奈良筆の老舗あかしや 13代目が着目したのは書道セットの「かばん」
寺や神社が多い奈良では、毎日の写経や筆記のために筆が必要だった。そこで発展したのが奈良筆だ。「あかしや」(奈良市)は300年にわたって、主に書家向けの高級な奈良筆を世に出してきた。そして13代目の社長が家電メーカーでの勤務経験を生かし、事業の幅を広げた。(篠原大輔)
寺や神社が多い奈良では、毎日の写経や筆記のために筆が必要だった。そこで発展したのが奈良筆だ。「あかしや」(奈良市)は300年にわたって、主に書家向けの高級な奈良筆を世に出してきた。そして13代目の社長が家電メーカーでの勤務経験を生かし、事業の幅を広げた。(篠原大輔)
あかしやのショールームを訪れると、2人の伝統工芸士が並んで作業をしていた。
「手作りだから筆に癖が出る。『あの人の筆しか使わん』と言ってもらえたらうれしいね」。この道40年の松谷文夫さん(71)が、職人の喜びを教えてくれた。馬、ヤギなど十数種類の動物の原毛から、筆の種類に応じて毛の配分と寸法を決めて作る。あかしやはこうして主に高級筆を供給するメーカーだった。
初心者向けの製品や水彩画用のカラー筆ペン、化粧筆へとフィールドを広げたのが、水谷豊社長だ。「いつか(家業を)やらなあかんと分かってても、若いころは筆なんて辛気くさい仕事はしたくなかった」。大学を出て電機大手のシャープに入社した。
営業職で飛び回っていたころ、スーパーでショックを受けた。「オヤジは『あかしやはいろんなとこで売ってる』って言うてたのに、広島の熊野筆がドーンとあって、ウチのはちょっとだけ。『このままやったら衰退するから、ひっくり返さなあかんな』と、火がつきました」
26歳であかしやに入社。ちょうどホームセンターの出店ラッシュの時期だった。シャープで身につけた提案型のスタイルで営業をかけ、あかしやの筆を置いてもらった。中国へも進出。日本から派遣した職人が現地で分業制の筆づくりを教え込み、工場での量産に成功した。
2003年に13代目の社長に就任すると、小中学生の書道セットに目をつけた。それも、中身でなくバッグ。無地のものしかなかったが、汚れが目立たないデニム生地の利用を考えつき、商品化すると大ヒット。「筆がどうこうよりも、カバンにファッション性があるかどうか。お母さんとか子どもは、そこです」
まさに目のつけどころがシャープだった。一時は2割のシェアを誇り、多くの企業が参入してきた現在も1割を死守している。
「最後の筆がなくなるまで、私は商売を続けます。野心がなくなったら終わりですわ」。江戸時代からの伝統と社長のアイデア。そのかけ算で、あかしやはまた新たな一歩を踏み出しそうだ。(2020年11月14日付け朝日新聞地域面掲載)
1716年創業。従業員は50人で、書道用筆、墨、書道用具、画筆、水墨画用筆、筆ペン、化粧筆を取り扱っている。奈良市南新町のショールームでは2人の伝統工芸士による奈良筆の工程実演が見られる。奈良市の友好都市の中国・揚州市に工場がある。
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