ライブ配信は中小企業の「必須科目」に 準備に不可欠なポイントは
新型コロナウイルスの影響で、オンラインのライブ配信イベントが急拡大しています。中小企業も、製品紹介や自社のPRのために自ら配信環境を整え、発信するケースが増えてきました。配信環境の準備に不可欠なポイントや、注意点などをまとめました。
新型コロナウイルスの影響で、オンラインのライブ配信イベントが急拡大しています。中小企業も、製品紹介や自社のPRのために自ら配信環境を整え、発信するケースが増えてきました。配信環境の準備に不可欠なポイントや、注意点などをまとめました。
目次
筆者は地方の中小企業で営業職などを経験した後、朝日新聞社に移り、システムエンジニアや編集者を経て、社が関係するライブ配信イベントの企画や裏方などを務めています。その経験を踏まえ、中小企業におけるオンラインイベント開催のポイントを説明します。
コロナ禍で大規模な展示会が無くなり、商品をPRできる場所がオンラインに軸足を移しました。新しい商品やサービスを届け、自社の認知を高めるために、中小企業にもオンライン配信が「必須科目」になりつつあります。採用の観点からも、オンライン配信は重要です。志望する大学生にオンラインの活用が定着する中、企業側も求人や広報宣伝などで、慣れておくべきでしょう。
今まではイベントと言えば、何千人規模をイメージしていたかもしれません。しかし、オンライン配信は物理的に離れていても、双方向で密なコミュニケーションが取れ、まるで喫茶店で話している感覚で、顧客に親しみを持ってもらえる可能性が高まりました。
筆者が視聴したオンラインイベントでは、ユーザーに製品やサービスの使い方を説明してもらったり、座談会を開いたりしているケースがありました。地方企業では、顧客が遠方にいるケースも少なくないですが、より生に近いユーザーの声を聞くことができ、自社への共感を高めるチャンスが増えていると感じます。
オンライン配信イベントは、パソコン1台でも可能です。新しいパソコンなら、テレビ会議を前提とした高性能の内蔵カメラやマイクを備えているので、写りもいいし、声もクリアに拾えます。パソコンにZoomなどを組み合わせ、テレビ配信の延長で慣れたところから始めるのが、第一歩になるでしょう。
よりレベルアップするなら、まず手を付けるのはマイクです。ヘッドセットのように、口の真横で使えるマイクで、他の雑音が入らないようにするのがいいでしょう。4000円くらいでも、高性能のものが手に入ります。より映像に凝りたい場合、内蔵カメラで気に入らなければ、どうすればいいでしょうか。
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高性能のWEBカメラを用意してもいいですが、まずはコスト面も考え、照明を変えてみましょう。安いカメラでも周囲を明るくすれば、映像がきれいになります。強い光は顔の凹凸を強調するので、周囲に白い紙を敷いて光を反射させたり、トレーシングペーパーを手前に置いたりして柔らかい照明にするのがベターです。それでも満足しなければ、次はカメラの購入という順番になります。
カメラを選ぶとき、すでに持っている物で間に合わせようとするのは危険です。2019年2月以前に発売されたデジタルカメラの中には、EUとの関税の関係で、30分以上は録画できない機種もあります。リスクが高いので、なるべく新しいものを使う方が問題が起きにくいでしょう。動画モードでも常に顔や瞳にフォーカスしてくれる機能があるカメラを選ぶとピントが外れにくいです。
また、小さなカメラだと、長時間連続で使用すると熱がこもりやすく、動作が止まる可能性があるので、気をつけて下さい。スマートフォンも同様です。リハーサルと本番を合わせた使用時間を想定して、テストして下さい。
ずっと同じアングルの映像で配信すると、視聴者が飽きてしまいます。テレビ番組などを見れば、4~5秒で場面が変わるのに気づくはずです。ライブ配信用に、映像を切り替えるスイッチャーの需要も高まっており、10万円以下のものに人気が集まっています。
登壇者がAとBの2人いるとすれば、A、B1人ずつとA、B両方を写すカメラの計3台があると、望ましいです。商品説明などで登壇者が1人の場合は、商品のデモをする際の手元をアップで写すなどして映像を切り替えましょう。
ただ、スイッチャーが無くても、投影する資料をこまめに切り替えるなどして、飽きさせない工夫はできます。一足飛びに機材を何でもそろえるのではなく、ステップを踏んでから、必要性と投資金額に見合うかを考えてほしいと思います。
ZoomやYoutubeなどの配信用のプラットフォーム選びも重要です。一方通行的か、双方向を求めるのか、用途に応じて考えた方がいいでしょう。
新商品発表会など認知拡大が目的なら、ZoomウェビナーやYoutubeなどの使用が考えられます。ただ、ユーザーとの深いコミュニケーションを求めるなら、ZoomミーティングやMicrosoft Teamsなど、テレビ会議に近いものが必要です。
