道の駅で月10万円売れるアパレル業の米作り 本業にも波及効果
大阪のアパレル会社員が始めた新規事業は、山口県萩市にある実家の田んぼを引き継いだ米作りでした。もうからない農業を変えようという思いに加え、ストーリーやブランドイメージを磨き上げ、一般的な米価の2倍でも買ってもらえる米が生まれました。戦略づくりを支援した萩市ビジネスチャレンジサポートセンター(はぎビズ)から紹介します。
大阪のアパレル会社員が始めた新規事業は、山口県萩市にある実家の田んぼを引き継いだ米作りでした。もうからない農業を変えようという思いに加え、ストーリーやブランドイメージを磨き上げ、一般的な米価の2倍でも買ってもらえる米が生まれました。戦略づくりを支援した萩市ビジネスチャレンジサポートセンター(はぎビズ)から紹介します。
山口県萩市は人口約4万5千人。今もなお城下町のたたずまいが残る明治維新胎動の地として知られる観光地です。海も山もある豊富な地域資源から、漁業や農業などの一次産業も盛んです。
萩市の中でも山間部に位置する上田万(かみたま)地区で2019年から米作りを始めたのが、大阪のアパレル会社「大協テックス」の原尚豪さんです。多角化戦略として社員から企画を募集する機会を生かして、実家の田んぼを活かした農業参入についてプレゼンしました。1回のプレゼンでは通らず、何度もチャレンジしてようやく萩支店を1人で立ち上げることになりました。
なぜ何度もプレゼンするほど一生懸命になれたのか。その理由は、原さんが幼少期から父・尚徳さんから聞いてきた「農業は儲からんよ」という言葉にあります。
「本当に農業は儲からないのか、それを自分自身の手で打破していきたい」という思いから、社長に対して何度もプレゼンしました。
そして大阪から地元萩市に移住してきた原さん。父・尚徳さんに萩支店として農業参入することを伝えました。すると、尚徳さんは今までの作付けや売上状況を見せて、「決めたんだったらやれ」と言ったそうです。
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はぎビズに原さんが相談に訪れたとき、困っていたのは販売方法でした。パッケージはあるのですが、ブランドストーリーがなく、販路開拓などをどのようにしたらいいのか分からない状態でした。
ヒアリングを重ねていくうちにまず気づいたのが、アパレル会社がお米を作ることについての面白さです。他社が容易に真似できることではなく、強みの一つになると感じました。
また、原さん自身の従来型の農業を変えたいという熱い思いは、就農予定者や農業に携わっている人にとって応援したくなる共感性の高いものでした。もちろん、お米の美味しさ自体のストーリーも必要ですので、上田万(かみたま)地区に伝わる伝説や昔話、水質や土の状態など、原さんと一緒に調べてはセールスポイント化するディスカッションを繰り返しました。
米のブランドは「KAMITAMA RICE(カミタマ・ライス)」と名づけました。最初から一般消費者向けの直販を考えていたため、ブランドストーリーには特に時間をかけて作り上げていきました。
そうしてできたブランドの軸となる3点は以下です。
ブランドストーリーが固まった段階でメディア戦略に移ります。プレスリリースを作りブランドにあったメディアリストを作成し送付し、Instagramではブランドイメージを発信。サーフィンが趣味の原さんは、田んぼに向かう前に早朝サーフィンをしたり、田んぼまでの畦道をスケートボードで走ったりしていたことから、都会に住む若者が憧れるスタイリッシュな田舎暮らしをしている様子をSNSで配信しています。
また自ら企画した「農ワークパンツ」の試作品を着て農作業に励む姿なども配信しています。農業に関心のある層以外も呼び込むため、アパレルメーカーの米作りという強みを活かした情報発信を進め、若年層の就農イメージの向上を狙いました。さっそく、メディア掲載を見て作業着の問い合わせも寄せられています。
一般消費者への販売を見据え、営業リストでは、米農家のストーリーまで興味を持ってくれる販路先を選択し、アプローチしました。
また、地元での認知拡大のため、道の駅での販路開拓も行いました。最初から消費者を見据えたブランド展開だったので、価格設定は他社の2倍とし、その分POPなどで商品の背景を消費者に知ってもらうための努力をしました。
その結果、地元道の駅では月10万円をコンスタントに販売する実力派商品に成長し、ふるさと納税などの販路と合わせて2019年に生産した5.97トンを売り切りました。
地元とはいえ移住者の原さん。最初は様子を見ていた周りの農家さんも、農業未経験の原さんが父の土地を引継ぎ、一人で日々奮闘する姿に次第に応援されるようになっています。
今では「高齢なので自分の土地や技術を継いでもらえないか」と声をかけられることもあるそうです。自分の力で農業を変えていきたいとチャレンジを続け、高価格帯での販売に成功した若者の姿は、次世代を担う地域の希望として受け入れられ始めています。
「萩市ビジネスチャレンジサポートセンター(通称:はぎビズ)」は、萩の中小企業や起業を目指す方の「強み」や「やる気」などの長所を最大限活かし、コストをかけずに、具体的な課題解決の提案と売上アップに向けたサポートを「無料で」「何度でも」おこない、成果が出るまでサポートし続ける伴走型の相談所です。
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