ローラーを歯の上で転がすだけで…父の技を継いで磨いたクルンの歯ブラシ
大阪市の「クルン」が作っている歯ブラシはブラシ部分がローラー型だ。歯の上で転がすと、通常の歯ブラシの約20本分に相当する1万7千本以上の極細のナイロン糸が歯垢(しこう)を絡め取る。歯周病にも効果があるという。最近は電動式も開発し、「歯磨き革命」を掲げて普及に力を注ぐ。(扇谷純)
大阪市の「クルン」が作っている歯ブラシはブラシ部分がローラー型だ。歯の上で転がすと、通常の歯ブラシの約20本分に相当する1万7千本以上の極細のナイロン糸が歯垢(しこう)を絡め取る。歯周病にも効果があるという。最近は電動式も開発し、「歯磨き革命」を掲げて普及に力を注ぐ。(扇谷純)
ブラシは約1100本のナイロン糸でできた円盤状の羽根を16枚重ね合わせている。糸の直径は髪の毛ほどの0.076ミリ。毛先が歯や歯茎の間に入り込み、毛細管現象で汚れを吸着して取り除く。
林伸彦社長(48)は「歯をこすって歯垢をかき出す従来のブラシに比べ、磨き残しが少ない。毛が極めて細く、軟らかいので、歯茎を傷つけにくく、マッサージ効果も高い」とアピールする。歯磨き粉を使わなくても大丈夫だ。舌の上で転がせば、口臭などの原因とされる舌苔(ぜったい)のクリーニングもできるという。
記者も試しに1カ月ほど使ってみた。「軽く転がすだけで?」と半信半疑だったが、確かに歯がツルツルになる。普通のブラシでは磨き残しが気になっていた歯のすき間や裏側もきれいになっているように感じた。
このユニークな製品が誕生したのは20年ほど前のことだ。不動産業を営んでいた林さんの父、功さんが仲間と会社をつくって開発した。特殊な形状のため、製造機械を設計から自前で作り上げるなど苦労を重ねたという。
長年スウェーデンで暮らしていた林さんは10年前に帰国して父の後を継ぎ、新会社クルンを創業した。製造技術を改良し、ナイロン糸の強度を保ちつつ太さを当初の半分以下にすることに成功した。手間のかかる羽根の加工に超音波を導入するなどし、さらなる量産化に道を開いた。
大型雑貨店での実演販売やテレビ、ネット販売などを通じて知名度は徐々にアップしており、出荷数は年30万~40万本、累計では300万本を超えた。タイ、中国、ベトナムなどで展示会に出品し、海外への売り込みにも努めている。
「よい商品だが、ゴシゴシ磨く満足感が乏しい」という利用者の声に応えて、3年前から音波振動式の電動タイプを加えた。今年は、機能を充実させた新商品を相次いで売り出している。林さんは「ローラー型ブラシは力を入れずに磨けるので高齢者にも最適です。口腔(こうくう)ケアによって健康寿命を延ばすことに貢献したい」と意気込む。(2020年11月7日付け朝日新聞地域面掲載)
社員7人、年間売上高5千万円。2017年に中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選ばれた。歯ブラシは税別で手動タイプ750~800円、電動タイプ2000~6000円。ネット通販のほか、東急ハンズ、ロフトなどで扱っている。
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