目次

  1. 東海道新幹線とは 従来の運転規制
  2. 土壌雨量とは 2025年6月から東海道新幹線で導入
  3. 新しい運転規制による効果

 JR東海の公式サイトなどによると、東海道新幹線は、日本の三大都市圏である東京-名古屋-大阪を結ぶ大動脈として、1964年の開業以来、半世紀以上にわたって約70億人に利用されてきたといいます。

 列車の運転本数は、開業時の1日平均60本から、2019年度には1日平均378本(臨時列車を含む)となり、所要時間についても東京-新大阪間の最速達列車で、開業時の4時間から2時間21分へと短縮しています。

東海道新幹線の運転規制の特徴
東海道新幹線の運転規制の特徴

 ただし、東海道新幹線は、路線の約53%が盛土や切取構造で占められています。そのため運行は、雨による影響を大きく受ける可能性があります。

 降雨による影響は主に盛土や切取の表面が削られたり(表層侵食)、線路が水に浸かったり(線路冠水)する「短時間の雨による影響」と、土の中に含まれる水分量が増えて盛土や切取の斜面が崩れる(法面崩壊)などの恐れがある「長時間の雨による影響」の2つの観点で評価してきました。

 従来の東海道新幹線は、以下の3つの指標を用いて降雨による影響を評価し、運転規制を設けていました。

  • 時雨量(1時間に降った雨の量)が60mm以上
  • 連続降雨量(過去24時間あたりの降雨量の合計)が150mm以上+時雨量40mm以上
  • 10分間雨量(10分間に降った雨の量)が300mm以上+10分間雨量2mm以上

 ただし、土石流によって運行に影響を及ぼす恐れのある場所では、気象庁が土砂災害警戒情報等の判断基準に用いている「土壌雨量指数」も従来から用いていました。

 JR東海は2025年6月1日から、長時間の雨による影響を評価する指標として、従来の連続降雨量に代わって「土壌雨量」を導入します。

 短時間の雨に対する時雨量は引き続き使用されます。 新しい運転見合わせの規制値は以下の通りです。

  • 時雨量 60mm以上
  • 土壌雨量 過去の経験雨量等を基に雨量計ごとに設定した数値

 「土壌雨量」とは、降った雨が土壌中にどのように浸み込み、溜まっていくかのプロセスをモデル化し、降雨によって土壌中の水分量がどれだけ溜まっているかを数値化した指標です。

 これは、気象庁が土砂災害警戒情報などの判断基準に用いている「土壌雨量指数」と同じ計算モデルを活用しています。JR東海は、東海道新幹線の沿線に自社で設置した59ヵ所の雨量計の観測値を用いて、この土壌雨量を算出します。

 土壌雨量の考え方を模式的に表したものが「タンクモデル」です。地面の表面、土の表層、土の中層をそれぞれタンクに見立てます。 降った雨はまず地表面のタンクに溜まり、そこから土の表層のタンクへ浸み込み、さらに土の中層のタンクへと浸み込んでいきます。

 それぞれのタンクからは、横方向へ水が流れ出たり(流出)、下の層へ浸み込んだりします。 この3つのタンクに溜まっている水分量の合計値を土壌雨量として算出します(単位:mm)。 これは、雨が土に貯まる様子を再現したもので、土砂災害の危険度を評価する上で重要な指標とされています。

 土壌雨量の導入により、東海道新幹線の降雨運転規制は長時間降雨の影響をより適切に評価できるほか、沿線の地形や過去の経験雨量などを考慮して、雨量計ごとに異なる規制値を設定できるため、より地域の実情に合わせた、きめ細やかな運転規制を行うことができるようになるとJR東海は説明しています。

 今後、出張などで東海道新幹線を利用する場合は、事前にJR東海の運行状況を確認をしつつ利用することをお勧めします。