液体や気体が流れる管を開け閉めするバルブは、台所のガス機器から石油プラントまで様々な場所で使われる。アソーの製品は穴の開いた小さな金属の球をハンドルで開閉させる「ボールバルブ」で、主に飲料水の給水口や車のエンジンオイル回りなどで使われる小型のものだ。

 品ぞろえはサイズの違いも含めて2000点以上。ニッチな独自商品が全体の8割以上で、いまも毎年1,2点の新製品を出す。通常半年ほどかかる規格外のバルブのオーダー生産を約40日でこなすスピードもウリだ。

 アソー自体は工場を自分で持たず、機能やデザインを向上させる製品開発に特化した「ファブレス」企業。注文がくれば協力会社約30社に発注して生産してもらう。浅生隆一社長(62)は「同じ土俵で戦えば価格競争になり、下請けはたたかれる。新しい市場を自ら作ることをいつも考えている」と明かす。

 浅生社長の祖父の時代は小さな下請けの町工場。不景気の時などは価格競争が厳しく、資本力がある大企業に受注を持っていかれた。オイルショックの時に先代の父・和良氏が「製造は外注し、販売も代理店に任せて商品企画力だけで勝負する」方針に転換した。

「エースボール」の部品を組み合わせるアソーの従業員
「エースボール」の部品を組み合わせるアソーの従業員

 そこから、まもなく生まれた製品が「エースボール」。操作が軽く、作業者のミスを防ぐために持ち手の形や目立つ色にもこだわっているのが特長で業界で広く支持されている。

 ホチキス(ステープラー)やセメダイン(接着剤)のように特定の会社の商品名が名前として定着している商品がある。「エースボール」もそうなるのを願ってつけられ、半世紀にわたってロングセラーを続けてきた。浅生社長は「どんなにニッチな商品にも未来の可能性がある」と話す。

 今の課題は外注先との連携強化。大半が国内の中小企業だが、良い技術を持っていても後継者不足などで廃業する例もあるという。「ブランド力をもっと強化し、協力企業が技術を残せるようバックアップしていきたい」

(9月26日付け朝日新聞地域面に掲載)

アソー

 1960年設立。年間売り上げ約15億円、従業員45人(正社員31人、パート・嘱託が14人)。小型バルブの専業メーカーで販売先は約300社。人材の確保を重視し、職場環境の向上にも努めている。今春は6人の新入社員が入社した。