「Amazonに載せれば売れる」から始まった課題

 斎藤塗料(本社・大阪市)は工業用の塗料の開発・製造で90年以上の歴史があります。とくに、金属に対して高防錆力、高密着力を発揮する変性エポキシ樹脂をつかった「サイクロンプライマー」(下塗り用接着剤)が看板商品です。パソコン、カメラ、バイクなど大手メーカーの製品に使われています。

 この商品を「スプレー状にしてほしい」という顧客の要望から生まれたのが、新商品「サイクロンスプレー」です。変性エポキシ樹脂のスプレー化が技術的難易度が高く、独自性を出しやすい商品でした。

 販売を始めたのが、2019年7月。インターネットを通じてtoC向けに販売する計画でした。そのため、BtoB向けの塗料販売が主だった営業部門からすると、当初関心が低くなっていました。

 「Amazonに載せれば売れるだろうし、ブログを書けばファンとつながれる」と見込んでいましたが、ふたを開けてみると何カ月も売り上げがゼロ。そんな状態に、危機感を持ったのが5代目社長に就任予定の菅彰浩さんでした。
 「在庫の山を目のあたりにし、頭をかかえ、これをいかん!と思いTwitterで販売促進を始めました」

Twitterに2つの運用目的

 菅さんは、Twitterの運用目的を、サイクロンスプレーの拡販、会社とエンドユーザーとのつながりを持つツールにすることに決め、2019年12月末から投稿を始めました。とはいえ、開設したばかりの中小企業のアカウントがいきなり影響力を持つことは難しいため、いくつかの作戦を立てました。

作戦1.流行のミニ四駆

 2020年1月に投稿したのが「ミニ四駆」でした。このツイートは151件の「いいね」を獲得しました。

菅さんは投稿のねらいについて次のように説明します。

ミニ四駆は当時、公式企業アカウント内で、プチブームでした。ミニ四駆×塗料というのはとても相性が良く、塗料のプロがミニ四駆を塗装するというのは、それなりに注目が得られるという勝算がありました。 また、ミニ四駆で遊んでいるコア層のペルソナとして40代で車やバイク、釣りなど…趣味をしている人も多いと思っており、サイクロンスプレーのターゲットユーザーと相性も良いと感じての取り組みでした。

作戦2.コラボキャンペーン

 もう一つが、アニメキャラの4人のアイドルにより、エンターテイメント性の高い塗料販売店を目指している「塗料屋@サンライズ®︎【公式】」とのコラボキャンペーンでした。

 元々塗装に関心の高い2万フォロワーを持つ「塗料屋@サンライズ」のアカウントでプレゼントキャンペーンを始めました。リツイートだけでなく、使い道などを尋ねました。
 すると、1回のキャンペーンあたり、約100~200人からサイクロンスプレーについて、どんな人がどんなときに使いたいのかというデータを蓄積することができました。

SNSでの取り組みが売り上げに影響

 こうした取り組みをするなかで、Amazonの商品ページのレビュー数が増えていきます。2020年5月には評価が高い商品に付与される「Amazon’s choice」に選ばれ、塗装用プライマー部門で売れ筋ランクインすることにつながりました。
 菅さんは「たとえば、サンライズ@塗装屋のTwitterから購入してくれたり、レビューを投稿してくれたりした結果だと思います」と話します。

仮説を持ってWEB広告を出稿

 Amazon上でレビューやリピーターも少しずつ増え、売れ筋ランキングに入るようになったことで、菅さんは「ターゲットに商品ページを見てもらえれば、見てもらうほど購入され、リピーターも獲得できる」という仮説を立てます。
 その仮説に沿って、「どんな人に広告を表示するか」を手動でターゲティングし、Amazon上でのWEB広告の出稿を始めました。
 こうした取り組みの結果、6月から7月にかけて売り上げは3倍に伸びました。

斎藤塗料が開発した新商品「サイクロンスプレー」の2020年の月ごとの販売の推移

Youtuberの紹介で部門売れ筋1位に

 Amazon上で評価が高まると、さらに注目が集まります。サイクロンスプレーが立て続けに複数のYoutuberに商品が紹介されました。チャンネル登録者数 12.4万人の「車の板金塗装レストアGT Painting Restore GT」の動画内で紹介されると、動画は6万回以上再生されました。

サイクロンスプレーのブログでは、このことを興奮気味につづっています。

中の人とすれば・・・あのレストアGT様に紹介いただけた!!!ということで大変感動しております。 そして、もちろんプロの腕前。下準備から上塗りのキャンディ塗装まで。どれも見ていて参考になるお話ばかりでした!! ブレーキキャリパーのレストアということで、かなりプロ向けではありますが、サイクロンスプレーの金属用プライマーの特性もよく理解してご利用いただき、また最終焼付塗装まで実施いただけたのは弊社としてもより、密着力や防錆力が発揮されよかったのではないかと思っております!

 こうした結果、8月には、Amazonのプライマー部門で1位となります。

販売店売り上げも大幅な伸び

 TwitterとAmazonを通じて伸びた売り上げは、販売店を通じた売り上げにも貢献し始めました。サンライズが作ったサイクロンスプレーのチラシを、取引のある販売店の請求書に同封して配りました。Amazonでの部門1位となったことで、営業部門も本腰を入れて動き出すことになりました。
 その結果、9月の販売店への売り上げは、それまで最も多かった7月の約4倍にまで増えました。

中小企業はSNSを活用すべきか

 限られたリソースのなかで、中小企業はSNSを使うべきでしょうか。そんな問いに、菅さんは次のように答えました。

SNSはやるべきだと思います。弊社の場合、販売店営業が主のため、今まではエンドユーザー様の声を拾いにくかったのですが、今では直で声を聞くことができようになりました。

直で声を聞けるようになったと言う事は、弊社やサイクロンスプレーのファンになってくれた人が大半なので、会社や商品に共感いただいたファンも同時に増やせるという点でもメリットは大きいです。

また、塗料との相性、商品のターゲット層から判断するとInstagramやYouTubeが効果的だとは思いますが、数あるSNSでTwitterを選択した理由は、私が前職でTwitterの運用経験があり、通常業務や私生活を逼迫せずに運用できる事が見えていたからです。

中小企業の場合、経営者が兼務でSNSを運用することもあると思うので、通常業務や私生活を逼迫せずに、定期的、できれば毎日の頻度で更新出来るかどうかも重要な判断軸になると思います。

最後に、更新するにしても宣伝ツールとして捉えると、よほど魅力的商品でない限り、フォロワー様(ファン)の増加は見込めないと思います。やはり、コミュニティツールとして、コミュニティ運用に徹して、ターゲット層を探し出し、どうやってファン層へ醸成させるか、これは手法は違えどオフラインでもオンラインでも考え方は同じかなと思います。

SNSマーケティングとは

 Twitter、Facebook、Instagram、LINEといったSNSの普及率が年々高まり、若者を中心に商品やサービスを購入する前に、Googleなどの検索サイトではなくSNSで検索して決める人が増えています。

 SNSマーケティングとは、これまで「SNSを活用して商品の認知や販売を促進し、ブランド力の向上を行うこと」を指してきました。しかし、SNS上で購入に直接結びつけるサービスが生まれているため、今後は売り上げ向上に直接結びつくツールになりつつあることを意識する必要があります。

総務省の「通信利用動向調査」から引用