目次

  1. 税制改正大綱とは
  2. DXの税控除などは「事業適応計画」が前提
  3. DX投資促進へ繰越欠損金の上限引き上げ
  4. 脱炭素の税控除などには中長期環境適応計画
  5. M&Aリスク低減には経営力向上計画
  6. 株式対価M&Aを促進
  7. 賃上げ促進税制は雇用確保に軸足
  8. 中小企業向け軽減税率などの特例を延長

 財務省によると、税制とは、国の税金の仕組みのことで、経済社会の変化に対応できるよう、予算づくりと一緒に毎年見直されています。主な流れは以下の通りです。

8月:省庁が財務省主税局に要望提出
9月:経済団体から要望
10月:与党税制調査会が要望とりまとめ
11月:与党税制調査会が小委員会、総会で議論
12月:与党税制調査会が税制改正大綱を発表
1月:閣議決定
2月:内閣が国会へ法案を提出し、国会で審議
3月:改正法が成立

 このうち、税制改正大綱とは、各省庁からあがる税制改正の要望などを受け、与党の税制調査会が中心となって翌年度以降の税制改正の方針をまとめるものです。いわば税制に関する法律改正のたたき台です。

 135ページに及ぶ税制改正大綱(PDF形式:590KB)では、2021年度税制改正に向けた基本的な考え方を示しています。とくに、重点をおいて説明している一つが、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。

 新型コロナウイルス感染症で、行政も民間もデジタル化の遅れなど様々な課題が浮き彫りになったとして「国民の利便性や生産性向上の観点から、わが国社会のDXの取組みを強力に推進する」と宣言しています。

衆院本会議での所信表明演説で菅義偉首相はデジタル庁の設立についても説明した

 DXの投資を促す税制は、企業内の部門間や他社とのやりとりでクラウドサービスを活用することを目的に、サイバーセキュリティ対策をしたうえで事業投資をすると税を優遇する仕組みです。

 税制改正大綱によると、まず改正する産業競争力強化法にもとづく事業適応計画(仮称)の認定を受ける必要があります。部門・拠点ごとではない全社レベルのDXに向けた計画である必要があります。

 その上で、改正法の施行日~2023年(令和5年)3月 31 日に、事業適応計画に従ってクラウドサービスを使うための設備投資をした場合、投資額の30%の特別償却、またはその取得価額の3%(グループ外の事業者とデータ連携をする場合は5%)の税額控除のいずれかが選べます。

 税制措置の対象となる投資額の下限は売上高比0.1%以上で、投資額上限は300億円です。認定を受けるためには、2つの要件を満たすことが求められます。

 一つが、デジタル要件です。

  1. データ連携・共有(他の法人等が有するデータ又は事業者がセンサー等を利用して新たに取得するデータと内部データとを合わせて連携すること)
  2. クラウド技術の活用
  3. 情報処理推進機構が審査する「DX認定」の取得(レガシー回避・サイバーセキュリティなどの確保)

もう一つが、企業変革要件です。

  1. 全社の意思決定に基づくものであること(取締役会等の決議文書添付など)
  2. 一定以上の生産性向上などが見込まれることなど

 ソフトウェア、クラウドシステムへの移行に係る初期費用、 ソフトウェア・繰延資産と連携して使用する器具備品、機械装置が対象です。ただし、控除税額は、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の税額控除制度による控除税額との合計で当期の法人税額の 20%を上限としています。

2021年度税制改正大綱の法人減税の仕組み(デザインは朝日新聞から引用)

 DXへ積極的な投資を促す制度が、繰越欠損金です。繰越欠損金とは、企業が過去に計上した税務上の赤字を繰り越し、黒字分から控除して法人税額を減らせる仕組みを指します。

繰越欠損金の上限引き上げの改正内容(経済産業省の税制改正資料から引用)

 繰越期間が最長10年、相殺できる上限額は、大企業や中堅企業では、これまで課税所得の50%でした。これを2020~2021年度に生じた赤字については、最長5年間に限って上限を100%まで引き上げます(中小企業は現行でも100%まで控除可能)。ただし、DXやカーボンニュートラルなど事業再構築・再編に係る投資に応じた取り組みであることが条件になります。

