目次

  1. 人事評価制度とは
  2. 人事評価制度の課題
  3. 斎藤塗料の導入事例
    1. 人事評価制度、導入の流れ
    2. 人事評価制度の導入課題
    3. 評価者研修
    4. 人事評価制度を通じた社内の変化
    5. 人事評価制度で目指すところ
  4. 編集部注目の人事評価制度の事例
  5. 人事評価制度のメリット・デメリット
  6. 人事評価制度の導入手順
  7. 人事評価を進める上で役立つキーワード
    1. 360度評価
    2. MBOとOKR
    3. リモートマネジメント

 人事評価制度とは、能力・実績にもとづいた勤務成績を今後の仕事内容や給与に反映を決めるための制度です。さらに、企業が期待するイメージを示すことで成長を促すという人材育成の側面もあります。

 人事評価の手法は、見る対象や評価する人によっていくつかの種類があります。社労士の緒方瑛利さんがまとめた表を紹介します。

評価制度 評価対象 評価する人
目標管理制度・業績評価 業務成果 自己・上司
コンピテンシー評価・行動評価 業務過程 上司
360度評価 結果・業務過程 上司・同期・部下
面談 個人の特性 上司

 表中の「面談」は、個人の特性(社員が育児・介護中であったり業務と関係ないスキルの習得であったり)を見るもので、ほかの評価制度に伴う面談とは別のものです。

 エン・ジャパンが人事向け総合情報サイト「人事のミカタ」で実施した中小企業280社に聞いたアンケートで、社員への賞与についての悩みを聞いたところ、「社員への評価・賞与の査定基準への悩み」が最多でした。

エン・ジャパンが人事向け総合情報サイト「人事のミカタ」で実施した中小企業280社に聞いたアンケート結果「社員への賞与支給に関して、悩みや課題をお教えください。(複数回答可、2021年夏季賞与に関する調査と2020年冬季賞与に関する調査の比較)」

 具体的には、次のような内容でした。

役員が通常の事業業務を兼務しており、実務の繁忙により人事システム改善の検討まで手が回らず、慣例通りの賞与額継続による社員のモチベーション低下を懸念している。(サービス関連/10~29人)

考課者により評価のバラツキがあることが悩み。(メーカー/50~99人)

個人の査定がなく拠点ごとの査定な為、結果を出している人とそうでない人で差が出ないので、社員のモチベーションが上がらない。(商社/100~299人)

夏のボーナス、中小企業の悩みは「社員への評価・賞与の査定基準」

 それでは、人事評価制度はどのように導入すれば良いのでしょうか。

 工業用の塗料の開発・製造で90年以上の歴史を持つ「斎藤塗料」(大阪市淀川区)は、これまで、会社のビジョンや目指す方向、どういった人材を求めているかを明確にしておらず、役職者も従業員の管理や育成などの役割を十分に果たせていないと感じていました。

 そこで、2021年4月から人事評価制度を本格導入しました。その後、どうなったのか。5代目後継ぎの菅彰浩さんに聞きました。

 まず取り組んだことは、部課長、若手リーダーを中心に評価面談を実施したことです。半期の目標のすり合わせが主な内容ですが、そのなかで、短期、中期目線で会社の進むべき方向や、それぞれ役職で求める能力を説明しました。

 そのうえで、各自に目標をつくってもらいました。その後、1on1で面談をしてすり合わせをしました。

 若手は実務から自分がやるべき内容を考えられていると感じた一方、年配の管理職には経営目線の計画をブレイクダウンして施策に落とし込み、部下たちの行動計画を立てることを求めていたため、戸惑いが見られました。

 これは、今まで育成計画なしに、実務のみを任せてきてしまっていた会社の責任だと感じています。実務では、それぞれ非常に詳しいので、これからは一緒に改善計画をつくり、どうやって行動していくべきか考えていければと思っています。

 人事評価制度を導入するためには、面談スキル、目標設定の方法や評価視点なども学ぶ必要があります。

人事評価制度を導入するために斎藤塗料が実施した評価者研修

 社内で人を集めて実施する研修は、数年ぶりの試みでした。まず、皆さん前向きに研修に取り組んでくれたことがうれしく、また安心しました。

 習熟度は差があるのかもしれませんが、前向きに取り組んでくれている以上、育成のフォローを行っていき評価者として自律してもらえるようにしていければと思います。

 人事評価制度や研修を通じて少しずつ変化も感じてます。たとえば、会社の方針をもとにして、目標に決めた通りに営業が独自に新商品拡大に向けての打ち合わせを実施してくれたり、会社の課題に長年なっていた運送費改善に向けて自ら動いてくれたり……と行動に変化がみられています。

