商品開発に取りかかる前に…顧客視点や参入市場など5つをチェック
家業を事業承継して新たにBtoC、DtoC事業を始めたいと考える後継者は少なくありません。しかし、商品開発に取りかかる前に必要なことは、自社の商品開発が本当に有効かの確認です。マーケティングの観点から5つのポイントを紹介します。その上で、デザイン開発を進めましょう。パッケージデザイン開発とマーケティングリサーチを手がける「プラグ」の小川亮社長が缶メーカーの事例をもとに解説します。
家業を事業承継して新たにBtoC、DtoC事業を始めたいと考える後継者は少なくありません。しかし、商品開発に取りかかる前に必要なことは、自社の商品開発が本当に有効かの確認です。マーケティングの観点から5つのポイントを紹介します。その上で、デザイン開発を進めましょう。パッケージデザイン開発とマーケティングリサーチを手がける「プラグ」の小川亮社長が缶メーカーの事例をもとに解説します。
ツギノジダイで、自社の商品開発・パッケージデザイン開発で課題を解決したい企業を募集したところ、手を挙げたのが、創業114年の「側島製罐」の後継ぎ石川貴也さんでした。石川さんからの相談は次のような内容でした。
缶の製造業は原料を調達して、缶の形に加工し、お菓子メーカーやカーワックスなどを作っているお客様に納品します。実は製缶業者はどこもほとんど同じ生産設備を使っているため、差別化が難しいのです。
加えて国内のマーケットは減少しており、中国缶メーカーなどは破格の安さで提供してきます。国内の多品種少量ロットに対応した受注を中心に受けていますが、売上は右肩下がりで、今は10年前の約半分です。このままでは厳しいため、自分たちで商品を作って売りたいと考えています。
1つは缶に入れたクッキーです。パティシエのクッキーのほとんどはOEM生産で、その価格にはブランド料が含まれています。私たちはパティシエブランドの品質を実現しながら安い価格で提供したいと考えています。販売は自社のWebサイトを予定しています。
もう1つはUV除菌ライトを缶の内側に設置して、マスクの除菌を行う商品を考えています。自社商品を作ったことがないため、デザインをどのように進めるべきか悩んでいます。
はじめてのBtoC、DtoCへの挑戦ということで、デザインをどのように作ればいいでしょうかという相談です。ですが、デザイン開発を進める前に「下請けから脱却を目指して自社商品を作りたい」という会社の方には、マーケティング上のポイントを考えていただきたいのです。
下請けから脱却しようとする新商品は上手くいかないことも少なくありません。商品は完成しますが、利益が出るほど数が売れないのです。まずは、なぜそうなるのか。構造を考えてみます。
そのポイントを自問自答した上で、自社商品の開発が本当に有効かを見極めて前に進んでください。
自社の売上が厳しいということは、顧客の売上も厳しいのが通例です。例えば、クッキー缶の売上が落ちているということは、すなわち缶入りクッキーの売上も落ちている場合が多いのです。
少子化、ギフト需要の低迷、コロナによるお土産需要の減少などにより、缶入りクッキーは相当厳しい市場になっていることが予想されます。「となりの芝生は青く見える」といいますが、自社の業界が厳しい場合、顧客も厳しい状況にあり、その市場に入ってもなかなか結果を出すことは難しいのです。
ですので、あえて違う市場を見てみるという選択肢を検討することをおすすめします。
スノーピークはもともと金物問屋でしたが、キャンプ用品市場に進出して成功しました。
バルミューダも元々はPC周辺機器メーカーでしたが、パソコンを作るのではなく扇風機を作るという市場に挑戦をして成功しています。
売れる商品の秘訣を単純にいうと「いいものを安く売る」ということです。商売の基本なので「なんだ」と思われるかもしれませんが、はじめてBtoCに挑戦する企業は安く売ろうとしても、生産量が少ないため、安く作ることができません。
作る量が多ければ安く売れますが、最初は少ししか作れないので単価が高くなります。先行投資で安く売って市場を作った後に儲けるという方法もありますが、それは資金が潤沢にある大企業の方法です。新商品の場合、お客様が納得するような高い理由がない限り、高価格の商品は売れません。納得する理由がないと、ただの高いだけの商品になってしまいます。
ブランドとは品質保証です。お客様との絆です。品質を保証してくれるので、ブランドが販売価格に占める割合はとても大きいです。例えば、有名パティシエのクッキーの価格の半分以上はブランド価値でしょう。
各企業は継続的にブランドへの投資を行い、質の高い商品を提供し続けた結果、強いブランドを育てていきます。しかし、これまで下請けをしていた企業の多くには消費者に認知されているブランドがありません。ブランドもない、価格も高いという状況の中で、魅力的な商品をつくらなければならないという厳しい環境にいるのです。
