パーパスからはじめるデザイン経営 社員にも浸透させるためのポイント
ロフトワークが主催し、中小企業のデザイン経営実践を支援するプログラム「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」。講師を務めるHAKUHODO DESIGN代表の永井一史さんへのインタビュー後編では、デザイン経営を組織に浸透させるための方法や、人材の定着や採用にも効果はあるのかなどについて伺いました。
ロフトワークが主催し、中小企業のデザイン経営実践を支援するプログラム「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」。講師を務めるHAKUHODO DESIGN代表の永井一史さんへのインタビュー後編では、デザイン経営を組織に浸透させるための方法や、人材の定着や採用にも効果はあるのかなどについて伺いました。
経営にデザイナーを巻き込み、プロダクトにとどまらず、組織体制、製造プロセス、価値の届け方からビジネスモデルまでをデザインする「デザイン経営」の実践を考える7カ月間のプログラム。ロフトワークが主催し、中小企業庁の「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ビジネスモデル構築型)」を受けている。
中小企業31社が参加し、地域は北海道から沖縄まで、業種も農業、食品加工、不動産、織物業、金属製品製造業、ゴルフ場運営など多岐にわたる。各社はデザイナーらによる講義をオンラインで受講し、2021年5月までにデザイン経営に基づいた事業計画書をまとめる。期間中の2021年2月には、参加企業以外も対象にした全国大会も開く。
――Dcraftには、中小企業の経営者やマネジメント層が参加しています。永井さんはデザイナーとして様々な企業のブランディングを手掛けてきた中で、デザインに対する経営者の理解は変わってきたと感じていますか。
今の経営者はデザインのリテラシーが確実に高まっています。それも「形を整えることの大切さ」といった狭い意味だけでなく、経営においても論理だけでなく感性が必要という意識が広まっていますね。これはデザインというものが、身近になってきた影響だと思います。
――永井さんはグッドデザイン賞の審査員も務めています。中小企業の受賞も増えているのでしょうか。
5、6年ほど前までは大企業のための賞といったイメージがあったと思います。しかし、今は中小企業も含め、さまざまな業種・規模の企業が上位に入賞するようになってきました。むしろ大企業のほうが少ないくらいです。デザインを重要な経営資源と考える経営者は、若い世代を中心に中小企業でも増えていると感じています。
――しかし、経営陣だけがデザイン経営の方法論を身につけても、組織全体に浸透しなければ「笛吹けども踊らず」になりかねません。経営者が意識すべきことは何でしょうか。
会社の規模にもよりますが、これからどういう存在でありたいのか、どんな価値を社会に提供していきたいのかという「パーパス(企業の社会的存在意義)」について、経営陣が社員と真剣に話し合う場を持つことが重要です。日常業務に追われる中でも、トップの意志や目指すべき方向性を共有する場が必要だと思います。
――長く続いてきた中小企業の場合、経営者よりも社歴の長い社員が、組織変革に後ろ向きなってしまうこともあります。
理想を言えば、そもそもパーパスを定めるときに、経営陣だけで考えるのではなく、社員のベテランも若手も巻き込み、一緒に議論した方がいいでしょう。中小企業はトップの意向が組織に影響を及ぼしやすいとはいえ、上が勝手に決めたという印象を持たれてしまっては、浸透に時間がかかります。社内の多様な意見を踏まえながら決めていけば、自ずと組織全体でも共有されやすいのではないでしょうか。
――やはり丁寧なコミュニケーションが一番ということでしょうか。
社員は組織の人間であると同時に、ひとりの生活者でもあります。つまり、社員一人ひとりが自社に対して抱える思いは、その先の顧客や社会が求めている価値を考えるうえでヒントになるはずです。「みんなで決める」ことは、理念が腹落ちしやくなるだけでなく、企業が進むべき道を俯瞰的に決めていくうえでも有効な手段でしょう。
――中小企業は人材の確保も大きな課題になっています。デザイン経営が貢献できることはあるのでしょうか。
2020年、日本デザイン振興会が、三菱総合研究所と共同で初めて全国規模で行った「企業経営へのデザイン活用度調査」の結果を発表しました。それによると、経営にデザインを導入する企業ほど、高い売上成長を実現し、「従業員からも愛される」という傾向が見られました。
デザインへの投資でブランド力が向上し、事業の目指す方向性が明確になったことが大きいと考えられます。そして、従業員から愛されることは、組織外への口コミにもつながり、採用にも良い影響を与えます。
つまり、「働く意義や目的」が明らかになっていれば、人は働きがいを感じやすく、求職者にとっても、その企業が自分にマッチしているか判断しやすいということです。これは人材確保に苦労している地方の中小企業にとって、大きなメリットといえるでしょう。
――経営者には、組織が進むべき指針を示すことが求められるということでしょうか。
特に今は、コロナ禍で従来の働き方や会社のあり方が問い直され、一人ひとりの社員も「自分たちは何のために働いているのか」と自問自答していることでしょう。そんな時こそ、「我々はこういう価値を世の中に提供していく」と明らかにすることは、中小企業にとって非常に重要だと思います。
――採用に関しては、中小企業はオフィスのデザインをかっこよくするだけでも、若い人からの応募が増えると聞いたことがあります。
しかし、ただ見栄えを良くすればいいわけではなく、会社らしさや哲学がにじみ出ていることが大切です。会社が大事にしている価値観を、オフィスのデザインなどの接点で表し、その感性に近いと思った人が集まるという順序が正当です。表層的な装飾で中身が伴っていなければ、かえって人は離れていくでしょう。
――デザイン経営とは単に外見を整えるわけではなく、その背景にある経営の理念までデザインしなければ意味がないという話に通じますね。
デザイン経営という概念は非常に広いので、どこから手を付けていいのか分からないという経営者もいると思います。しかし、大企業も中小企業も、まずパーパスが出発点になると話したように、あまり難しく考えすぎず、「自分たちは何を目指しているのか」「どんな存在でありたいのか」を社内で議論することから始めてみてください。
あるいは、組織外にデザイナーやデザイン会社の経営アドバイザーを持つと、取り組みやすいでしょう。ただ、これはデザイン業界側の課題ですが、経営者とデザイナーをマッチングさせる仕組みが足りていません。特に地方の企業は、経営の話ができるデザイナーをどうやって探せばいいのかという悩みを抱えていると思います。
その意味で、全国の中小企業経営者がデザイナーと接点を持てる「Dcraft」のような枠組みは有意義ですし、こうしたマッチングを広げることが、デザイン経営の普及に不可欠だと思っています。
※ツギノジダイは「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」を、メディアパートナーとしてサポートします。期間中、Dcraft参加企業のデザイン経営実践例など、様々なコンテンツをお届けする予定です。
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