販促に生かす「ライブ配信」のやり方 機材の選び方や補助金を解説
新型コロナウイルスの感染拡大で、顧客とのつながりを深め、販促に生かすライブ配信のやり方を知りたい中小企業が増えています。配信用機材の販売や配信のコンサルティングを手掛ける「プロ機材ドットコム」代表の森下千津子さんに、必要な機材の選び方や、活用できる補助金申請のノウハウなどを伺いました。
新型コロナウイルスの感染拡大で、顧客とのつながりを深め、販促に生かすライブ配信のやり方を知りたい中小企業が増えています。配信用機材の販売や配信のコンサルティングを手掛ける「プロ機材ドットコム」代表の森下千津子さんに、必要な機材の選び方や、活用できる補助金申請のノウハウなどを伺いました。
目次
プロ機材ドットコムは沖縄県に拠点を置き、元々は写真館やCMスタジオ向けに、スチルカメラ用の機材を扱っていました。2、3年前からライブ配信事業に力を入れ、機材販売や配信システムの提案をしていましたが、顧客からの問い合わせは、多い月でも1件程度でした。しかし、コロナ禍で状況は一変しました。
森下さんは「コロナ禍以後は月に20件ほど、ライブ配信の新規問い合わせが来るようになりました。中小零細企業や個人事業主が顧客で、製品やサービスのプロモーション、就活セミナーへのニーズが高い傾向です」と言います。
森下さんはまず、問い合わせをした企業に、ライブ配信の目的やターゲットに関するヒアリングから始めるといいます。最低限、カメラやマイクを内蔵しているパソコンやスマートフォンがあれば、Zoomなどの配信プラットフォーム経由で配信することも可能です。森下さんはヒアリングの結果、顧客に「スマホだけでいいのでは」という提案をすることもあるそうです。
「最初に機材をたくさん買ってしまおうとする方も多いのですが、配信するコンテンツがはっきりしていないと、どんな機材が必要かは分かりません。まずはスモールスタートで、後から足りない機材を検討してもいいと思います」
それでもワンランク上の配信を求めるなら、まずはマイクの購入を勧めています。「映像は多少画質が粗くても伝わりますが、音が聞き取りにくいと、視聴者はつらいでしょう。カメラは高価ですが、プロ機材ドットコムで扱っているマイクは、安いもので3000円程度です」
配信用のカメラは、人数が増えて映したいアングルが増えるほど、台数が必要になります。高品質のカメラが望ましいですが、予算に限りがある中で、性能以上に大事なポイントがあるそうです。それは何でしょうか。
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森下さんは言います。「複数台を用意するときの鉄則は、同じカメラを使うことです。性能が低くても、同じカメラで撮影する分には、映像にそれほど違和感はありません。しかし、元々持っている古いカメラと、最新のカメラの組み合わせはNGです。カメラによって、色や解像感が違うので、高画質なカメラとそうでないカメラを同時に入れると、そうでない方が際立ってチープな映像になります。グレードを下げても同じものを導入するか、全部新しく購入するのが望ましいでしょう」
カメラと同じように照明も大切です。柔らかい光が顔全体に当たると、テレビスタジオのように映るといいます。なるべく前方から光を当てるようにするのがポイントで、光を壁に一度反射させてから当てるのも効果的です。
森下さんは、映像を切り替えるスイッチャーの導入も勧めています。「昔は数十万円もしましたが、今は3万円くらいから用意できます。スイッチャーを使えば、パワーポイントの資料の中に小窓で講師の顔を映したり、テロップを合成したりして、テレビ番組のような構成になります」
森下さんはライブ配信をサポートする際、顧客に「配信はトラブルがつきものです」と伝えているそうです。光回線に有線でつなぐなど、安定した回線の確保は必須ですが、どれだけ準備しても、配信プラットフォームの不具合など、主催側に責任のないところでのトラブルは起こり得ます。「万が一、不具合を起こした場合は、他の配信プラットフォームを用意するなどの備えが必要です」
ライブ配信の機材を本格的にそろえる場合は、まとまった資金が必要です。その際、中小企業向けの補助金を活用できる場合があります。中でも「小規模事業者持続化補助金」と「ものづくり補助金」について、顧客から相談を受けることもあるという森下さんや、中小企業庁への取材などをもとにポイントを説明します。
