不明瞭になったシステムを可視化するのに適しています。特に、ブラックボックス化したシステムに有効であり、モダナイゼーションの第一歩として活用できます。

 リビルドは既存のシステムをベースにしながら、最新の技術を用いてシステム全体を再構築する手法です。大規模な変更を伴いますが、最新技術をフル活用できます。リライトに近いですが、既存システムの問題点を根本的に解決し、将来のビジネスニーズに柔軟に対応できるシステムを構築するうえで有効な手段となります。

 上記の手法を組み合わせたハイブリッド型の手法も可能です。既存システムの一部をAPI化して段階的にモダナイゼーションを進めたり、クラウドとオンプレミスを併用しながら、徐々に移行したりするなど、企業の要件に応じて最適な方法を選定します。

 モダナイゼーションを成功させるには、どの部分をどのように変えるのかといった目的を明確化するのはもちろん、コスト面も重視した計画を立てておくことが大切です。

 モダナイゼーションを成功させるために重要なポイントは、最初に明確な目的を設定することです。業務効率化、コスト削減、DX推進、セキュリティ強化、競争力向上など、具体的に設定します。目的を明確化しておくことで適切な手法を選択しやすくなり、作業の優先順位や必要なリソースが見えてきます。

 モダナイゼーションでは、すべてを一度に変えるのは現実的ではありません。そのため、まずは現行システムの分析を行い、古いソフトウェアやインフラなどの変えられる部分と、業務に直結しているカスタム化されたシステムのように変えられない部分を明確に区別することが重要です。変更できる部分・できない部分を区別しておけば、リスクを最小限に抑えつつ段階的に変更を進められます。

 モダナイゼーションには、システムだけでなく業務プロセスの見直しも含まれます。システム変更に伴い、旧来のプロセスや手順に不一致が生じたり、非効率化してしまったりする場合があるためです。

 業務プロセスを再設計することで、作業の効率化や品質向上を図ることができます。新しいシステムに合わせて業務フローや利用者の協力体制も最適化し、コンセンサスを確立することが成功への鍵となります。

 モダナイゼーションには相応のコストがかかるものです。しかし、コストの最適化を優先しすぎると、本来必要な改善策まで削減してしまう危険があります。特に、「コストありき」の考え方に陥ると、当初の目的に沿った改善内容が次第に削られ、結果的に十分な効果を得られない可能性があります。

 計画を立案する際には、各改善項目の優先順位を明確にすることが重要ですが、同時に、改善項目同士の関連性を考慮し、整合性の取れた計画を策定することも必要です。コストだけで判断せずに全体のバランスを意識することで、最適なモダナイゼーションを実現できます。

 ここでは、筆者が実際に手掛けた事業所のモダナイゼーション事例を紹介します。

 ある小規模事業所から、IT環境の改善について相談を受けた事例です。この事業所では、レガシーシステムによる極端なオンプレミス環境で、業務効率が非常に低い状況でした。また、社内だけでなく取引先とのデータ共有に問題が生じていました。

 現状のIT環境を詳細に調査した結果、以下の問題が判明しました。

  • 保守契約やリース期間が終了したあとも管理が不十分なまま継続使用されているシステムと機器
  • 旧規格が混在しセキュリティ上の懸念もあるネットワーク環境と業務に適さないネット回線
  • 旧式のデータ共有方法(ストレージデバイスの持ち回り)による業務の非効率状態
  • コミュニケーション基盤の制約(メールサーバ利用)による業務遅延
  • サポートが終了した業務に必須のソフトウェアや機器の継続利用

 こうした問題点を解決するため、関係者と認識を共有し、コスト負担の最適化も考慮した改善計画を策定しました。

 調査で判明した問題点をもとに、下記のように改善計画を立てて実施しました。

  1. データ管理の最適化
    安全かつ効率的なデータ運用を実現するために、ファイルサーバとクラウドによる共有ストレージを導入。リスク軽減のためにバックアップ体制を強化
  2. 業務端末と周辺環境の刷新
    セキュリティと業務効率の向上を目的とした最新のシステム環境の導入・整備
  3. ネットワークインフラの強化
    安定した回線接続と通信の高速化のために、回線契約や社内ネットワークなどの通信環境の見直し
  4. コミュニケーション基盤の改善
    通信環境の利便性向上を目的としたクラウドベースのメールシステムを導入
  5. 業務アプリケーションの最適化
    古いOSにしか対応せず代替方法がないカスタム化された重要な用途の古いアプリケーションを、最新の環境でも稼働可能なように、仮想ソフト上で継続利用できるように対応

 これらの実施により、IT環境は劇的に改善しました。その結果、業務効率が大幅に向上し、事業所スタッフの士気も高まりました。モダナイゼーションを通じて、より快適で生産的な業務環境を実現できた事例です。

 モダナイゼーションは、単なるシステム更新ではなく事業の競争力を高める効果が期待でき、これからのビジネス戦略に欠かせない重要なものであるといえます。適切な手法を選択して目的に沿って計画を進めることで、スムーズな移行を可能にするほか、DX推進の基盤にもなり企業の持続的な成長を実現できます。

 近年ではIT関連の補助金などもあるため、これらを活用すれば、コスト的に難しいと思われる中小企業であってもモダナイゼーション実現に向けた取り組みが可能です。モダナイゼーションを成功させ、最新技術の活用と業務プロセスの最適化を組み合わせ、企業の持続的な発展を目指しましょう。