目次

  1. 骨太の方針2025とは 「賃上げこそ成長戦略の要」
    1. 価格転嫁・取引適正化の徹底
    2. 生産性向上支援の強化
    3. 事業承継・M&Aによる経営基盤強化
    4. 地域の人材育成と処遇改善
  2. 中小企業向けの支援策
    1. 労働市場改革と多様な働き方支援
    2. 建設業・自動車運送業・医療介護などの賃上げ
    3. 中堅・中小企業による賃上げの後押し
    4. AI・半導体サプライチェーンへの参入促進
    5. 中小企業の輸出・海外展開
    6. サイバーセキュリティ

 内閣府の公式サイトによると、骨太の方針とは、正式名称を「経済財政運営と改革の基本方針」といい、政府の経済財政政策に関する基本的な方針を示すとともに、経済、財政、行政、社会などの分野における改革の重要性とその方向性を示すものです。

 毎年6月ごろに、内閣総理大臣が経済財政諮問会議に諮問し、審議・答申を経て、閣議決定しています。骨太の方針に盛り込まれた内容は、年末にかけて議論する予算案にも反映されていきます。

 骨太の方針2025は大きな方針として「減税政策よりも賃上げ政策こそが成長戦略の要という基本的考え方の下、既に講じた減税政策に加えて、これから実現する賃上げによって更に手取りが増えるようにする」と掲げています。

 そのため、大きな柱は以下の5つです。

  1. 物価上昇を上回る賃上げの普及・定着 ~賃上げ支援の政策総動員~
  2. 地方創生2.0の推進及び地域における社会課題への対応
  3. 「投資立国」及び「資産運用立国」による将来の賃金・所得の増加
  4. 国民の安心・安全の確保
  5. 中長期的に持続可能な経済社会の実現

 デフレへの逆戻りを避け、成長型経済への移行を確実なものとするためには、物価上昇を安定的に上回る賃上げが不可欠だとし、具体的には、2029年度までの5年間で、日本経済全体で年1%程度の実質賃金上昇を目指しています。最低賃金についても「2020年代に全国平均1500円」という目標を掲げています。

 地方最低賃金審議会で、中央最低賃金審議会の目安を超える引上げが行われた場合に、持続的な売上拡大や生産性向上を図るための特別な対応として、政府の補助金による重点的な支援や交付金を活用した都道府県の取り組みを十分に後押しする方針を示しています。

 賃上げの目標達成には、全国の中小企業・小規模事業者での賃上げが不可欠であり、政府は「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」を作りました。

 骨太の方針に新味のある政策は含まれていないものの、中小企業の賃上げを促進するため、以下の4つのポイントを含んでいます。

 中小企業が賃上げを実現するためには、労務費や原材料費の増加分を適切に販売価格に転嫁できるようにする必要があります。

 骨太方針2025は、公共部門からの発注で、中小企業が適正な価格を確保できるよう、公共工事などで、最低価格で入札した事業者に対し適切かどうかを調査する「最低入札価格調査制度」や、あらかじめ最低制限価格を設けた上で、最低制限価格を下回る入社があっても落札者としない「最低制限価格制度」の導入拡大・活用する方針です。

 さらに「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」に基づく物価上昇に伴うスライド対応や期中改定などにも言及しています。

 さらに、中小受託事業者に対する代金の支払いの遅延等を防ぐ「中小受託取引適正化法」の執行強化や、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の周知広報も挙げています。サプライチェーン全体での取引適正化を進めるため、パートナーシップ構築宣言の拡大や実効性の向上にも取り組むといいます。

 また、中小企業が持つ技術やアイデアが適切に評価され、その価値が賃上げにつながる基盤を強化できるよう中小企業の知的財産への侵害に関する実態調査をもとに、独占禁止法上の指針をつくるほか、知財経営支援ネットワークを通じたリテラシー向上にも注力します。

 賃上げには、生産性の向上が不可欠だとして、骨太方針2025は、特に人手不足が深刻な飲食業、宿泊業、小売業などの12業種の「省力化投資促進プラン」に基づき、2029年度までの集中的な取り組みとして、官民で約60兆円の生産性向上投資を実現する目標を掲げています。

業種別の「省力化投資促進プラン」
飲食業・小売業・建設業を例にした「省力化投資促進プラン」

具体的には、デジタル支援ツールの活用によるサポート、全国的な伴走型支援、そして複数年にわたる生産性向上支援を挙げています。

 また、実効性についてはやや不明確ですが、地域の経営人材を確保するため、都市部の経営人材が、副業・兼業の形式で週に1回程度、地方の中小企業等の経営に関与する「週一副社長」の普及、マッチング支援の強化、副業・兼業の促進にも取り組むとしています。

 中小企業の事業承継について、M&Aを「出口戦略」の一つとして活性化させようと骨太方針2025は「事業承継・M&Aに関する新たな施策パッケージ」に基づき、支援機関による売手側のニーズ掘り起こし強化や、事業承継・引継ぎ支援センターの体制強化を進めます。