 人事評価制度導入の大きなテーマとして「自律」を掲げています。

 これまでは社員が自分で決定して会社を動かす経験はあまりありませんでした。しかし、主体的に動くことで、今まで見えていなかった視点に触れられますし、何といっても周りを動かすことはとてもパワーがいることですが、やり遂げることで「度胸」も身につくと思っています。

 今はまだ小さな変化かもしれませんが、今後はそれが会社の文化に成長できるように制度を確立していければと思ってます。

 ツギノジダイでは、ほかにも、人事評価制度の構築や改善に取り組んできた企業を紹介しています。編集部が注目する企業は次の通りです。

 創業1689年の老舗、聖護院八ッ橋総本店(京都市)では、専務の鈴鹿可奈子さんは人事評価制度を採り入れるときに従業員の意識を変えることを大切にしています。

 「数字の導入をすると、部署によって甘い人と厳しい人がいて、すりあわせが必要になります」として、その基準に慣れてもらうため、急がず、少しずつ改革を進めているといいます。

 岩下の新生姜で知られる岩下食品の岩下和了社長も、組織改革の過程で「目標への貢献が公正に評価され、納得感のある査定につながるよう、目標管理と人事評価制度を構築しました」と話しています。

岩下食品は初代の岩下源次郎氏が1899(明治32)年、乾物・野菜類の小売業として創業し、戦時中、軍納品として漬物製造業に着手。1955年に株式会社化し、86年に現在の岩下食品に社名変更。87年に発売した「岩下の新生姜」がロングセラー商品になり、「岩下のピリ辛らっきょう」も人気になった。4代目の岩下和了さん(写真)は2004年に社長就任。15年に「岩下の新生姜ミュージアム」を開館するなど、大胆なマーケティング戦略を進めている(写真はミュージアム内で撮影)

 多品種少量生産の製品を強みにしている「日本丸天醤油」は、すべての製造ラインが毎日フル稼働することはありません。

 製造部のメンバーは、各ラインの対応技術を身につける必要があります。そのために毎年、技術向上の目標を立てて、達成度を人事評価につなげたところ、会社と従業員双方の納得感が高まったといいます。

 人事評価制度を導入する場合は、あらかじめメリット・デメリットも把握しておきましょう。

 人事評価制度のメリットは、企業のビジョンに沿った評価制度をつくることで、企業の目指したい方向と社員が成長したい方向性の目線を合わせることができます。目線を合わせることができれば、キャリア形成の後押しにもつながります。

 一方、デメリットとしては、それぞれの社員の処遇に影響するため、役職者は評価をするという物理的な業務負担だけでなく、評価結果に納得しない部下からの不満を受け止めなくてはならないという精神的な負荷もかかってきます。

 社労士の緒方瑛利さんは記事「人事評価はなくても大丈夫?人事評価制度の基本から導入フローまで解説」のなかで人事評価の導入手順を次のように示しています。

  1. 人事評価の目的を決定
  2. 評価基準・項目の策定
  3. 評価に対する処遇の策定
  4. 評価フォーマットの策定
  5. 従業員への説明・評価者への研修・教育
  6. 導入、運用・フィードバック

 人事評価制度を運用していくなかで、どうしても主観は除けないので時には評価に不満を持つ従業員が出てくることもあります。その対処法を緒方さんは次のように説明しています。

 対応としては、まず評価基準・項目と評価プロセスの説明を再度行います。  それでも処遇に納得がいかない、という場合は評価者の変更やフィードバックを意識して増やすなどしましょう。

 この対応を実施している段階で従業員が不満を発した時から3カ月は経過していると思います。段階を踏み、時間をかけて対応すると、従業員も組織がきちんと自身のことを理解しようとしてくれていると感じるようで、ここまでで不満が解消されるケースがほとんどです。

 最終手段は、その従業員が評価してほしいポイントを尋ね、評価基準・項目を再考することです。こうならないためにも制度導入の初期段階で、従業員全員から評価してほしい項目を募集しておくのも良いでしょう。

人事評価はなくても大丈夫?人事評価制度の基本から導入フローまで解説

 最後に人事評価制度を進めていく上で役立つキーワードを紹介します。

 360度評価とは多面評価とも言います。定義としては「直属の上司だけでなく部下、同僚、顧客など会社にかかわるさまざまな人間からの評価を行うこと」とされています。

 人事評価制度では今まで、上司が部下を評価する制度が一般的でしたが、様々な企業で導入が進んでいます。

 MBOとは、個人や組織ごとに設定した目標の達成度を管理する手法です。個人の目標と組織の目標をリンクさせて、業務効率性の向上、社員教育、業績改善を目的とします。
 同じ業績管理ツールでも、OKRは全社や組織の目標達成の進捗管理を行う業績管理ツールです。

 テレワークが普及する中で必要なマネジメント業務は、お互いに顔を合わせて仕事をするときとは求められるスキルや業務が異なります。そのため「リモートマネジメント」として、別のスキルが必要になることも意識しておきましょう。