伝統の「桐たんす」のコンセプトを再定義 価値の伝え方にクラファン活用
大正8年(1919年)創業、「大阪泉州・桐箪笥(きりたんす)」を手がけるこだわりの工房が大阪府岸和田市にあります。かつて350軒近くあった泉州桐箪笥屋も今や6軒を残すのみとなりました。伝統を守り未来につなげたい、という思いをいまの時代に合わせることで、新しい商品が生まれました。コンセプトの再定義を手伝った岸和田ビジネスサポートセンター(Kishi-Biz)から紹介します。
大正8年(1919年)創業、「大阪泉州・桐箪笥(きりたんす)」を手がけるこだわりの工房が大阪府岸和田市にあります。かつて350軒近くあった泉州桐箪笥屋も今や6軒を残すのみとなりました。伝統を守り未来につなげたい、という思いをいまの時代に合わせることで、新しい商品が生まれました。コンセプトの再定義を手伝った岸和田ビジネスサポートセンター(Kishi-Biz)から紹介します。
社員が10人。そのうち5人が伝統工芸士という「田中家具製作所」(大阪府岸和田市)の田中由紀彦社長から最初に受けた相談は次のような内容でした。
大阪泉州の桐箪笥は、細部にわたる職人の技から『桐箪笥の最高峰』と言われ、経済産業大臣による伝統的工芸品にも指定されています。私たちは江戸時代から続く、この日本独自の桐箪笥の伝統の技を引き続き未来につなげていきたいと、心を込めて、昔ながらのこだわった技法を守り、桐箪笥を作ってきました。
でも市場に出回っているのは質の悪い材料を使ったり、桐の薄板を張り付けただけだったりする物が多く、それを本物の桐箪笥だと思って購入されてしまう方も多いんです。
写真を示しながら、良いたんすとそうではないたんすの見分け方を熱心に話す田中社長から「泉州桐箪笥という伝統工芸を守りたい」という熱意と「本物の桐箪笥の良さを知ってもらえない」という悔しい気持ちが強く伝わってきました。
桐箪笥の良さを現在のライフスタイルに合わせられるように、岡崎ビジネスサポートセンター(OKa-Biz)の秋元センター長と連携し、桐箪笥のコンセプトを再定義することにしました。
桐箪笥はこれまで主に着物を収納するために使われてきましたが、いまでは着物を持っている家庭は少なくなっています。
そこで、桐箪笥の役割を「大切な物を守る」と再定義しました。新型コロナの影響で手元に現金を置く人が増えているという状況と合わせて考えるなかで、「たんす預金専用の桐だんす」という新商品を提案しました。
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以前にOKa-Bizのサポ―ト事例で、クラウドファンディングで伝統工芸品の知名度を上げ、継続的な売り上げ向上につながった事例がありました。そこで「大阪泉州・桐箪笥(きりたんす)」の良さを広く知ってもらうために、今回もクラウドファンディングを利用して先行販売することにしました。
とは言え、クラウドファンディングをやったことがない社長の初めて取り組みです。とあるクラウドファンディングサイトでは「売れる見込み」がないと門前払いをされました。写真や動画は大切ですが、お金はかけられません。そこで、光源や布を知人に借り、田中社長が自分で撮影しました。
文章も桐箪笥のこだわりを伝えようとすると、専門用語が出てきてしまい、万人には伝わらなくなってしまいます。今回の取り組みは、桐箪笥の良さをたくさんの人に知ってもらうための取り組みです。そのため、どんな人にもわかる桐箪笥の良い所の伝え方に力を入れました。
心がけたのは、材料や技術の話だけではなく、箪笥を使ってくれる人にとってどんな良いことがあるのかです。本物の桐箪笥の良さは、大きく分けて4つあります。
こうした良さを伝えるために、動画や写真で工夫しました。
たとえば、「気密性」では、箪笥を上向きに置いて引き出しから手を離すと、少しずつゆっくりと閉まっていく様子を動画で紹介しました。
桐箱の中にアイスクリームを入れて45分間燃やしたところ、内部のアイスクリームは少し溶けただけで残っていたという以前の実験写真が残っているというので、こちらも掲載しました。
クラウドファンディングを始めてみると、開始から3日で目標金額50万円を達成し、最終的に166万5500円(達成率333%)に到達しました。
また、新聞やテレビにも注目され、その過程で「洗い替え」という50年、100年前の桐箪笥を新品のように蘇らせる技術も注目され、報道されました。
その結果、クラウドファンディング終了後も「大切なものを守るための桐箪笥が欲しい」と依頼を受け、オーダーメイドの桐の金庫が大・小含め8件、1000万円ほどの売り上げになりました。
今まで着物を守るために使われてきた桐箪笥ですが、それ以外にも貴金属や書類(B4の書類を入れるためオーダーメイドで製造)、遺骨を大事に守りたいという注文まで入るようになりました。また、洗い替えの注文も以前の3〜5倍ほど入るようになり、遠方から指名で注文が入るようにもなりました。
Kishi-Bizには毎日たくさんの相談者が訪れます。もちろん日々真剣に考え、商品やサービス提供にこだわりをお持ちの方ばかりです。
しかし、必死に自社の商品やサービスの事を考えるがゆえに、その技術や素材など作り手の目線で自社の良さを伝えようとされている方が多い事を感じます。
全国にあるBizモデルの師匠の言葉ですが、「消費者目線で考えろ」ということをいつも頭に置き、そのこだわりの技術や素材を使う事で、お客様にどんな良い事があるのか、と考えるだけで今までとは違った伝え方やターゲットが見つかるかもしれません。
今回はたまたまクラウドファンディングや新商品開発という手段で良さを伝えるサポートをしましたが、それがチラシでもSNSでもブログでも、伝えたい相手に、その相手にとっての良い事が伝わればいいと思います。
「顧客目線でこだわりを伝える」。もしも何かに行き詰まってしまった際は、一度ここに立ち戻ってみられてはいかがでしょうか。
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