【コロナでも新規問い合わせは過去最高】刃物製造業が試行錯誤のWEB戦略
新型コロナの影響で自動車の部品メーカーなどの製造業から「仕事が減った」という声が出ています。ですが、同じBtoB業界の工業用刃物製造業「エドランド工業」は新規の取引先が増えています。その背景には、WEB上での表現や構成の改善を進めた試行錯誤がありました。
新型コロナの影響で自動車の部品メーカーなどの製造業から「仕事が減った」という声が出ています。ですが、同じBtoB業界の工業用刃物製造業「エドランド工業」は新規の取引先が増えています。その背景には、WEB上での表現や構成の改善を進めた試行錯誤がありました。
「既存の取引先からの注文は減っているんですが、新規の問い合わせ件数が過去最高で、対応しきれない状況なんですよ」
岐阜県関市の経営支援拠点「関市ビジネスサポートセンター(Seki-Biz、セキビズ)を訪れたエドランド工業の取締役、5代目久保有希さんはこのように切り出しました。なぜ、問い合わせが活況なのか。この状況をひもとくために、これまでの支援を振り返ります。
刃物の町・関市に1919年に誕生したエドランド工業は、主にミシンにつける糸を切る刃物や野菜を千切りにするフードカッターの刃など、2万2千種類以上の工業用刃物を大手機械メーカー向けに製造しています。メーカーの細かな要望に対応するため、材料の選定から形状加工、研磨などすべて自社で一貫生産しています。
久保さんは「何十年もの間、大手機械メーカーさんと良いお付き合いをさせていただいていますが、長い目で見ると少しずつ減少傾向にあります。そうした状況を打開するために、 小ロットから受注するオーダーメイド刃物に可能性を感じて、そこをきっかけに営業していこうと動き出していました」と振り返ります。
久保さんは2016年、市役所の職員の紹介でセキビズを初めて訪れました。
「セキビズで現状を話すと『つまり、お客さまの開発パートナーになりたいってことですよね』って言われたんです。自分が考えてたことを、一言でスパンと表現してもらったというか、それです、それそれ!という感じでしたね。自分のやりたいことをうまく方向付けしてもらえました」
↓ここから続き
セキビズは、エドランド工業の2万2千種類を超える工業刃物の製作実績に着目しました。エキスパートとして、依頼者が抱えている課題にオーダーメイドで最善の提案ができることが強みであると見出しました。
その上で、久保さんに「言われた通りに製造するのではなく、課題に対して提案し、製造することをサービス化しましょう」と提案しました。
「これがサービスになるんだ」と驚いた久保さん。サービス名を考えるなかで、最初「最適化」という言葉を考えていましたが、話を進めるなかでセキビズから出た「刃物のお悩みベストアンサー」というサービス名に決まりました。
「刃物のお悩みベストアンサー」は2016年の10月から始めました。中部経済新聞に掲載されたのをきっかけに、日刊工業新聞、日本経済新聞、板紙段ボール新聞で続々と紹介され、12月ごろから徐々にエドランド工業に問い合わせが届くようになりました。
久保さんは 、これほど多くのお問い合わせがあるとは予想していなかったといいます。「みんな、刃物に困っていたんだ、という印象が強かったです。こんなにニーズがあるんだという現状を知ることができたのは一番の収穫でした」。新規開拓の営業ノウハウも人員もない状況で、取引先から問い合わせが寄せられるこのサービスについて「本当に良い営業マンになってくれています」と話しました。
予想を超える反響を得た久保さんが力を入れ始めたのが、展示会です。日本最大級の異業種交流会である「メッセナゴヤ」や、製造業の設計、開発、製造などの担当者が集う機械要素技術展など、年間3~4回ペースで出展しました。
展示会で力を入れたのは、自社の特徴をわかりやすく伝えるチラシ作りでした。エドランド工業は、最低1個から最短2週間で対応できる小回りの良さを生かし、試作品等のオーダーメイド刃物の提案や製作も行っています。
しかし、展示会では、自分たちが当たり前だと思っている表現では、思うように伝わっていなかったことに気づかされます。
たとえば、自社では当たり前のように「機械刃物」という表現を使っていたのですが、それだけだと「削る」工具をイメージされる方も多くいて、「切る」機械刃物と表現するようにしました。
久保さんは「一つ一つは小さいことですが、展示会ごとに表現を変えていくことで、反応が大きく変わることを実感しました」と話します。
2020年の出展に向けて準備をすすめていた久保さん。ところが、コロナの影響で次々と展示会の中止が決定しました。
「既存の取引先からの注文が減少傾向にあるなか、何か手を打てないか、必死で考えました。そこで力を入れることにしたのがWEBマーケティングでした」。ホームページからの問い合わせは増加傾向にありましたが、もっと増やすことができるのではないかと考えたといいます。
そこで取り組んだことは、新規の取引先獲得につながるランディングページの作成でした。ここで生きたのが、展示会での経験です。展示会でどのように説明をすると、ターゲット層が反応してくれるか、その表現を活用することにしたのです。展示会でもブースを訪れた人の反応がよかった「1個からオーダーメイド」ができるという点は一番、目にとまるようにしました。
2020年3月からランディングページ作成にとりかかり、事例の情報がよく見られていることがわかれば、構成を変えるなど、分析をしながら微修正していきました。そして試行錯誤の結果、同社は2020年6月に新規問い合わせ件数が過去最高の79件となりました。
久保さんは「もちろん自社もコロナの影響を大きく受けています。でもリーマンショックの時と比べると、大きく会社が成長していることを実感しました。リーマンショックの影響を受けた2009年6月、月間売上前年比は60%減と大打撃でした。ところが2020年6月は前年比で17%減に止めることができました」と話します。
会社の成長は他の数字にも大きく反映されています。2019年と2013年を比較すると、新規問い合わせ件数は27倍、取引社数約4倍、新規受注額に至っては125倍に。大手取引先への依存率も大きく減少し、不況に強い会社に変貌することができたのです。
BtoB製造業でも着実にオンライン化の流れが進んでいます。もともとエドランド工業の場合は、新型コロナウイルスの影響で展示会の中止や対面営業の機会が減る一方、ホームページのアクセス数の伸びは顕著でした。
BtoB製造業者からは「ものをみないとわからない」、「現場をみてもらわないと伝わらない」という声を耳にすることがあります。しかし少なくとも、製造業者に依頼する側は、実物を見る前にオンラインで探すケースが増えています。そのときにインターネット上で、まず会社の存在を見つけてもらわなければ、商談にもつながりません。
ただし、ホームページがあればすぐに問い合わせがくるかといえば、そんなに甘いものではありません。インターネット上ではすでに数多くの情報が存在し、簡単に比較することもできます。そこでちゃんと自社が選ばれる理由が伝わっているかが、問われます。自分たちでは伝えているつもりでも、相手に伝わっていないことは多々あります。
一般消費者向けの商品がネーミング一つで販売数が変わるように、BtoB製造業でもキャッチコピー一つで探している人の反応は変わってきます。エドランド工業のように、これまでの商談の中で寄せられた現場のニーズを、サイト上の表現の一つひとつに落とし込むことが他社との差別化につながります。まず、オンラインからの受注を増やしたいBtoB製造業の方は、自社の特徴を第三者が初めてみても、伝わるように表現されているか、確認することから始めてみましょう。
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。