リスキリングとは DX時代の人材育成になぜ必要? OJTとの違いも
あらゆる産業でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むなか、社員たちにDXに対応できる新たなスキルを身につけてもらう必要があります。これまでの日本企業ではOJT(職場内訓練)を活用してきましたが、DX時代に注目されているのが「リスキリング」です。リクルートワークス研究所の石原直子人事研究センター長に聞きました。
あらゆる産業でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むなか、社員たちにDXに対応できる新たなスキルを身につけてもらう必要があります。これまでの日本企業ではOJT(職場内訓練)を活用してきましたが、DX時代に注目されているのが「リスキリング」です。リクルートワークス研究所の石原直子人事研究センター長に聞きました。
リスキリングとは、新しい職業に就くため、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、主には企業が従業員に必要なスキルを獲得させることです。最近では、デジタル化によって新たに生まれる職業や、仕事の進め方が大幅に変わる職業に就くためのスキル習得を指すことが多くなっています。
テクノロジーの進化でさまざまな業務プロセスが自動化し、これまでになかった価値を生み出すことが求められるなか、その過程で起こると予想される失業に対し、リスキリングは解決策の一つとして注目されています。
世界経済フォーラムの年次総会(いわゆるダボス会議)では2020年1月、「リスキリング革命」と題し、今後10年で10億人に対し、リスキリングに向けたより良い教育、スキル、仕事を提供することを発表しました。
リスキリングが必要とされる背景には、生産性の向上にも欠かせないDX(デジタルトランスフォーメーション)があります。
DXとは、デジタル技術を活用して企業内の価値創造プロセスすべてを根本的に変化させ得る変革です。しかし、具体的な取り組みを見ていくと、それぞれの企業が取り組んでいる活動内容には幅があります。情報処理推進機構(IPA)が企業向けに尋ねているDXの内容には次のようなものがありました。
幅があっても、企業の規模や業種に関係なく、DXは欠かせません。新しいデジタル技術を持った企業が参入してきて業界地図を塗り替えるという事態は、すでに自動車産業や小売業で起こっており、今後さらに広がっていくと予想されているからです。
経営者がDXに乗り出すことを決めたとき、これまで働いてきた社員たちは、新しいデジタル化の動きに対応できるでしょうか。
海外なら、不要となるスキルや能力しか持たない人材を外部に放出し、必要とされるスキルや能力を持つ人材を外部から新たに採用する企業もあるかもしれませんが、日本の企業は、これまでの雇用慣行を考えても、積極的に大胆なリストラを打つとは考えにくいのが現状です。
そこで、必要になるのが「リスキリング」です。DXを進めるためにも、社内の人材が、デジタルに対応して業務を進めたり、新たな製品を作ったり売ったりできるように、デジタルの知識や技術を身につける必要があるのです。
社内のすべての人材に対しデジタル時代の価値創造のための手段・スキルを獲得してもらうリスキリングは、DXと両輪で進めていくべきものなのです。
リスキリングと、日本企業が得意としてきた「OJT (On-the-Job Training)」はどう違うのでしょうか。
OJTは、社内の「いまある」部署の「いまある」仕事を通じて、やり方を覚え、スキルを獲得してもらう教育です。
これに対し、リスキリングは社内 に「いまない」仕事、「いま、できる人がいない」仕事のための新たなスキルを獲得することです。リスキリングを始めるにあたり、経営者に求められることは、これからのデジタル変革にあたって自社で必要となるスキルを洗い出し、いま社員が持っているスキルとのギャップを一気に埋めるプログラムを用意することです。さらに、その投資をする覚悟も必要です。
とはいえ、日本でリスキリングを始めようとしても、何をどこから学べば良いかという壁にぶつかります。デジタルスキルを「仕事で使えるレベル」に高められるコンテンツはどこにあるのでしょうか。また、eラーニングや座学が現場で使えるスキルにつながるのかも不明瞭です。
社内に最新のデジタル技術に関する知見が蓄積されているIT企業などでない限り、すべてを自前で準備する必要はありません。デジタルのスキルは、社内外を問わず共通する部分が多いため、外部にあるコンテンツや、プラットフォーマーを活用する方がコストを削減できる場合があります。
たとえば、国内で活用できるものとしては、経産大臣が認定する「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」があります。IT・データ活用などこれから雇用創出に貢献する分野について、高度な専門性を身に付けてキャリアアップを図ることができる講座のことです。
アメリカでリスキリングの先駆者として知られるのが、通信事業者であり、ワーナーメディアを傘下に抱える巨大メディア・コングロマリット「AT&T」です。
石原さんが調べたところ、次のようなことがわかりました。
2008年に実施した調査で「25万人の従業員のうち、未来の事業に必要なスキルを持つ人は半数に過ぎず、約10万人は10年後には存在しないであろうハードウェア関連の仕事のスキルしか持っていない」ということを把握しました。
まず2020年までにどのようなスキルが必要なのかを特定し、従業員向けにリスキリングのプログラムを2013年に開始しました。さらに、従業員のキャリア開発支援ツールも開発しました。このツールは、従業員が自ら社内の就業機会を検索し、その部門の今後の見通しや賃金の範囲などの情報を入手し、そのポストに就くために自分に必要なスキルを知ることができるものです。
従業員は会社命令で強制されて勉強するのではなく、自律的にキャリアを描き、リスキリングに踏み出せたといいます。
その結果、社内で必要な技術職の81%が異動で充足できました。リスキリングに参加した従業員は、参加していない従業員よりも、1.1倍高い評価を受け、1.3倍多く表彰を受賞し、1.7倍昇進しており、離職率は1.6倍低くなっていました。
アメリカでは、Amazonやウォルマートをはじめ、様々な企業がリスキリングの取り組みを始めており、今後さらに広がっていきそうです。
リスキリングとは何か、なぜ、いま、リスキリングが日本企業に必要なのか。これを伝えるために、石原さんたちは「DX時代のリスキリング」と題した提言書をまとめています。
リクルートワークス研究所人事研究センター長
銀行、コンサルティング会社を経て2001年よりリクルートワークス研究所に参画。以来、人材マネジメント領域の研究に従事。2015年から5年間、機関誌Worksの編集長を務めた。2017年4月から現職。タレントマネジメント、リーダーシップ開発、女性リーダー育成、働き方改革等を専門とする。主な著作に『女性が活躍する会社』(大久保幸夫との共著、日経ビジネス文庫)がある。
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