目次

  1. 祖業を残すと決めた「日東社」の経営判断
  2. 市場ニーズ・日東社の強みを振り返った1年
  3. 原点生かした「ブルーラベル」 着色の苦労も
  4. 2025年はマッチの150周年

 老舗マッチメーカー「日東社」(兵庫県姫路市)は2023年夏、コロナでの打撃や原材料高騰などで赤字に陥った紙おしぼりなど年間売上高ベースで約8割の事業を譲渡しました。その一方で、祖業であるマッチ事業は残す決断をしました。

 記事「マッチ老舗の日東社、4代目社長が事業の一部譲渡で見せた『スパッと判断』」のなかで、4代目社長の大西雅之さんは祖業への愛着があり、これまで事業を継続してきた先人たちへの配慮があったことを明かしています。

マッチの製造工程の様子(日東社提供)

 マッチ業界の事業再編が進むなかで、コストに見合う価格交渉ができるようになり、黒字化できるようになったといいます。以前の収益の柱は表面のラベルを広告とするオーダーマッチでしたが、家庭などで使われる自社ブランドマッチへと徐々に移ろうとしています。

 その過程で、2022年には喫茶店でおなじみだったブックマッチの生産も終了となりました。

 マッチの「着火道具」という機能面だけに着目すれば100円ショップで入手できます。次の事業の柱をつくるため、マッチにどのような付加価値をつけるのかが、日東社にとって至上命題となっていました。

 そこで外部のデザイナーの力も借りて、製造現場や広報担当など社内のいろんなメンバーと2024年1月から、1年かけて話し合いました。市場ニーズは何か、そのなかで日東社の強みとはどこにあるのか?他社にできないことで日東社ができることとは……。

 まずは少量生産に対応できる体制は強みとして挙がりました。その後も、自社の歴史を振り返るなかで、軸木を黒く染めた商品を作ったことがあることが分かりました。

現在製造しているマッチ

 そして、何より桃、燕、象、パイプなど、マッチでおなじみの意匠を多数保有していることは、他社にまねできない価値です。大西潤さんは「祖父が業界団体の代表を務めていたことから業界内でも信頼が厚く、生産終了を決めた同業者から、デザインとともに事業を託されたそうです」と話します。

 さらに、現代の生活にあったマッチの用途を探すなかで、お香やアロマキャンドルなど火を使うシーンがあるのではないかというアイデアも出てきたといいます。

 こうした話し合いの末、部屋のインテリアにもなる新商品「ブルーラベル」のアイデアが生まれました。消費者におなじみの意匠を活用しつつも、おしゃれな部屋に合うよう、藍色だけの単色ラベルに、マッチ本体は先端の頭薬を白色、軸木(マッチ棒)を藍色に染めました。

日東社のブルーマッチ
日東社のブルーマッチ

 商品の実現を支えたのが30代で工場長に抜擢された小林賢司さん。小林さんが苦労したと振り返るのが軸木の着色でした。

 「マッチは頭薬が燃えても、軸木は自然と火が消えて灰が落ちない安全構造となっています。この軸木の安全性と染色を両立させるまで時間がかかりました」

 小林さんは元々、営業職でしたが、生産管理だけでなく、市場ニーズに応えた商品を開発する視点を期待され工場長を任されたこともあり、開発過程を「難しくても、やるしかないという気持ちで取り組みました」と振り返ります。

 軸木を染色できる技術を確立したことで、自由に頭薬・軸木・箱のラベルを自由にデザインできる「スペシャルオーダーマッチ」も提案できるようになりました。記念イベントのノベルティとして100個単位で生産可能です。

日東社のスペシャルオーダーマッチ
日東社のスペシャルオーダーマッチ

 マッチは100円ショップでも買える時代です。新商品は本当に市場に受け入れられるのか……。大西さんと小林さんは不安を抱えながらも2025年6月、東京ビッグサイトで開催されたインテリアライフスタイル展に出展しました。

 すると、白ベースのブースに、大きく飾られた青いマッチ箱が目を引いたのか、来場者が途絶えることがなく、今後の取引の可能性がある事業者だけに絞っても100枚以上名刺交換することができたといいます。

 2025年は、マッチが日本で生産開始してから150周年といいます。マッチ業界の組合である日本燐寸工業会が主催する記念パーティーが11月に予定されており、その時期に合わせてブルーラベルの販売開始しようと準備を進めています。