「先端の触媒加工部分で飲み物をかき回すことで不要な雑味を分離させ、口当たりが軽やかになる。ワインだと、ひと混ぜで1年の熟成感を得られます」。商品開発担当の取締役、井之口哲也さん(41)が「魔法のマドラー」を手に自信を見せた。

魔法のマドラー(手前)と魔法のプレミアムグラスを商品化した井之口哲也さん。ワインがまろやかな味に「変身」する
魔法のマドラー(手前)と魔法のプレミアムグラスを商品化した井之口哲也さん。ワインがまろやかな味に「変身」する

 水質浄化事業で蓄積した技術を生かし、生活用品のブランド化にも力を入れている。ワインを熟成させる「魔法のマドラー」や、内側を触媒加工した「魔法のプレミアムグラス」が代表的な商品だ。

 マドラーはステンレス製で長さ22センチ。金属加工の本場、新潟県燕市の職人と試行錯誤の末、グラスは2017年に、マドラーは2019年に商品化した。専門家5人が赤ワインと米焼酎をマドラーで混ぜて官能評価試験をしたところ、「まろやかさ」「飲みやすさ」などの項目で有意な差が出たという。

 今年2月に東京ビッグサイトで開催された贈答品と雑貨の国際見本市に出品。民放の取材を受けて全国放送されると、直後から注文が殺到。製造が追いつかないほどの人気ぶりという。

 井之口さんも晩酌に使っている。「私が好きなのは安めのワイン。口当たりが良くなって、つい飲み過ぎます」

 本来は遠心分離技術による廃水処理事業が中心。高速回転で汚水をきれいな水と汚泥に分離する。小型で持ち運びが簡単なのが特長。触媒は化学反応を手助けする物質で、浄化技術に当初活用しようとしたことがきっかけでマドラーが誕生した。

遠心分離機を応用した水質浄化装置。ベトナムで実証実験をする予定だ
遠心分離機を応用した水質浄化装置。ベトナムで実証実験をする予定だ

 近年急速に経済発展し、環境問題が深刻化しているベトナムにも注目。ホーチミン市の大学生2人をインターンシップで受け入れたほか、カンボジアとの国境に近い南部で現地の大学や行政機関などと協力し、水質浄化装置を使って淡水魚の養殖池を浄化する実証実験を計画する。

 井之口さんは「規模が小さい会社なので小回りが利くのが武器。ベトナムなどでの海外展開も重視したい」と夢は膨らむ。

(9月19日付け朝日新聞地域面に掲載)

ヴァンテック

 1962年に創業した廃棄物処理会社「栗東総合産業」のグループ会社として1994年に設立された。社名は、ほろ馬車を意味する「VAN」(ヴァン)と科学技術の「TECH」(テック)を組み合わせて名付けた。社是は「温故知新」。社員数は約80人。