足場施工で年商37億円へ成長 職人から始めた三男後継ぎの組織術
大阪府豊中市の「平尾化建」は、工事現場には欠かせないくさび足場の施工を手がけています。平尾栄助(しげひろ)社長(41)は畑違いの業種から、父・壽郎(ひさお)さんが経営を立て直した平尾化建に中途入社。いち職人からステップアップし、経営を担っています。父親から何を受け継ぎ、どのように自分の色を出そうとしているのかを伺いました。(聞き手はツギノジダイ編集長・杉本崇)
大阪府豊中市の「平尾化建」は、工事現場には欠かせないくさび足場の施工を手がけています。平尾栄助(しげひろ)社長(41)は畑違いの業種から、父・壽郎(ひさお)さんが経営を立て直した平尾化建に中途入社。いち職人からステップアップし、経営を担っています。父親から何を受け継ぎ、どのように自分の色を出そうとしているのかを伺いました。(聞き手はツギノジダイ編集長・杉本崇)
1949年創業。元々はプラスチック建材を扱う問屋として設立され、平尾社長の父・壽郎さんが、くさび足場の施工に業態転換した。関西だけでなく、関東、四国、九州に20カ所以上の営業所がある。
――後を継ぐことは子どもの頃から意識していましたか。
私は4人きょうだいの末っ子の三男なので、全く考えていませんでした。京都で、のほほんとした大学生活を送っていた頃、平尾化建の経営が悪化して、独立していた父が救済に乗り出しました。それまでの問屋業から、足場業に業態変換して立て直しました。
――大学卒業後はどんな道に進んだのですか。
進路を相談した時、父からは「鶏口となるも牛後となる事なかれ」と言われ、大手と迷った末、一口餃子で知られる「点天」に入りました。店舗間競争で一番になるより、店で一緒に働くアルバイトから「ここで働くのが楽しい」と言われる方がうれしかった。自分は上昇志向がそこまで強くないのが分かりました。
次に美容や健康などを手がける名古屋市の「MTG」に転職して経営企画を担当し、色々なことを学びました。前々職と前職を通じて、職場の仲間が少しでも気持ちよく働ける環境を作ることが、自分自身の仕事の核と考えました。社長業だったら、どんな業種でもそれが実現できると思ったのです。結婚することもあって、社会人になって約5年で、平尾化建への入社を決めました。
――平尾化建では、どんな仕事からスタートしましたか。
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我が社は、マンションや一軒家の工事現場で仮設のくさび足場を組むのが仕事です。顧客はゼネコンや地場の工務店で、鉄骨を組んで現場に渡し、解体も行います。私は入社して、職人からスタートしました。
現場が分からないと、営業も事務もできません。毎日、仲間とばか話をしながら、肉体労働をしていました。職人の世界では、社長の息子だからこそ反発されることもありました。先のことを考えても、周りに嫌われてしまうので、目の前の資材を運ぶことに集中していました。自分より若い職人も多く、コミュニケーションギャップはありました。自分はいち職人のつもりで働いていましたが、「シゲちゃんはいいよな。先が決まっているから」と言われたのを覚えています。
その後、営業を経て、入社3年目に管理畑になりました。職人も営業も経験したのが強みになり、経理の仕事でも現場の意見を尊重して、従業員との信頼関係を作っていきました。
――ご自身よりも入社年次が上の社員もたくさんいたと思います。苦労したことはありましたか。
入社直後、前職の経験を生かして会社のホームページを変えようと思い、「会社の強み」や「くさび足場の良さ」を尋ねるアンケートを社員に配りました。でも、職人さんは言語化するのが苦手。父からも「こんなの誰も分からへん」と却下されて、「全然違う組織なんだ」と身に染みました。
――お父さんが大切にしてきたことをどう引き継いだのでしょうか?
父から言われたのは「絶対につぶすな」くらいです。いまだにほとんど会話はないですね。仲が悪いわけではなく、そういう距離感の人なのでしょう。
私は自分の人生を、誰かのせいにして生きていくのは嫌でした。それを形にするために、社員の裁量権を大きくし、損益計算書もオープンにしています。現場がどんな顧客を選ぶかは、原則口を出さないし、営業所を開く場所も自由に考えてもらいます。現場から社員候補を推薦されたら、面接したうえで基本的には採用します。中途採用の場合の給与は、よほど高くなければ、ほぼ希望した額を支払っています。
――経営で課題を感じているところはありますか。
先ほどの話と矛盾するようですが、組織化も同時に進めています。今までは各営業所長に好きにやらせて、競争心を生み出していました。しかし、私が入社したときは四つくらいだった営業所も20カ所以上に増え、全部は見られません。新人育成も所長の色が濃すぎて偏りが出るなど、非効率が目立つようになり、会社全体でのルール作りをしたいと思っています。利益を出し続けながら、自立的に成長していく組織が理想です。
所長がキャリアの終着点にならないように、エリアマネジャーのような役職も検討しています。個人事業主の集合体から会社っぽくなってきましたね。
ーー後継ぎとして入社されてから、業績はどのように変わりましたか。
専務に就任した時の年商は10億円でしたが、2018年は32億円、2019年は37億円に伸びました。各営業マンが、それぞれにネットワークを広げるという地道な活動が実を結んだと思っています。
――新型コロナウイルス感染拡大の影響はありますか。
5月と6月は売り上げが前年同月比を大きく割り込む予定です。7月以降はやや回復傾向になると思います。変に新しいことはせず、営業マンが持つネットワークを地道に強化することが大切だと思っています。仕事が少ない時は、腕のいい職人を獲得できるチャンスであると同時に、既存の職人の教育にも力を入れていきたいです。
未曽有の危機だからこそ、従業員の不安や不満がたまりやすいと思います。だからこそ、安全と健康が第一で無理をしないという、心に寄り添うマネジメントをしていきたいです。各営業所の損益計算書が全社員に開示されており、現場は理解しているので、目標数字を強調して尻をたたくようなことはありません。
5月の定期昇給も例年並みに行い、月給は生活保障なので削減することはないというメッセージを発信しました。同時に、賞与は業績連動なので今年は厳しいというアナウンスもしています。
――最後に、後継者を目指す人たちへのメッセージをお願いします。
会社員だったころ、経営者はスーパーマンというイメージでした。実際は普通の人でも何とかなります。気負いすぎず、目の前のことに集中するのが大切です。相談相手は必要だし、本も読んだ方がいいですが、悩むのと考えるのは違います。
悩むというのは、同じところをぐるぐる回っているだけ。でも、考えることは、自分を客観視して分析し、行動につなげる思考プロセスです。考える癖をつけて、自分の核になるものを持てば、経営者になっても惑わずに済むと思います。
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