目次

  1. 日本製鉄のUSスチール買収提案の経緯
  2. トランプ大統領が大統領令
  3. 国家安全保障協定(NSA)とは

 日本カウンターインテリジェンス協会理事の和田大樹さんの記事「日米首脳会談 トランプ氏、日本製鉄とUSスチールは『買収ではなく投資』」によると、日本製鉄は、USスチールに対し、2023年12月に米国子会社であるNIPPON STEEL NORTH AMERICA, INC.を通じ、米国の高炉・電炉一貫の鉄鋼メーカーであるUSスチールを買収することと、USスチールとの間で本買収に関する合併契約を締結することを決定したと発表しました。

 しかし、2025年1月、バイデン前大統領が日本製鉄によるUSスチール買収を阻止する姿勢を正式に発表しました。その後、トランプ大統領就任後は買収には否定的ながら、「多額の投資をする」という見方を示していました。

 トランプ大統領は日本製鉄によるUSスチール買収提案に関して、対米外国投資委員会(CFIUS)に新たに審査を命じていました。ロイター通信によると、委員会のメンバーの多くは“軽減策によって安全保障上のリスクに対処できる”との認識を示したといいます。

 こうしたなか現地時間の6月13日、ホワイトハウスの公式サイトによると、トランプ大統領が、日本製鉄とUSスチール両社の歴史的なパートナーシップを承認する大統領令に署名したといいます。

 これを受けて、日本製鉄は6月18日にUSスチールの買収完了を発表しました。日本と米国合わせてグローバル粗鋼生産能力は8600万t/年となる見通しです。

 パートナーシップ承認にあたっては、日本製鉄がアメリカ政府と国家安全保障協定(NSA)を結ぶことを条件としており、NSAの締結もあわせて発表されました。

 NSAは、以下のことを約束しています。

  • 会社名と本店所在地を維持
  • 日本製鉄が最大8人の取締役を選任し、米国政府は黄金株に基づき、米国籍の独立取締役1人を選任。全取締役の過半数を米国籍とする。経営陣中枢メンバーは米国籍
  • 独立取締役3人で構成するGovernment Security Committee
    設備投資の承諾なく米国内生産能力を削減しない
  • 2028年までに約110億ドルの設備投資
  • U. S. Steelが決定する通商措置の尊重(不干渉)
  • 生産・雇用を米国外に移転しない

 アメリカ政府はNSAにもとづく監督権を持ち、「黄金株(拒否権付き種類株式)」の発行も受けます。U. Sスチールは以下の実行に際して、アメリカ政府の同意が必要となります。

  • NSAにおいてコミットされた設備投資の削減
  • 会社名・本店所在地の変更
  • 法人登記の米国外移転
  • 生産・雇用の米国外移転
  • 米国内の競合事業の重要な買収
  • 米国既存製造拠点の閉鎖・休止等(通常操業における暫定休止を除く)、通商、労働、米国外からの調達に関する一定事項 等

 ただし、その他の議決権や配当受領権はなく、譲渡も禁止されています。