世襲の社長は会社をつぶす?『二代目が潰す会社、伸ばす会社』を読む
時代劇でいえば、呉服屋の放蕩息子のイメージでしょうか。「初代が創業して、二代目で傾き、三代目が潰す」と世襲企業は否定的に語られやすいのですが、後継者が会社をつぶすか、成長させるかの差はどこにあるのでしょうか?
時代劇でいえば、呉服屋の放蕩息子のイメージでしょうか。「初代が創業して、二代目で傾き、三代目が潰す」と世襲企業は否定的に語られやすいのですが、後継者が会社をつぶすか、成長させるかの差はどこにあるのでしょうか?
『二代目が潰す会社、伸ばす会社』の筆者・久保田章市さんは、アウトドアメーカー「スノーピーク」や飲料メーカー「ホッピービバレッジ」など実際の企業を例に、経営の実務的な能力に加え、座学だけでは学べない洞察力や決断力、人間としての魅力なども必要だと紹介しています。後継者の悩みの対処法を具体例を交えながらまとめています。
全5章のうち、最終章が本題だと感じました。前段で紹介しました能力は、①会社をつぶさない、②社員の力を結集させる、③経営革新をすることに生かされるといいます。
①の「会社をつぶさない」は、当たり前のように聞こえますが、利益を出すことだけでなく、天災や取引先の倒産など想定外の事態が起きてもキャッシュ不足を起こさないことが必要です。決算書を読めることはもちろん、経理部門に任せっぱなしにせず、出入金の管理や原価計算ができ、資金繰り表も読めることが望ましいと書かれています。
ただし、それだけではなく、トップセールスができる営業力や、「絶対に自分の代では幕を下ろさない」という強い意志も根底にあることが求められるといいます。
②社員の力を結集させるについては、後継者は先代に比べて「求心力」でハンデキャップを負っているという前提を説明しています。20年も30年も経営を担い、商品、業界、取引先のことに精通している先代社長と同じようなトップダウン経営は難しいでしょう。
そこで著者は、社員から信頼を得るために社員の意見を聞き、社員の共感を得られる経営理念やビジョンを示すことを提案しています。さらに、的確な経営判断と実績も欠かせないといいます。そのほか、「ジブンゴト化」させるため、社員に経営を学んでもらって実際に参画してもらうことや、新卒採用をすることも勧めています。
③の経営革新は中小企業に欠かせません。
時代とともに市場も顧客も変わり、技術が進歩していきます。事業領域が限られていると、柱となる商品が変化についていけなくなり、退場も余儀なくされるからです。
業務改善や効率化による人件費削減だけでありません。著者は、経営者が近い将来に社長交代を考えているのであれば、後継者に将来の柱となる新商品の開発、海外市場への展開、新事業への進出を取り組ませてほしいと勧めています。
経営革新はタイミングが大事です。新社長就任直後に経営革新に取り組もうとすると、社員の不安が高まり、時には摩擦が生じて失敗する可能性があるのだといいます。さらに難しい経営改革に取り組むこと自体が後継者の育成につながるとしています。
後継者がうまく会社を継ぐためには、先代が後顧の憂いなく退任できる仕組みも必要です。この本で紹介している歯ブラシや介護用品などを手がける「ファイン」(東京)では、会社を継ぐまえに後継者と全社員で、退任に向けた「社長の花道プロジェクト」を企画したそうです。
商品企画から先代に頼る部分も大きかった体制を改め、営業から商品開発、会議の回し方に至るまで先代がいなくなっても会社が回る仕組みを徐々に作り「任せても大丈夫」と、経営者から太鼓判を得るに至ったといいます。
先代にとって事業承継に不安はつきものです。ただし、いつまでも居座っていては後継者の求心力は高まりません。上手な会社の継ぎ方、継がせ方は先代と後継者の二人三脚が欠かせません。
二代目が潰す会社、伸ばす会社
価格:935円(税込)
ISBN: 978-4-532-26194-8
発行年月:2013年7月
著者名:久保田章市
発行元:日本経済新聞出版社
ページ数:232ページ
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