「稼ぐ力」とは 企業の中長期的な企業価値の向上へ 経産省が5原則を提示
杉本崇
(最終更新:)
「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンスの概要(経産省の公式サイトから https://www.meti.go.jp/press/2025/04/20250430002/20250430002.html)
企業経営の世界で注目を集めている「稼ぐ力」。目先の利益を追求するだけでなく、企業が将来にわたって持続的に成長し、企業価値を高め続けることに主眼が置かれています。経済産業省が公表した「稼ぐ力のコーポレートガバナンスガイダンス」は、「稼ぐ力」を強化するために、コーポレートガバナンスが果たすべき役割と具体的な取り組みについて解説しています。TOPIX500を構成する企業を主な対象としていますが、それ以外の企業向けにも「稼ぐ力の強化に向けたコーポレートガバナンスの取り組みを自律的に行っていく潮流が生まれることが期待される」と述べています。
稼ぐ力とは 企業に求められる理由
内閣府は、稼ぐ力とは、付加価値を生み出す力だと定義づけています。
経産省の「稼ぐ力のコーポレートガバナンスガイダンス」によると、日本経済は長らくデフレ下でコストカットを主眼とした経済構造にありました。
しかし、今後の持続的な成長には、賃上げと投資が牽引する成長型経済への移行が不可欠で、企業はリスクを適切にとりながら大胆な投資や変革を進める「攻めの経営」を実行する必要があります。
こうしたなか、コーポレートガバナンスの役割も変化してきています。これまでは、主にリスク回避や不祥事防止といった守りの側面が強調される傾向にありました。しかし、これからは、企業の「稼ぐ力」を強化し、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることが大切だとしています。
「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則
経産省は「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則を掲げています。
- 自社の競争優位性を伴った「価値創造ストーリー」を構築すること
- 経営陣が、価値創造ストーリーの実現に向け、事業ポートフォリオの組替えや成長投資等、適切なリスクテイクを行うよう、後押しする
- 取締役会自体が短期志向に陥らないよう留意しつつ、経営陣が、中長期目線で、成長志向の経営を行うよう、後押しする
- マイクロマネジメントとならないよう留意しつつ、経営陣の意思決定過程・体制が、迅速・果断な意思決定に資するものとなるよう促す。
- 最適なCEOの選定と報酬政策の策定を行うとともに、毎年、原則1~4の内容も踏まえたCEOの評価を行い、再任・不再任を判断する
原則1:価値創造ストーリーの構築
取締役会は、自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーについて、経営陣とともに深く議論し、その実行を促す役割を担います。ストーリーの妥当性や実現可能性を検討し、経営陣がその方向性に沿った経営を行っているかを確認することが重要です。
原則2:事業ポートフォリオの組替えと成長投資の後押し
「稼ぐ力」強化には、事業ポートフォリオの見直しや、将来に向けた成長投資が不可欠です。取締役会は、これらの重要な経営判断について、経営陣が必要十分な検討を行っているか、また実行が適切に進んでいるかを監督し、過度なリスク回避に陥っていないかチェックを行います。事業ポートフォリオの議論は、少なくとも年に一度は行うことが望ましいとされています。
原則3:経営陣による中長期目線の経営の後押し
取締役会自身が短期的な視点に囚われず、経営陣が中長期的な視点で持続的な成長を目指す経営を行うよう積極的に後押しします。経営陣が短期的な成果のために中長期的な成長を犠牲にするような事態が生じていないかを確認し、必要に応じて改善を促すことも重要な役割です。
原則4:経営陣における適切な意思決定過程・体制の確保
経営陣が迅速かつ果断な意思決定を行うためには、適切な意思決定過程と体制が整備されている必要があります。取締役会は、経営陣の意思決定過程や体制が価値創造ストーリーの構築・実現に資するものとなっているかを確認し、不十分な場合は整備を促します。
ただし、個別の業務執行に過度に立ち入る「マイクロマネジメント」は避け、経営陣の創意工夫を阻害しないよう留意が必要です。CEOら経営陣は、価値創造ストーリーを実現するための強力な経営チームを組成し、多様な視点から議論・意思決定できる仕組みを構築します。
原則5:指名・報酬の実効性の確保
「稼ぐ力」を担う最適な経営トップ(CEO)を選定し、そのパフォーマンスを適切に評価・報酬に反映させることは、CGの根幹をなす要素です。取締役会は、経営陣と役割分担し、CEOの後継者計画を策定するとともに、価値創造ストーリーの実現に向けた報酬政策を定めます。また、毎年CEOの評価を行い、中長期的な取り組みの状況も踏まえて、再任・不再任を実効的に判断します。
「稼ぐ力」強化へ コーポレートガバナンスの進め方
「稼ぐ力」を強化するためのコーポレートガバナンスの取り組みは、CEOの主体的な関与のもと、以下の3つの柱で進められます。
1. CEOら経営陣による業務執行を支える取締役会の構築
- 各々の役割を果たすことを可能とする「取締役会(議長/筆頭社外取締役、構成)/各委員会(委員長、構成)」
取締役会の役割(企業戦略等の大きな方向性を示す等)を果たすための「アジェンダ・議論活性化」
- 価値創造ストーリーのブラッシュアップと、信頼関係の構築のための「エンゲージメント」
- 実効的な取締役会の体制を持続的に確保するための「ボードサクセッション」
- 執行のリスクテイクを後押しする「報酬政策」
2. 価値創造ストーリーを立案・実現できる強靭な経営チームの組成
- 価値創造ストーリーを描き、実現できる人材を選任するための「CEOの後継者計画」
- 経営陣による迅速・果断な意思決定を可能とする「権限委譲」
- CEOを支える「執行役員等体制(CxO等)」/「経営会議等の在り方」/「幹部候補人材の選抜・育成」
3. CGの実効性・持続性を担保する評価・検証の仕組みの構築
- 取締役会の実効性を確認し、改善するための「取締役会の実効性評価(取締役個人評価含む)」
- CEOの執行の結果の評価・検証も踏まえた「CEO再任・不再任(CEO評価含む)」
企業が「稼ぐ」ためのアクション
「稼ぐ力」の強化に向けては、社会課題や株主・投資家以外のステークホルダーについても考慮しつつ、自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築し、実行していくことが重要となります。
企業が「稼ぐ」ためのアクション(資本市場の活用)
株主・投資家の声を適切に反映することで、自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーの構築とその実行を可能とする信頼関係が構築され、将来期待の醸成にも寄与します。
また、将来的なビジネスモデルのあり方や、その下での事業ポートフォリオの在り方を踏まえ、貴重な経営資源をコア事業の強化や将来の成長事業への投資に集中することが重要となります。
企業が「稼ぐ」ためのアクション(事業ポートフォリオの組替えと成長投資)
この際、資本収益性と成長性を軸として事業評価を行うための標準的な仕組みである「4象限フレームワーク」を活用することが有効であると説明しています。
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この記事を書いた人
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杉本崇
ツギノジダイ編集長
1980年、大阪府東大阪市生まれ。2004年朝日新聞社に記者として入社。医療や災害、科学技術・AI、環境分野、エネルギーを中心に取材。町工場の工場長を父に持ち、ライフワークとして数々の中小企業も取材を続けてきた。
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