ライブ配信機材をそろえる際、小規模事業者持続化補助金が活用できる可能性があります。小規模事業者などが、経営計画を策定して取り組む販路開拓などを支援するのが目的です。2021年3月現在、上限50万円の一般型(補助率3分の2)と、同100万円の低感染リスク型ビジネス枠(補助率4分の3)があります。低感染リスク型ビジネス枠は、2020年3月下旬に公募要領が発表され、その後に申請受付が始まる予定です。
森下さんは「低感染リスク型ビジネス枠で、上限いっぱいの100万円を使うとすれば、総額130万円程度まで機材をそろえることができます。それだけの資金があれば、カメラ3~4台、スイッチャー、照明、マイク、音声ミキサーなど、必要なものがそろえられます」
ただし、注意点もあります。この補助金は、あくまで小規模事業者の販売促進をサポートするのが目的です。森下さんは「単に機材を買うというだけでなく、その機材を使った販促プロモーションの計画までセットで立てることが必要になります」
プロ機材ドットコムが過去に持続化補助金を申請した際は、機材の購入費だけでなく、コンテンツ作りの専門家にレクチャーを受ける費用にも充てたといいます。「機材を買って満足する人が多いですが、機材を使いこなすには専門家やアドバイザーの存在は大切です。補助金申請に向けては、そこまでの事業計画を作り込んだ方が望ましいです」
地元の商工会議所や商工会でも、小規模事業者持続化補助金を活用した機材購入や、販促プランの立て方について、アドバイスをもらえる場合があり、森下さんは相談を勧めています。
ものづくり補助金は、中小企業が新事業を創出するため、革新的な設備投資やサービスの開発、試作品の開発などをサポートする仕組みです。いくつかのパターンがありますが、「一般型」の補助金額は上限1000万円で、補助率は2分の1(小規模事業者は3分の2)です。ものづくり補助金にも2021年3月現在、低感染リスク型ビジネス枠が設けられました。上限は1000万円で、補助率は3分の2になっています。また、同枠では「広告宣伝・販売促進費」も補助対象になり、ライブ配信イベントの広告宣伝などにも適用できる可能性があります。
ライブ配信では大規模な設備投資への活用が想定されます。森下さんは「中小企業が広報目的で配信するというよりは、これまで映像配信に取り組んでいた企業が差別化のために、ものづくり補助金を申請するケースが想定できます」
コロナ禍でライブ配信が普及する中、ものづくり補助金が求める新規性、革新性を打ち出すのが難しくなっているといいます。森下さんは「ライブ配信に関してものづくり補助金を申請する際、他社との差別化を打ち出すのに、苦労することになります。ライブ配信でどうやって売り上げをアップさせるのか、という事業計画作りが大切です」と話します。
森下さんのクライアントで、ライブ配信を効果的に活用しているケースも紹介して頂きました。名古屋市で日本酒バー「ELLAS」を運営する田中順子さんは、新型コロナウイルスが広まり始めた1年前から、小規模事業者持続化補助金を活用。プロ機材ドットコムを通じて、カメラや照明、マイク、スイッチャーなど機材一式をそろえ、きき酒セミナーをオンラインで開催しました。
参加者に事前にお酒を送って、日本酒の蔵に取材した動画も流しながら、セミナーをプロモーションに活用しました。「お酒を飲むリアルな行為と、オンラインのレクチャーを組み合わせたことで、名古屋だけでは出会えなかった顧客とのつながりが生まれたそうです。私もセミナーを見て、日本酒を飲むようになりました」と森下さんは言います。
コロナ禍でライブコマースへのニーズも高まっています。視聴者がライブ配信を通じて、リアルタイムで質問したり、コメントを書き込んだりしながら、商品を購入できる仕組みです。プロ機材ドットコムも番組を運営しています。
「テレビのようなマス向けではなく、マニアックな方向でコンテンツを作っています。1回の視聴者が20人でも、6人くらいが商品を買ってくれます。アーカイブで見ても面白いような番組作りを心掛けています」
ライブコマースは、視聴者がリアルタイムでコメントできるなど、双方向のつながりが特徴です。プロ機材ドットコムは、沖縄県産品を販売する番組もプロデュースしており、「出演者に自由に発言してもらって、会話の掛け合いの中で面白いものを作っています」。
森下さんは、ライブ配信を手掛けようとしている顧客には「70点で構わない」と伝えているそうです。「映像を専門としない一般企業には本業があるので、100%の力は注げません。長期的に続けることを考えるなら、少ない労力である程度のクオリティーを保つことを意識しましょう」とアドバイスしています。
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