 政府が掲げた2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて設備投資をする場合も、税負担が軽くなります。

 まず、改正される産業競争力強化法の「中長期環境適応計画(仮称)」の認定を受ける必要があります。計画に従って導入する設備について特別償却か、税額控除のいずれかを選ぶことができます。

 計画認定制度に基づき、①大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備、②生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備の導入に対して、最大10%の税額控除または50%の特別償却を選ぶことができます。

カーボンニュートラルに向けた投資促進税制のイメージ(経済産業省の税制改正資料から引用)

 措置対象となる投資額は、500億円までですが、控除税額は、DX投資促進税制と合計で法人税額の20%までです。適用期限は、2023年度末(令和5年度末)までとなります。

 中小企業の生産性向上を支援するため、M&Aを検討する中小企業にも優遇制度が設けられます。M&Aでは、企業の株式の取得後に、隠れた簿外債務や偶発債務が明らかになるケースがあります。そこで、リスクに備えるために準備金を積み立てると、その分の損金として算入することを認められます。

 ただし、この制度を利用するには、中小企業等経営強化法の改正の施行日~2024年(令和6年)3月 31日の間に、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定が必要となる見込みです。ただし、経営資源集約化措置(仮称)が記載されたものに限ります。

 経営力向上計画に従って、ほかの企業の法人の株式を購入・保有し、取得価額の70%以下の金額を「中小企業事業再編投資損失準備金」として積み立てた場合、その事業年度に損金として算入できるようになります。ただし、取得価額が 10 億円を超える場合や事業年度の終了日より前に手放した場合は対象外となります。

 企業の競争力の維持・強化を図るため、自社株式を対価として買収対象の会社の株主から株式を取得するM&Aについて、買収対象の会社の株主の譲渡損益に対する課税を繰り延べることができるようになります。

自社株式等を対価とするM&Aの円滑化のイメージ(経済産業省の税制改正資料から引用)

 会社法改正で創設された株式交付制度を活用して、買収会社が自社の株式を買収対価としてM&Aを行う際の対象会社株主の株式譲渡益の課税を繰り延べる仕組みです。課税は、株の売却時に発生します。

 制度は、手元資金を上回る事業再編をできるようにしつつ、手元に残る資金を設備投資・人材投資に回すよう促すことを目的としています。ポイントは次の通りです。

  1. 事前認定不要
  2. 恒久的な措置
  3. 現金を対価の一部に用いることも可能(総額の20%以下まで)

 税制改正大綱で「雇用の維持・確保への懸念があるなか、特に中小企業全体で雇用を守りつつ、賃上げによる所得拡大を促すことが重要である」と説明しています。

 そこで、2020年度末に期限を迎える「賃上げ促進税制」(所得拡大促進税制)が雇用確保を目的とした制度にシフトした上で2年延長します。この制度は、M&A後の従業員の雇用を確保するねらいもあります。

 具体的には、これまでは継続して雇っている人に支払う給与の総額が1.5%以上増えた場合に増加分の15%を減税してきました。今後は賃上げがなくても、人員増などで給与総額が1.5%以上増えれば、減税の対象となります。

雇用確保による税控除の仕組み(朝日新聞から引用)

 このほかにも、新型コロナの影響などを考慮し、2020年度末で期限切れを迎える予定だった特別措置が延長されるなどしています。主な措置は以下の通りです。

  • 中小企業者に対する軽減税率の特例
  • 地域未来投資促進税制の支援対象拡大
  • 中小企業向け設備投資減税を一部見直した上で延長
  • 研究開発税制の控除上限の引き上げ
  • 所得拡大促進税制の要件簡素化
  • 中小企業防災・減災投資促進税制の対象設備の追加
  • 中小企業投資促進税制・中小企業経営強化税制の2年延長
設備投資を促す税制の延長などの解説(中小企業庁の資料から引用)

 このように、2021年度税制改正大綱は、優遇税制の新設、延長が相次いでいるため、減税総額は国と地方の合計で年540億~640億円に上ります。