パッケージデザインの作り方 ヒット商品のマネではない「本質」とは
下請けから脱却し、ECを通じて消費者に直接販売したい――。そんなときに欠かせないのがパッケージデザインです。消費者に商品の良さを伝えるパッケージデザインは「物言わぬセールスマン」とも言われます。流行デザインの表層的なマネにならず、本質的な価値を伝えるためのポイントを解説します。
下請けから脱却し、ECを通じて消費者に直接販売したい――。そんなときに欠かせないのがパッケージデザインです。消費者に商品の良さを伝えるパッケージデザインは「物言わぬセールスマン」とも言われます。流行デザインの表層的なマネにならず、本質的な価値を伝えるためのポイントを解説します。
「デザインとは本質を見抜いて可視化すること」
NHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも紹介された高知のデザイナー梅原真さんはこの言葉をよく引用されます。1つの商品には、物語や伝えるべきことがたくさんあります。
デザインとは、商品が持っているたくさんの情報のなかで、もっとも本質的な価値を見抜き、そして、それを目に見える形にして多くの人に伝えることです。
あなたの商品の本質的な価値とは何でしょうか。「その商品を買おうか」と考える顧客にとって価値のあるポイントはどこにあるでしょうか。
あなたがこだわっている点と買い手にとっての価値が必ずしも一緒とは限りません。実はここが重要です。むしろ、私の経験上では、だいたいずれています。顧客にとって、あなたの商品の何が一番の価値であるのか。それを突き詰めてたどり着く答えが“本質”なのです。
パッケージデザインとはその本質を多くの人に見える形にしていくという行為なのです。あなたが知らないあなたの商品の価値をしっかり見つけていきましょう。
具体的な例をご紹介します。梅原真さんは高知を中心に活躍するデザイナーで、土地柄、卵や魚、野菜など一次産業のパッケージデザインに多く関わってきました。
その一つとして「かつおのたたきのデザイン」の依頼を受けました。魚価、消費が下がるなか、「カツオの1本釣りの漁が続けられなくなるかもしれない。このままでは船がつぶれてしまう。デザインの力で何とかしてほしい」と漁師から相談を受けるところから始まりました。
梅原さんは丁寧に漁師さんとの会話を続け、漁が10ヵ月にも及ぶこと、機械式でなく一本釣りだからこそのおいしさを知ります。漁師が自分の手で釣って、それを漁師自らが焼く。この一連の流れこそがこの商品の本質だと見抜きました。
この物語には、この商品に込められた愛情、手のかかった捕り方、作り方、品質へのこだわり、鮮度といったすべてが凝縮されています。漁師さんからすれば、当たり前の工程だったのかもしれません。そこにデザイナーの視点が入ることで買う人にとっての本質的な価値を発見することができたのです。
梅原さんはこの本質的な価値を短い言葉で表現しました。
「漁師が釣って 漁師が焼いた」
梅原さんがデザインした「土佐一本釣り・藁焼きたたき」は、8年かけて、年商20億円まで成長しました。
2代目、3代目社長の多くは“デザイン”が好きです。そして、新しいデザインに挑戦して社風を変えようとするケースがよく見られます。
それは、とても素晴らしいことです。先代よりもターゲットに近い人たちが今の時代、センスに合わせて新しいデザインに挑戦していく。それによって会社の見られ方を変えていく。
ただ、1つお伝えしたいのは、流行りのデザインやデザイナーに飛びついて表層的な表現の変更に終わってほしくないということです。残念ながら2代目、3代目社長のこの失敗パターンはよく見てきました。流行りのデザインやセンスのいいデザインだけならどこにでもあります。どこにでもあるということはお客さんにとって買う理由がないということです。
ヒットしているデザインの表層だけをまねても成功しません。その根底にはそれぞれのヒット商品が持つ本質的な価値があり、それを表現して成功したものが流行りのデザインとして目に映るだけなのです。
大切なことは先代が作り上げ、自社や商品の歴史の中に潜んでいる「顧客にとっての本当の価値」を探り当てられるか。これがデザインする上でとても大事なのです。
あなたの商品にしかないお客様にとっての魅力、伝えるべきメッセージは何か。ここにたどり着いて初めて素晴らしいパッケージデザインができるのです。活躍している力あるデザイナーはこれを行うのがとても得意です。「要はここですよ」と本質的な価値を見つけ出し、可視化してくれます。
良いパッケージデザインとは、結局顧客が手に取ってくれる力を発揮するかどうかなのです。
そのために自分の商品の本質的価値が何かを徹底的に悩み、答えにたどり着くこと。それは真摯に自社の歴史や、先代の価値に向き合うことが必要です。それがパッケージデザインを作るうえで、最初に必要で、そして最も重要なことだと言えます。自社が長年作り上げてきたもののなかに、商品の本質的な価値、あるいはヒントがあるはずです。
もちろんパッケージづくりには様々な視点があり、『売れるパッケージデザイン150の鉄則』(2020年、日経BP)で紹介しています。そのなかで最も大切になる原点が、伝えたい自社商品の価値の発見です。
その本質を見極めることが、売れるパッケージデザイン開発の第一歩です。ぜひたくさん悩んで、見つけてください。
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