下請けが値下げ要求されたら?応じる前に10のチェックリストで事業を見直し
取引先から値下げを求められたら「下請けだし、応じるしかない」と受け入れてしまうのは中小企業でよくある光景です。一方、収益性を考えて「どこまで応じられるか」と不安になる後継者も多いのではないでしょうか。地方の中小企業再生に関わってきた筆者が、値下げを要求された時に事業全般を見直すための「10のチェックリスト」を作成しました。
取引先から値下げを求められたら「下請けだし、応じるしかない」と受け入れてしまうのは中小企業でよくある光景です。一方、収益性を考えて「どこまで応じられるか」と不安になる後継者も多いのではないでしょうか。地方の中小企業再生に関わってきた筆者が、値下げを要求された時に事業全般を見直すための「10のチェックリスト」を作成しました。
目次
取引先から値下げ要求があると、つい反射的に応じてしまう中小企業も少なくありません。実際に「原価低減のネタ」を探している後継者の方もいるでしょう。
筆者は家業の倒産をきっかけに事業再生の道に進み、苦境に立つ会社に関わってきました。多くの会社が「社員が真面目に働く割に儲かっていない」、「経営レベルで誤った判断をしたため、現場で挽回できなくなっている」というのが現実でした。
大切なのは、事業継続のために収益を確保することです。価格は重要ですが、手段の一つに過ぎませんし、顧客が求めているのは価格だけではありません。
値下げを要求された場合、「自社はどこまでの価格だったら耐えられるか」を計算して経営判断を下さなければいけません。ところが、以下の悩みを抱える会社が実際にありました。
取引先からの値下げ要求に対応しつつ、収益を確保していくための具体策を突き詰めると、「戦略」「組織」「数字や契約の把握」といった事業全般の見直しに突き当たります。
他社で勤務経験のある後継者には、「自社の収益性は適正基準なのか」などについて「違和感」を持っている方もいると思います。その「違和感」は大切で、事業全般を見直す上で大きなヒントになります。今回は事業全般の見直しにつながるよう、チェックリストを作成しました。
下記のリストの中で、①②③の経営上で重要な数字と契約内容の把握は特に重要です。決算等の会計関係に加え、顧客別収益などの経営に必要な数字を把握していないと、コストダウン要求された際も、それを受け入れていいかどうか対応できません。
※損益分岐点:損失と利益が分岐する売上高
※直接原価計算:製品原価に変動費のみを集計して計算される原価計算制度
中小企業が儲からない要因の一つに、「数字・契約書オンチのまま、カモにされている」という点があります。サッカーに例えると、ルールも理解せず、道具の準備も無しに試合に出るようなチームが果たして勝てるでしょうか。「オンチ」のままでは人材採用や人材育成に加え、働き方改革に必要な原資の確保も資金繰りの安定化も難しいままです。「カモ」にされている組織では、社員も安心して働けません。
それでは、「カモ」にされないためには、どうすればいいでしょうか。2つのポイントを補足します。
特定の取引先に依存するほど交渉力は弱くなります。コロナ禍で「昔から使っているから安くしろ」と、下請けに無理な値下げを求める企業もあるようです。この場合は、チェックリスト②の「顧客別収益」「売上依存度」を冷静に計算して、判断することが重要です。
昔からの取引先が必ずしも利益をもたらしてくれるとは限りません。たとえ、それが親族や同じ学校の先輩の会社であってもです。
筆者は現在、建設会社に所属しています。建設業に仕事を発注することが多い不動産会社にとって、「工期・スピード」は重要な判断基準です。ところが、不動産会社に話を聞くと、多くの建設会社が「当社はこのプロセスを何日短縮できる」といった工期ではなく、受注金額の「安さ」を売りにした提案がほとんどといいます。相手のニーズに合致しない提案をして、自分たちの身を削っているのです。
前述のとおり「事業全般の見直し」は重要ですが、当然ながら、コスト自体も見直しの余地はあります。コストには様々な分類方法がありますが、今回は2つに分けて考えます。一つは、材料費や外注費、販促費、物流費等、社外に支払いが発生する「外部コスト」、もう一つは労務費等、社内での支払いが必要な「内部コスト」です。
外部コストに関しては、既存取引先との関係性の見直しから始めましょう。「昔ながらの取引先に頼んでいた製品を、オンライン経由で別の会社に発注すると何割も安くなった」というケースが実際にあったそうです。企業経営においては、以下のように「不都合な真実」が隠されている場合があります。後継者の方は特に確認した方がいいでしょう。
内部コストに関しては、効率化できることの洗い出しから始めましょう。
実際に「数百名のアンケートを紙とFAXで行っていたため、集計に膨大な時間がかかり、事務職員の残業代がかさんでいた」というケースがありました。これも無料のオンラインアンケートのツールを使えば、半日程度で集計が出来ます。内部コストについても、以下のような問題が埋もれている可能性があります。
特に製造業、建設業等では、外部コストの方が全体に与える影響は大きいです。ただ、外部、内部いずれの場合も、売上に影響しない範囲でのコストダウンであることが前提です。顧客によってはコストよりも納期を優先することもあるので、「顧客の判断基準」について正確に理解する必要があります。
最後に、事業を承継したばかり、あるいはこれから承継する予定の20~30代の方に役立てばと思い、筆者の経験を紹介します。
筆者は20代前半のうちから、ファンドマネージャーとして50~60代の経営者と向き合わなくてはいけませんでした。東北では、東日本大震災の後、遺書を書こうとする経営者夫婦にもお会いしました。「経営は命のやり取り」と業界の諸先輩方に厳しい指導を受ける中、紹介されたのが「経営コンサルタントの元祖」と呼ばれる「一倉定(いちくら・さだむ)」氏に関連する本でした。大企業向けの本が多い中、一倉氏の本は実戦的かつ徹底して中小企業向けに書かれており、先述のチェックリスト作成においても参考にしています。
また、経営者達と向き合う中で、役立ったのがエクセルとパワーポイントです。優れた勘で事業を伸ばしてきた経営者が多い一方、それを数字で補足したり、表に落とし込んだりするのは苦手な方も多いです。チェックリストで紹介した顧客別収益管理も、特別なシステムは不要で、エクセルで十分可能です。
不安や恐怖は目に見えないと増幅します。数字と表で目に見えるデータで論理的に整理すると、経営者の不安や恐怖は和らぎます。その繰り返しの中で、少しずつ信頼を得られました。
筆者は建設業専門紙での連載を通じた発信、可能な範囲で、SNSを通じた建設業経営者の方の相談に乗っています。参考文献も以下に記載していますので、役立てていただければ幸いです。
【参考文献】
「一倉定の経営心得」(一倉定著、日本経営合理化協会出版局)
「一倉定の社長学」 (作間信司著、プレジデント社)
「一倉定"社長学"実践「Sフレーム」のすすめ」 (関洋一著、日本図書刊行会)
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