 相続税・贈与税の猶予制度である事業承継税制(特例措置)については、事業承継に係る政策の在り方の検討を進めるとしています。

 地域経済を支える人材の確保と処遇改善について、骨太方針2025は、在職者を含め、大学、短期大学、高等専門学校及び専門学校において「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」(デジタル技術等も活用して、現在よりも高い賃金を得るエッセンシャルワーカー)の育成に取り組むとされています。

 また、医療・介護・保育・福祉等の分野における人材確保に向け、保険料負担の抑制努力を継続しつつ、公定価格の引上げを始めとする処遇改善を進めることも明記しました。

 「賃金向上推進5か年計画」に加えて、骨太方針2025は、中小企業向けの支援策を盛り込んでいます。

 生成AIが普及すると、将来的に一部の事務職等の労働需要が減少する可能性があることも考えられます。そこで、幅広い労働者に対する「リ・スキリング支援」を強化します。

 AIを含むデジタルスキルに関する教育訓練給付金対象講座の拡大やオンライン職業訓練の提供、中高年齢層のセカンドキャリア支援などに取り組むとしています。

 2028年技能五輪国際大会の日本開催の決定を契機として、現場人材のスキル向上と処遇改善のための環境を整備するとともに、スキルアップを目指す国民運動を展開するとうたっています。

 中小企業に関わる「年収130万円の壁」への対応については、2025年度中に、労働時間の延長や賃上げを通じて労働者の収入を増加させる事業主への支援を実施する予定です。

 建設業や自動車運送業の賃上げに向けて、骨太の方針2025は、労務費の基準の設定及び実効性確保、建設キャリアアップシステムの利用拡大、賃上げに対応した運賃設定や荷主への是正指導の強化等を挙げています。

 警備業やビルメンテナンス業の賃上げに向け、官公需におけるリスクや重要度に応じた割増加算を含め、適切な単価設定や分離発注の徹底により、労務費の価格転嫁を進めるとも記しています。

 医療・介護・障害福祉の処遇改善は、過去の報酬改定等における取組の効果を把握・検証し、2025年末までに結論が得られるようにします。

 中堅・中小企業による賃上げの後押しに向けて、骨太の方針は、中堅企業の研究開発や大規模設備投資を支援するとともに、ファンド等からの出資を通じ、資金調達環境を整備します。海外展開を担える高度人材の受入れ、家族経営形態のガバナンスの強化も挙げています。

 100億円超えの売上げを目指すことを宣言する企業の設備投資や、中小・小規模事業者の新事業進出・事業構造転換、研究開発及び新製品・サービス開発の支援も予定しています。

 地域の社会課題解決の担い手となるローカル・ゼブラ企業の育成に向け、社会的インパクト評価を資金調達につなげる環境整備や、地域の生活を支えるサービスの供給を維持・発展させる「地域協同プラットフォーム」も支援します。

 このほか、企業の情報・支援ニーズを集約した、中小企業と支援機関とのマッチングに係る基盤(セカマチ)の機能を拡充します。「小規模企業振興基本計画」を踏まえ、経営力向上のための商工会・商工会議所による支援をしたり、独立行政法人工業所有権情報・研修館の機能の地方展開に取り組んだりします。

 AIの普及で今後ますます需要が伸びると予想される半導体分野について、骨太の方針2025は、次世代半導体の量産に向け出資等を実施する。設備投資の支援やインフラ整備によるサプライチェーンの強靱化、設計開発の支援や高度人材の育成に取り組むといいます。

 先端半導体の設計・製造から、サーバーの組立て・運用、ソブリンAIの開発・利用に至るエコシステムを国内に構築することを目指します。

 関連企業、産業技術総合研究所、大学等が参画する地域コンソーシアムで、将来の市場・技術動向も踏まえ、企業人材等による継続支援を通じて、民間主導で中小企業の半導体サプライチェーンへの参入を促進することも記しました。

 中小企業の成長戦略として、海外市場への挑戦も重要な要素です。骨太方針2025は、「新規輸出1万者支援プログラム」を充実し、テストマーケティング支援から、専門家による伴走支援、海外ECサイトを通じた販路開拓支援までといった政策を準備しています。

 資金調達の面では、ディープテック分野の起業から事業化・商用化までの支援を充実する方針です。

 非上場株式の流通活性化や債務保証の拡大など、スタートアップや成長段階にある企業に対して、資金が円滑に供給される環境整備を進めます。特に、ベンチャーキャピタル(VC)のガバナンスや投資契約実務の向上、公正価値評価の導入等を通じて、海外の標準的な取り組み水準を目指すことで、国内外からの投資を呼び込む環境も整備します。

 骨太の方針2025は、政府が2025年内をめどにサイバーセキュリティ戦略を作ることを明らかにしています。

 高度な情報収集・分析・共有に係る基盤の構築、政府横断的な監視機能の強化、2025年度中の政府調達におけるJC-STAR159の活用、経済安全保障重要技術育成プログラム等を活用した次世代サイバーセキュリティ技術(次世代暗号・量子耐性技術を含む)の研究開発プロジェクトの拡充、国際標準化も視野に入れた社会実装の検討、中小企業を含むサプライチェーンにおける対策の強化、人材育成、国産技術を核とした対処能力の向上などを盛り込む予定です。