デザイン経営は実践フェーズへ 中小企業こそ効果を出しやすい理由

クリエイティブ企業・ロフトワークは2020年11月、中小企業のデザイン経営の実践を支援する「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」を開講しました。公募で選ばれた全国31社のデザイン経営の取り組みを7カ月にわたって後押しします。「Dcraft」の講師を務めるHAKUHODO DESIGN代表の永井一史さんに、プロジェクトの意義とデザイン経営を中小企業が取り入れるべき理由を伺いました。
クリエイティブ企業・ロフトワークは2020年11月、中小企業のデザイン経営の実践を支援する「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」を開講しました。公募で選ばれた全国31社のデザイン経営の取り組みを7カ月にわたって後押しします。「Dcraft」の講師を務めるHAKUHODO DESIGN代表の永井一史さんに、プロジェクトの意義とデザイン経営を中小企業が取り入れるべき理由を伺いました。
経営にデザイナーを巻き込み、プロダクトにとどまらず、組織体制、製造プロセス、価値の届け方からビジネスモデルまでをデザインする「デザイン経営」の実践を考える7カ月間のプログラム。ロフトワークが主催し、中小企業庁の「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ビジネスモデル構築型)」を受けている。
中小企業31社が参加し、地域は北海道から沖縄まで、業種も農業、食品加工、不動産、織物業、金属製品製造業、ゴルフ場運営など多岐にわたる。各社はデザイナーらによる講義をオンラインで受講し、2021年5月までにデザイン経営に基づいた事業計画書をまとめる。期間中の2021年2月には、参加企業以外も対象にした全国大会も開く。
――永井さんは2018年、経済産業省・特許庁の「産業競争力とデザインを考える研究会」の委員として「『デザイン経営』宣言」の策定に関わり、デザイン経営を主導する立場です。Dcraftの意義をどのように感じていますか。
「『デザイン経営』宣言」は、どちらかといえば大企業に向けた提言でした。しかし、研究会のメンバーは当時から、日本の99%を占める中小企業をデザインの力で改革することも重要という認識を持っていました。
「宣言」の発表後、デザイン経営の重要性は中小企業にも伝わり、実践のフェーズに移行した印象です。Dcraftでの取り組みがひとつのモデルケースとして広まることで、デザイン経営がさらに浸透することを期待しています。
――Dcraftには、多様な業種や規模の企業が31社参加しています。中には創業数百年の企業もあるそうですね。
中小企業の経営者は現状に切迫感を持っており、それを変えるヒントをデザイン経営に求めているのではないでしょうか。
――永井さんはデザイン経営を「パーパス(企業の社会的存在意義)を見定め、組織文化を構築し、新たな価値を創造し続ける経営手法」と定義されています。「パーパス」とは何かを教えて下さい。
企業が目指すべき方向で、従来の「ミッション」や「ビジョン」と近い概念です。しかし、ミッションやビジョンが「我々はこうありたい」という1人称の視点である一方、パーパスは社会からの視点を強く意識します。
社会の側から「なぜ、何のために存在しているのか」と自ら問うものといえます。自社が提供したい価値と、世の中が求める価値をすり合わせ、「私たちが実現したいこと」を言葉にする。それがパーパスです。
――なぜ、パーパスがデザイン経営の出発点になるのでしょうか。厳しい時代だからこそ、理念を考えるより先に、新しい事業開発に邁進する方が即効性もあるのでは。
もちろん、パーパスを決めれば安泰というわけではありません。しかし、目指すべき方向が決まっていなければ、うまく走り出すことはできません。自社が何者であるかを定義できなければブランディングはできず、どんな価値を提供したいかを分かっていなければイノベーションも起こせません。企業側が提供したい価値を、生活者や社会と共有できなければ、一方的な押し付けになってしまいます。
パーパスの重要性と企業規模の大小は関係ありません。新型コロナウィルスの影響などで、様々な業種の企業が事業の根本的な見直しを迫られる中、「そもそも自分たちは何のために事業をしているのか」という本質的な問いかけが、ブランディングとイノベーションの出発点になります。
大企業はコーポレートブランディングとして行うケースが多いですが、中小企業はあまり進めてこなかったのではないでしょうか。一方、経営者の「思い」は、規模の小さな組織のほうが社内に浸透しやすいはずです。その意味では、むしろ中小企業の方がパーパスを定めることによる効果を出しやすいといえます。
――事業承継の場合、創業時からの理念があっても、時代に合わない、変えたほうがいいと考える経営者は少なくないと思います。
パーパスはまず事業の本質を見つめることが大切で、変えること自体を目的にすると本末転倒になります。
事業承継において、時代の変化に応じて会社を大きく作り替えなければならないという経営者の危機感は理解できます。ただ、創業から連綿と続いてきた歴史や文化は、企業の立派な資産で、競争力の源泉です。そこを大きく変えるより、いかに時代に合わせた形に引き継ぐかという視点で問いかけることが重要だと思います。
どんな企業も、創業時は組織に一体感があります。しかし、段々と規模が大きくなって事業が多角化すると、自分たちが何のために事業をしているのか、どんな価値観を大切にしたいのかを見失うことがあります。その時に役立つのがデザイン経営の方法論です。デザインの視点から、事業の本質を見つめ直し、企業が向かうべき方向と共有すべき価値観をアップデートしていくのです。
――なぜ、デザインの視点は事業の本質を見つめることにつながるのでしょうか。
私がデザインについて説明する際、「経済性、文化性、社会性という3つの軸が交わるところを探る行為です」と言います。経済性とは利益を、文化性や社会性は人々の暮らしや社会課題にどういう貢献ができるかを考える視点です。利益はもちろん大切ですが、企業は社会的な存在でもあるので、世の中にどのように役立つのかという視点も欠かせません。
経営環境が厳しくなると、単年度の利益を追求するような風潮が強まるのはやむを得ない面もあります。しかし、そこだけに軸足を置いていては、生活者に共感される事業を生み出すのは難しい。経済性、文化性、社会性という多様な軸で考えるデザインの視点を入れることで、企業は俯瞰的に事業を見つめ直し、自社の提供価値を再定義できるようになります。それがデザイン経営の意義なのです。
後編では、中小企業がデザイン経営を実践するための具体的なポイントについて、解説します。
※ツギノジダイは「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」を、メディアパートナーとしてサポートします。期間中、Dcraft参加企業のデザイン経営実践例など、様々なコンテンツをお届けする予定です。
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