酒造会社が自社の酒を事前に送ったうえで、オンラインのファンミーティングを開き、蔵元が参加者に飲み方や酒に合うおつまみなどを伝えて、エンゲージメントを高める例も出ています。ユーザーとの密度をどの程度求めるかが、プラットフォーム選びの基準になりそうです。
配信時間の全てを生放送にする必要はありません。例えば、観光地の紹介イベントなら、名所などは事前に収録した録画を流しても問題ありません。ライブ配信は集中力が必要ですから、生放送の時間が長ければ長いほど操作ミスのリスクも伴います。インフォメーションはビデオで流し、コミュニケーションが必要な質問コーナーを生放送にするという使い分けもできます。
テレビ番組で、生と録画をどのように使い分けているかを意識してみてください。私たちは10数分ごとにCMが入る生活に慣れています。オンラインで長時間流すなら、緩急を意識しましょう。
朝日新聞社の同僚から「ライブ配信は総合格闘技」と言われたことがあります。配信は、映像、音声、ネットワークといったあらゆる技術をまとめなければ成立しません。中でも一番難しいのが、ネットワーク回線です。
鉄則は配信会場の回線を事前に確認し、なるべく良質な回線を確保することです。Wi-Fi(無線LAN)ではなく有線LAN、できれば光回線を単独で使用できる環境が望ましいでしょう。スタジオを借りる際も、回線環境の確認が最優先です。Wi-Fi環境があるだけでは不十分になります。公共施設などの場合、配信のための通信が遮断されている場合もありますので、要注意です。
リハーサルはなるべく配信当日と同じ曜日、同じ時刻に行って下さい。その曜日や時刻に、自社の情報システム担当者や営業マンがいつも一斉に回線を利用しているなど、ネットワークが混み合う場合があるからです。
NETFLIXのFast.comのように、インターネット速度を測れるサイトもあります。配信はサーバーに向けて送る方向の通信なので、特に「アップロード(上り)」の数値に着目しましょう。この数字が大きいほど、通信環境の安定性が高いと言えます。回線の安定性は、ライブ配信の最重要項目です。特に自社以外の場所で行う場合は、気をつけて下さい。一度もテストしないで本番に入るのは危険です。
オンラインイベントだからといって手軽にできるわけではありません。リアルイベントと同じくらいの準備や告知の期間が必要です。
リアルイベントではあらかじめ、台本や準備設営のための会場入り時間から始まる香盤表(スケジュール表)を作ってリハーサルを行いますが、オンライン配信も同じです。むしろ、配信機材のテストも必要なので、余計に手間が掛かるかもしれません。機材がちゃんとつながっているかどうか。マイクなら声が入るか、ノイズが入らないか、予備が足りているかを把握しておきましょう。筆者の場合は予備のケーブルまで、すべて事前に動作確認します。
手広くかっこよくイベントを開こうと思うほど、手間が掛かります。スピード感を持って開催したいなら、カメラなど機材の点数を減らすべきでしょう。しっかりと機材やケーブルなどの配線図を描き、ケーブルやコネクタをテプラなどで色分けして早くシステムを組み上げられるように準備することも大切です。
まずはイベントの要件を定義して、自社がライブ配信イベントで何を伝えて、どこまで風呂敷を広げるかを考えるのが先決です。自社のブランドイメージを広めるなら、より多くの人を集めた規模感のあるイベントにする必要がありますが、ユーザーとのコミュニケーションを深めるなら、必ずしもそうではありません。
安心安全な配信環境を保ちつつ、どこを省いたらコストが下がるのかを経験豊かな人に相談し、目的に合った配信の規模感を見つけて下さい。
イベント配信をサポートする業者も増えています。自分が知らないことに対して、単純に料金を値切るのは危険です。自社でできることを明確にして、できないことは任せるという責任の分岐点を決めておきましょう。ただ、自分たちも配信に関する勉強が必要です。そうしないと、市場価格が分からず、業者の見積価格が適正かも判断できません。
ライブ配信は、フェイスブックなどSNSのコミュニティーでの情報交換が盛んです。知識を深めるためにはグループに参加して相談するのも有効です。筆者自身、SNSなどを通じて経験豊かな知人を増やし、ライブ配信の知見を深めました。自社の業種以外でも知恵袋になるような仲間を見つければ、大きく前進します。
オンラインイベントで直接の購買につなげるのは難しくても、自社への理解を広め、イメージを上げるために、ユーザーとコミュニケーションを取ることはできます。配信が手軽にできるようになれば、自社でテレビ局やラジオ局を抱えるようなもので、顧客とのエンゲージメントを高める手段として有効です。経営者や営業担当者らが、オンラインでのプレゼンに磨きをかけるのは、避けて通れないという印象です。
コロナ禍でオンラインでのコミュニケーションに慣れた学生が、次々と社会に出てきます。筆者自身、企業のライブ配信担当の一員として、若者とのコミュニケーションの取り方を吸収し、変化に対応することが求められていると実感しています。
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