マーケティングの基本メッセージは顧客満足です。顧客に満足してもらうことを目標にして企業活動を進めていきます。商品開発も顧客が買ってくれるのか、顧客が満足してくれるのかを常に自問自答しながら進めていく必要があります。
そうすることで、売れないリスクを軽減していくことができるからです。しかし、最初は顧客のことを考えていても、開発が進むにつれて、価格や原材料、生産方法など課題が増えてくると、どうしても顧客ではなく自社の都合で物事を考えてしまいがちです。常に顧客の視点を忘れないことを大切にしましょう。
数を売ろうと思うと、あなたの会社の商品を売ってくれる人や会社がどれくらいいるかがとても大切になります。商業統計によれば日本の小売業は142万店あります。すべてのお店においてもらい、1日1つ売れるだけで1日の売上個数が142万個になるのです。
ちょうど大手ビール会社の中堅ビールブランドの売上本数がそれくらいです。そう考えるとビール会社の流通力の凄さがわかります。実は商品が売れるかどうかは、どれくらいのお店で販売してもらえるかに最も大きく影響をうけます。
これはネット上でも同じことで、自社のWebサイトだけでは、「訪問してくれる人」×「購入率」=「売れる数」なので、期待する数を売ることは難しいと思います。どうやって売り場を確保していくのかを新商品のアイデアと並行して計画することが大切です。
5つのポイントをもう一度確認いただき、「いける!」と思ったら、いざ、デザイン開発のスタートです。デザインを依頼する際にしっかりとまとめておきたいことをご紹介します。
デザインを作る上で大切なのは、デザイナーに依頼するときの「どのような商品特徴があるのか、パッケージでどんなことを伝えたいのか」といった情報をまとめたオリエンシートです。デザイナーへ情報がしっかり伝わることが、いいデザインを作るうえで最も大事なプロセスです。
私の著書「売れるパッケージデザイン 150の鉄則」(日経BP)では、デザイナーにオリエンで伝えたい14の項目をあげています。今回はその中でも特に大切な3つをご説明します。
デザイン開発を進めるには、この3つをしっかりまとめてください。ここがしっかりとまとまらないままデザインを進めると、後でやり直すことになり、余計な時間とお金がかかることになります。
コンセプトとは「ユニークに満たすニーズ」と言われています。言い換えると「その商品だけが提供できる課題の解決方法」といったところでしょうか。
顧客にはニーズがあります。このニーズを満たすのが、商品の価値です。しかしながら、もし、他に同じようにニーズを満たす商品があったら、よほど安くない限りあなたの商品には存在価値がありません。
唯一無二の存在である必要があるのです。
このことが「ユニーク」という言葉で表現されています。通常、コンセプトは100文字~200文字程度の文章で表現されることが多いです。お客様があなたの商品を買ってくれるのはなぜでしょうか?その問いに対する答えがコンセプトなのです。
実際にその商品を買ってくれる人はどんな人でしょうか。性別、年代、生活スタイル、バックグラウンド、購入の目的、購入のタイミング、使用シーンなど、できるだけ細かく設定してみてください。ターゲットを細かく設定できれば、どのようなデザインが必要なのかもイメージしやすくなります。
パッケージデザインではロゴや商品名がしっかりと個性を表現できるように作りこんでいきます。したがって、デザインを依頼する前にしっかりと商品名を決めておきましょう。
商品名はコンセプトやターゲットがしっかりと出来上がっていないと作ることができません。なぜその名前である必要があるのか。自問自答しながら商品名をしっかりと完成させてください。
記事の前半では少し厳しい内容から始まりましたが、お伝えしたいのは、そういった厳しい環境を1つ1つ乗り越えて、素晴らしい商品をつくっていただきたいということです。
多くの成長企業に共通しているのは、自社にしかできない新しい商品の開発・発売が成長のきっかけになっている点です。そのためには、オリジナル商品を作って販売することの難しさを理解し、その上でそれを乗り越える魅力的な商品を生み出すために大切な視点をしっかりと練りあげることです。
ミーティングの後、石川さんからメールをいただきました。
「元々は『社会のため、人のためになる商品を作りたい』と思って商品企画をはじめたはずが、今日自分が話をしていて「自社の利益が~」「歴史が~」と出発点が自社になっている事に気づかされました。今気付けて本当に良かったと感謝しております。」
次回「商品のデザイン制作依頼に必要なオリエンシート なぜむずかしいのか」は石川さんに作成いただいたデザインのオリエンシートを元に、デザインを誰にいくらぐらいでお願いすればいいのかをお伝えします。
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ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。