目次

  1. 自爆営業とは その実態と問題点
  2. 自爆営業が違法となりうる類型
    1. 民法上の公序良俗違反・不法行為による損害賠償
    2. 賃金全額払いの原則違反
    3. 懲戒権・解雇権の濫用
  3. パワーハラスメントにあたる自爆営業の例
  4. 自爆営業をなくすために

 政府の「規制改革推進会議」の資料によると、自爆営業とは、一般的に、労働者が、自らの意思に反して自社の商品やサービスを購入させられることを指します。

 自爆営業は、労働者の経済的損失や精神的苦痛につながるとともに、民法や労働関係法令上様々な問題があります。国の規制改革推進会議が自爆営業の問題が取り上げられ、自社商品購入要求が様々な業界で散見されることが会議資料(PDF)で明らかになっています。

また、島田陽一早稲田大学名誉教授は次のように指摘しています。

労基法による規制は可能か。
契約内容によっては、一定の条文が適用される可能性がある。
営業ノルマの未達成の場合の当該商品の購入(労基法16条)
代金を給与から労使協定なし天引きする(労基法24条)
しかし、自爆営業そのものを直接的規制する条文はない。
労基法16条、24条も、元々は労働関係における悪しき慣行を払拭するために規定されたものであり、現代における不当な行為を将来的規制する可能性がないわけではない。
しかし、労働関係法規の立法動向を見ると、刑罰による規制という手法を新たに導入することには消極的な傾向があり、自爆営業を罰則により規制するというのは実現可能性が極めて低いと思われる。
それは、自爆営業が罰則付きで取り締まることを正当化する立法事実がなお形成されていないと考えるからである。自爆営業的な行為は、これまでの日本社会に相当蔓延ってきたのであり、それを社会的に黙認してきた現実があるからである。すなわち、自爆営業が社会的に深刻な問題であるという認識が一般化されるに至っていないのである。

自爆営業を労働法からどう考えるか(規制改革推進会議資料)

 こうした問題点を周知するため、厚労省が2025年4月、リーフレット「労働者に対する商品の買取り強要等の労働関係法令上の問題点」(PDF)をつくりました。

 自爆営業は、その対応によって、様々な法令に違反する可能性があります。以下に、主な違法となりうる類型をリーフレットをもとに解説します。

 従業員ごとに売上高のノルマがあり、そのノルマが未達成の際に、就業規則、口頭等で自社商品を購入するよう求めている場合は、民法第90条の公序良俗に反して無効となり、また使用者の強要によって労働者が損害を被った場合、不法行為として使用者の損害賠償責任が認められる可能性があります。

【参考となる裁判例】
数回にわたり会社から「商品を理解しなければ仕事はできない、そのためには商品を買う必要がある」と強く言われ、購入を拒否していたにもかかわらず、重ねて「商品を理解しない者には仕事をさせるわけにはいかない」と言われたため、やむを得ず自社商品約18万円を購入した営業職の事案がありました。裁判所は、使用者としての立場を利用して、仕事をさせることにからめて従業員に不要な商品を購入させたものであるとして、公序良俗に違反する商法であり、不法行為を構成すると判断し、商品代金相当額の損害賠償請求を認容しました(東京地裁 平成20年11月11日判決)。

 使用者が商品購入を強要していなくても、労働者が高額の商品購入を繰り返している状況を知りながら放置しているような場合は、売買契約が公序良俗に反して無効となり、また不法行為として使用者の労働者に対する責任が認められる可能性があります。

 労働基準法第24条は、賃金は全額を労働者に直接支払わなければならないと定めています。労働者に不要な商品を購入させた上で、賃金控除に関する労使協定を締結することなく購入代金を賃金から控除する行為は、この賃金全額払いの原則に違反する可能性があります。

 たとえ購入代金を労働者が直接支払う場合であっても、実態として労働者が断ることができない状況で、使用者から自社商品の購入をさせられていることは、労働者保護の観点から適切ではありません。

 売上高ノルマが未達成であることを理由に懲戒処分を行う場合、就業規則にその旨の規定があったとしても、単純にノルマ未達成だけを理由とした懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効となる可能性があります。

 達成困難なノルマを設定することは、業務命令権の濫用として無効となる可能性があり、無効の場合は、ノルマを前提とした不利益処分も無効となります。さらに、このようなノルマの達成を指示することは不法行為として損害賠償責任が認められる可能性があります。

 さらに、労働者に対して自社商品の購入を求めたにもかかわらず、労働者がこれを断ったことを理由に懲戒処分や解雇を行った場合は、労働契約法で禁止している懲戒権または解雇権の濫用として、無効になると考えられます。

【参考となる裁判例】
飛び込みでの新規顧客開拓業務を1日100件行うよう指示された営業職の事案では、裁判所は、新規顧客開拓のために訪問件数を目標として掲げること自体が不合理であるとはいえないが、以下の観点から指示に合理的な理由があるとは認められず、その他の事情をあわせて考慮した上で、当該指示は労働者に対する嫌がらせであり、不法行為を構成すると判断。慰謝料請求が認容されました。
・目標の達成のためには1件当たり数分で訪問しなければならないこと
・新卒社員が同業務を行う場合の件数は1日4、50件程度であること
・ポストインや門前払いが多くなければ達成できない件数の設定であること (大阪地裁 平成27年4月24日判決)

 自爆営業には、パワーハラスメント(パワハラ)が含まれている場合があります。パワーハラスメントとは、職場において行われる以下の3つの要素をすべて満たすものをいいます。

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

 自爆営業に関連して、以下のような言動がパワーハラスメントに該当する可能性があります。

  • ノルマ未達成を理由に、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返す
  • 「ノルマを達成できないなら給料泥棒だ」「こんなこともできないのか」といった侮辱的な発言を繰り返す
  • 自社商品を購入しないことに対して、「会社への忠誠心がない」「やる気がない」などと執拗に非難する
  • 「ノルマを達成できないなら辞めてしまえ」といった退職を迫るような発言をする
  • 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
  • ノルマ達成のために、本来業務とは関係のない過度な量の自社商品購入を強要する

 自爆営業は、労働者の権利を侵害し、健全な職場環境を損なう行為です。事業主は、労働者に対して商品の買取りを強要することがないよう、以下の点に留意する必要があります。

  • 労働者の自由な意思を尊重する
  • 適正なノルマ設定
  • パワーハラスメント防止措置の徹底
  • 労働環境の整備